【おとな向け映画ガイド】是枝裕和監督の“命”へのメッセージ!『ベイビー・ブローカー』
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今週(6/24〜25) の公開映画数は24本。うち全国100館以上で拡大公開される作品が『鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成』『ベイビー・ブローカー』『それいけ!アンパンマン ドロリンとバケ~るカーニバル』『ザ・ロストシティ』『東京2020オリンピック SIDE:B』の5本。中規模公開、ミニシアター系が19本です。そのなかから、是枝裕和監督の“韓国映画”『ベイビー・ブローカー』をご紹介します。
『ベイビー・ブローカー』
海外での映画製作が続く是枝裕和監督。カトリーヌ・ドヌーヴ主演のフランス映画『真実』に続き、今度は名優ソン・ガンホとコラボを組んだ韓国映画です。タイトルをきくと、犯罪のにおいが多少します。確かにそうなのですが、テーマはやはり家族のこと。いつも考えさせられる問題を観る側に投げかけてくれるのが是枝監督の作品。今回はそれに加え、明確なメッセージがあり、すばらしい余韻を残す映画になっています。
脚本は是枝監督のオリジナル。ソン・ガンホの他に、撮影監督ホン・ギョンピョ、音楽チョン・ジェイル、衣裳チェ・セヨンが米アカデミー賞受賞の『パラサイト 半地下の家族』組です。日本でも大ヒットした『新感染半島 ファイナル・ステージ』などのカン・ドンウォン、美術のイ・モグォンは『新感染…』組。女性出演者では、『空気人形』以来是枝作品2度目になるペ・ドゥナ、歌手名IUでおなじみのイ・ジウン、ドラマ『梨泰院クラス』のイ・ジュヨン。まさに韓国トップクラスの錚々たるスタッフ&キャストが顔を揃えています。 5月に開催されたカンヌ映画祭でソン・ガンホが最優秀男優賞を受賞。日本に先立ち6月8日に封切られた韓国では、1週目第1位に躍り出て、現在大ヒット中。すでに188カ国・地域での公開が決定。いま、世界注目の作品です。
映画は、どしゃぶりの雨が降る夜に始まります。若い女性がある町の教会を訪れ、玄関に設置された“赤ちゃんポスト”に赤ん坊を置き去りにしていきます。育児ができない親が匿名で預ける善意の窓口。ところが、良からぬやつはいるもので、その赤ちゃんを即座に連れ去ってしまいます。子供をほしがる親に売るという商売、つまり“ベイビー・ブローカー”の男たちです。
ブローカーのひとりはサンヒョン(ソン・ガンホ)。古びたクリーニング店をひとりで営んでいますが、ギャンブルの借金で首がまわらず、この闇の商売に手を染めています。相棒は赤ちゃんポストがある施設で働くドンス(カン・ドンウォン)。乳児の母親ソヨン(イ・ジウン)が思い直して戻ったところ、赤ちゃんがいないことが発覚。すったもんだあって、養父母がみつかったら謝礼を山わけする条件で折り合います。裏サイトで希望者を募りながら、養父母を探す彼らの旅がはじまります。
実は、サンヒョンたち“ブローカー”は警察にマークされていて、女性刑事ふたりのチームが現行犯逮捕を狙い、彼らの旅を尾行していきます。刑事役はペ・ドゥナとイ・ジュヨン。ロードムービーにこの追跡劇というサスペンス要素が加わり、展開が予測できません。
サンヒョン役のソン・ガンホはいわゆる“当てがき”。彼を想定して脚本が書かれています。犯罪に走ってしまう気持ちの弱さや、金に目がくらむ俗っぽさ、人間味。彼が演じてこそ生きるキャラクターです。最初は赤ん坊をいかに高く売りつけるかに関心があった彼が、どうしたらこの子が幸せになれるか、に気持ちが傾いていく。旅の仲間たちは、次第にサンヒョンを中心にした“擬似家族”のようにみえてきます。そういえば、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した是枝監督の『万引き家族』も擬似家族の物語でした。
是枝監督は、『そして父になる』あたりから“赤ちゃんポスト”や、養子縁組といった問題に関心を持っていたそうで、韓国の“ベイビー・ボックス(赤ちゃんポスト)”の利用件数が日本より桁ちがいに多いことを知り、この題材を選んだといいます。脚本取材の過程で、ボックス出身の子どもたちの話を聞き、「自分たちは生まれてきてよかったのか」と自問する姿をみて、その問いに答えられる作品にしたいと思った、とインタビューで語っています。
ことしのカンヌ。撮影中の現場では明るいムードメイカーになり、韓国語の芝居演出に不安な是枝監督の的確なアドバイザーだったソン・ガンホが最優秀男優賞を受賞(韓国人俳優として初)したのは納得の結果です。作品は、エキュメニカル審査員賞を受賞。この賞は、カトリックとプロテスタントが統合された組織「SIGNIS and INTERFILM」の審査員6名によって「人間の内面を豊かに描いた作品」に贈られるものです。まさにその趣旨にふさわしい。心に沁みる映画です。
【ぴあ水先案内から】
夏目深雪さん(著述・編集業)
「……韓国人俳優を日本人監督が演出することによる若干の違和感を、寓話的なものに消化し、国境を越えた人間の普遍的な問題を炙り出す手つきはさすが……」
伊藤さとりさん(映画パーソナリティ)
「……より感情を揺さぶりつつ観客を笑顔にさせ、優しい涙を誘う傑作が誕生。」
堀晃和さん(ライター、編集者)
「……人気スターたちが繊細な演技で台詞にない複雑な心情を浮かび上がらせる……」
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