【おとな向け映画ガイド】
頭脳派マフィアの生涯－『ギャング・オブ・アメリカ』
ぴあ編集部 坂口英明
22/1/30(日)
今週末(2/4)の映画公開は19本。うち全国100館以上で拡大公開される作品が『大怪獣のあとしまつ』『ゴーストバスターズ／アフターライフ』『鹿の王 ユナと約束の旅』『355』の4本。中規模公開、ミニシアター系が15本です。今回はそのなかから、おとな向けの暗黒映画『ギャング・オブ・アメリカ』をご紹介します。
金は銃よりも強し
『ギャング・オブ・アメリカ』
マフィアを描いた映画の最高傑作といわれる『ゴッドファーザー』シリーズ（『ーPARTⅡ』)の中に、コルレオーネ・ファミリーと敵対する印象的なマフィアのボスが登場します。役名はハイマン・ロス。そのモデルとなったのが、この映画の主人公。20世紀アメリカの裏社会を牛耳った伝説のギャング「マイヤー・ランスキー」です。
マフィアといえばシチリア島出身をはじめとするイタリア系の組織を思い浮かべますが、マイヤー・ランスキーはユダヤ系の移民。このことも彼の人生に大きな影響を与えます。
映画は、1981年のマイアミ、すでに引退したランスキーが伝記を残すため、作家のロングインタビューを受けるところから始まります。ただし、「俺が生きているうちは、誰にも読ませるな」というのが条件。1912年に幼くしてニューヨークに移住、闇賭博をはじめ、やがてアメリカの暗黒街を支配することになる一部始終を赤裸々に語り、それが映像でフラッシュバックしていきます。そこには想像を絶する残虐犯罪と、家族を思うひとりの男の姿が映し出されます。
武闘派と頭脳派。暗黒街でのし上がるギャングにはタイプがふたつあります。ランスキーは完全な頭脳派。“学がある”わけではありません。ドンパチよりも陰謀、はかりごとに長けていました。少年のころ、街頭で見た博打に夢中になるのですが、サイコロの出た目をじっと観察し、確率を計算するような子供でした。その頃に出会うのが、ベンジャミン・シーゲル。はたして運命なのか、ランスキーは、同じユダヤ系移民で武闘派のシーゲルという相棒を手に入れ、力を発揮していきます。10代にして犯罪集団を形成、20代後半に手先として組織した殺し屋集団は「マーダー・インク」、殺人会社とよんだそうです。彼は、自身をビジネスマンと称するほど、アメリカにおける経済マフィアの代表格となっていきます。“マネーロンダリング”も彼が生み出したそうです。
相棒、シーゲルの通称は「バグジー」。彼をウォーレン・ベイティが演じた、その名も『バグジー』という映画がありました。この作品では、デヴィッド・ケイドが扮しています。彼はランスキーのバックアップのもと、40年代にラスベガスに進出。フラミンゴというカジノで成功をおさめ、この街の繁栄の礎を築きますが、抗争のなかで命をおとします。
ランスキーは、実にうまく立ち回り、刑務所に入れられたのもマフィアのなかでは極めて短かったといいます。80年にはFBIが彼の3億ドルにも及ぶといわれる資産を捜査するのですが……、それを見事に欺く彼のミステリアスな行動も、この映画は巧みに描いています。
老いたランスキーを演じるのは、『バグジー』では別の役でアカデミー助演男優賞にノミネートされたこともある名優、ハーヴェイ・カイテル。『レザボア・ドッグス』でも印象的なギャングを演じてました。今回はめちゃめちゃ渋いです。ランスキーにインタビューをする作家役はサム・ワーシントン、そのモデルとなった実在の作家こそ、この映画の脚本・監督をつとめたエタン・ロッカウェイの父親だそうです。
1940年代から60年代にかけて、彼らが暗躍した衝撃的なアメリカ裏社会の深淵を、ランスキーの視点で描き直した、そんな作品。ギャング映画好きは必見です。
【ぴあ水先案内から】
立川直樹さん（プロデューサー、ディレクター）
「……近頃余りなかった最高に“男臭い”映画だ。……」
波多野健さん（テレビ・プロデューサー）
「……「人生は白と黒ではなく、グレーの中にある」というランスキーの独白が、彼の人生を深みのあるものにしている……」
植草信和さん（フリー編集者、元キネマ旬報編集長）
「……ひとりのマフィアの凄惨な人生と近現代史の闇……」
(C)2021 MLI HOLDINGS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.
フォトギャラリー(5件)
すべて見る関連動画
すべて見る