江口のりこ、前田敦子、伊原六花出演!溝口健二監督映画をオリジナルミュージカル化!
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
ミュージカル『夜の女たち』特集
大東駿介×前田旺志郎×北村有起哉 鼎談「あの時代のエネルギーを届けたい」
女たちにスポットが当たる作品の中で、彼女たちの過酷な生きざまに深く関わっていく“夜の男たち”のお三方。こちらも初挑戦となるミュージカルに大奮闘の日々を、息もピッタリ、賑やかに語っていただきました。
皆で歌った稽古場で、耳から情景が広がった
── 溝口映画をミュージカル化とは皆さんにとっても予想外の企画だったと思いますが、お話を受けた時はどう心動いたのでしょうか。
北村 まず最初は、これどうやってやるんだろう!?っていう想像のつかないドキドキ感がありましたね。僕は『十一ぴきのネコ』という作品で演出の長塚さんと音楽の荻野清子さんとご一緒したんですけど(井上ひさし作、2012年・2015年上演)、このふたりがずっと前からまた何か一緒にやろうと話していたらしく、それがこういう形で再会を果たし、こういった作品を選んだと。僕は、このふたりがやるなら絶対に面白いものになる、何でもやるよ!ってくらいふたりのことを信頼していますので、快諾させていただきました。本当にどんな作品になるのか、それは僕ら次第というところがこの舞台の最大の魅力ではないかなと思っています。
大東 あの映画は、戦後間もない日本の大阪の、あの景色があって成立している世界観だと思うんですよね。あの過酷な時代を生き抜いている人たちに、見ている側はかなりの……、心にグサッと何かが刺さるような衝撃を受ける。僕も、そんなすごい世界をどうやって舞台にするんやろうなと思っていたんです。でも荻野さんの音楽を聴いて、「皆で歌ってみよう」ってなった時に、あの映画の情景がパーッと見えたんですよね。稽古場で、耳からその情景がぶあ〜っと広がったというか。圭史さんが「この作品をやるならミュージカルだな」って発想して、荻野さんにお願いして、その世界を見事に表現されている…、やっぱりすごい人たちだな!と思いましたね。これに参加出来るのは本当にありがたいなと思いつつ、今は、これ、見てる側でもよかったんちゃうかなって…。(一同笑)自分が歌うこと考えると、これは劇場で楽しんだほうがよかったんちゃうんか、俺大丈夫かな?って不安はあるんですけど……。
北村 なら、ちょっと相談してみれば?
大東 まだ間に合う…ってそんなん言わないで! いや、やらせてください!(一同笑)こんなに体の中からあの景色が見えてくるのか!っていう不思議な感覚があって、かなり期待値が高いですね。
前田 僕は、長塚さん演出の舞台を一度やらせていただきたいなってずっと思っていまして。それでキャストの皆さんの名前を聞いた時に、有起哉さんも大東さんも含め、すごく素敵な方ばかりで……。
大東 何を言うてんねん(笑)!
前田 こういうところも含めて(笑)、面白い皆さんと一緒に二ヶ月間、稽古が出来ることを嬉しく思いました。絶対にいい経験をして成長出来るはずですし、何よりもワクワクするな!っていうのが一番最初に思ったことです。
圧倒的な女性のパワーをどう届けるか
── 制作発表の時に、北村さんが「関係者意外は絶対に立ち入り禁止!」とおっしゃっていた稽古場ですが、はたしてどんな展開に!?
北村 本当に手探りで、皆が……皆ってことはないな、ごく一部の落ちこぼれが(笑)しがみついている感じですね。まあ初日まで猶予はあるので、そこも含めて楽しんでいきたいです。つまり、我々には伸びしろがあるんです。千秋楽までにその伸びしろが埋まっているかどうかはわからないですけど。
大東 ハッハッハ、まだまだ伸びる!?
北村 伸び切れてないってのはあるかも(笑)。長塚さんが「このメンツだからこそ出来ることがある」って言ってたんですよね。おもにストレートプレイを中心にキャリアを積んで来た面々が、どうミュージカルをやっていくのか、そこが面白いところで。見事に歌い上げたとしても、「歌は上手かったけど、結局どういう作品だったの?」ってことにならないように。かと言って、「歌は下手だったけど、話は面白かったね」っていうのも悔しい。まさに今、稽古場で、僕らはどこを目指せばいいのか探っているところですね。
前田 有起哉さんが言われたように、僕らが歌う意味というのが重要だと思うんですけど、やっぱり最低限の歌唱力は必要で。歌詞に感情を乗せようとすると、どうしても音程とかリズムがどっか行っちゃう。そこがすごく難しいなと思いながら、日々稽古しています。
── 本作で、“闇に堕ちていく女たち”に関わっていく男たちを皆さんが演じられますが、長塚さんが映画ではあまり描かれていない男たちの背景を、新たに書き加えていらっしゃいます。それぞれの役柄についてどのように表出しようと考えていますか。
北村 大東君は胡散臭い会社の社長、“栗山”の役、自身と重なるところ、ありますか?
大東 すごくあります……って言ったら印象悪いじゃないすかっ!(一同笑)いや、僕は男たちが出て来ることで、この時代の立体感がすごく見えて来るように思います。あの時代、日本は戦争に負けて、昨日まで正しいとされていた思想、価値観といったものがまったく反対になってしまい、人々の志もひっくり返されたんだと思うんですね。とくに栗山はそうなんだろうなと。昨日までアメリカと戦っていたのに、今じゃソイツらのおかげでメシが食えている。自分をどこかに置き去りにして、その狭間に生きている感じ……、そこはちょっと共感出来るところもあるかなと。
生きていると、社会とか周りの動きによって、大事な物事の順番がどんどん変わっていってしまう。あれ、俺が考えていることってホンマに自分の答えなのかな……って迷うことがあったりして。今はとくにそんな時代ですよね、情報があまりにも多いので。その苦しみは、そのまま栗山に乗っけられるかなと思っています。戦後の時代は何もない苦しみだったけど、今は、あり過ぎる苦しみ……、それに気づかないこともまた苦しみなんですよね。何も考えずに携帯を見ている瞬間とか、時々自分が怖くて悲しくなるんですよ。自分、生きたまま死んでるんちゃうかな、って思う時があって。この物語の時代は、死が間近にあって、ただひたすら生きることだけを考えている。僕はそこに、逆に希望を感じたりもしていますね。
前田 僕の役の“川北清”という学生は、映画ではバックボーンも全然わからず、コイツは何者なんや?で最後まで終わるんですけど、清の人間らしさや魅力といったところを、長塚さんが歌で足してくださっていて。“満洲でいろいろあって”といった結構エグい歌詞が出て来ますが、それをどれだけ自分のことと考えてやれるか。実際に満洲に行った人の話を本などで読んで、極力近づく努力をして清を演じることが大切なのかなと思っています。
北村 なるほどね。僕は“院長”とその他の役も演じますが、これはやっぱり女性たちの物語だと思っていますね。男たちはその引き立て役というか。先日も稽古場で、「どうも男のほうがウジウジ、メソメソしている傾向がある。女性のほうが未練を断ち切って、前に進む力が強そうだよね」って話をして。圧倒的な女性のパワーを、この舞台を通してお客さんに届けるにはどうすればいいか、それが一番大事なメッセージなのかなと。女性たちの間を通り過ぎていく男とか障害になる男、手を差し伸べる男とか、そういう役割を担っていくことが必要かなと思っています。
慣れない歌唱に四苦八苦
── 皆さんともにミュージカル初挑戦ですが、稽古場でそれぞれの奮闘をどう見ていらっしゃいますか?
北村 僕から見ると、このおふたりはとてもいい見せ場があるなと。やにわにソロで歌い始めますから!(一同笑)歌いたくなっちゃう、という空気を作らなきゃいけないんだよね。見事にドーン!と飛んでいってほしいです。見ていて思うんだけど、栗山って相当気分の波が激しいよね。
大東 ああ〜僕もそう思います。
北村 普段、商売している時は破れかぶれに「いつ死んでもいいし」みたいな感じで、妙に明るくて。でもちょっと油断すると、フッと自分の暗いところに入り込んでしまう。だから、いきなり弾けるところとかどう作っていくんだろう、すごく面白い作業になるなと思ってる。
大東 そうですね。
北村 清も、実は内面にこんな傷を抱えて……ってやり方もあれば、「ホントにアイツ、ひでえヤツだったな!」って印象をバーン!と打ち付けるのもひとつの手だし。いろんなやり方があるから、それを楽しんでやっていけたらいいよね。
前田 はい。
大東 僕が思うのは、有起哉さんはまだそんなに歌うところを稽古していないので、余裕のツラしてるなって……。(一同笑)早くそれが冷や汗に変わる瞬間を見たい、あと半月もすれば僕らと同じ土俵に上がってるかなって(笑)。でも、有起哉さんはやっぱり本質を見抜く力がずば抜けているから、稽古中にパッといただく言葉に「あっ、そうやな、確かに!」って思うことがたくさんあって、救われています。今はホントに、頼もしい瞬間がすごく多いので……。
北村 今は余裕があるから〜。
大東 早くこっちに来てほしい! ピリピリし出してほしい!(一同笑)で、旺志郎に関しても、いい役やな〜ってすごく思います。理屈で考えていた時代じゃない、食うモンもなく、生きることに必死で…っていう点が現代と一番の違いやと思うので、その意識を目指せたら面白いかなと。歌に関しても、技術とかもちろん大切なんやけど、そんな頭使わずに気持ちだけでいったらどうにかなるやろ、頭にクギ刺さるんやないかなって。
前田 頭にクギですか……。
北村 死ぬわ。(一同笑)。
大東 いや、僕ら30代くらいのヤツらがデビューした頃ってもっとアホやったんです。その前の世代の先輩たちがエネルギー全開でいってた姿を見てたんで。今、旺志郎世代の子たちって賢くて、すごくちゃんとしている印象があるけど、一回ぶっ壊れる姿が見てみたいなってメチャクチャ思いますよね。
前田 ハハハ、僕、大東さんの歌がすごい好きで。すっごく不安そうに歌ってはるんですけど……。
大東 不安やわ、そんなん! 俺のパートになると皆の空気が不安そうになるから、余計不安になる!
前田 それでも歌のエネルギー量が抜群で、大東さんすごいな!って。すごく不安そうで、音程も外れているんですけど、とにかくエネルギーがすごい!(一同笑)。
大東 それも含めて表現やから!
前田 有起哉さんは、歌の練習を誰よりもやってらっしゃるんですけど、女性たちしか歌わない、自分のパートじゃないところを歌っていて、テンポを確認するのに手を叩きながら「パン!パン!……違うな」とか言ってたりします。(一同笑)。
北村 いや、自分のところの参考になると思って〜。
大東 音程外れてるとか自分のパートじゃないところ歌うとか……大丈夫!? この記事を読んだ人、不安にならないかなあ?(一同笑)。
── 大丈夫、いろんな意味で期待が高まっています(笑)。想像の上をいくミュージカルに出会えそうな気がします。
北村 一言で言うと、エネルギーをお届けしたいですね。僕がホンを読んで衝撃的だったのは、よその国の話じゃないということ。今の礎になった戦後間もない頃に、実はこんなことがあったと。舞台の力を信じ、舞台ならではの表現で、我々はあえて取り扱いづらい、敬遠するようなテーマに挑んでいます。しっかりとそのひとときを刮目していただきたいですね。
前田 有起哉さんのおっしゃるように、本当にこれ、自分たちの国のことなの?って思う人は多いんじゃないかと。歴史のこと、戦争のことは教科書で学んできていると思いますが、日本で、その時代をこんなふうに生きた人々がいたんだ……といった感覚を、僕たちの舞台を通してお伝えできたらなと思います。
大東 そう、僕ら、戦争のことを日本の事実としてキャッチ出来ていなかったと痛感しましたよね。今稽古場で、僕が出ていない場面の芝居を見ていても、すごく心拍数が上がるんですよ。心も頭も活性化して、自分のルーツみたいなものを体の奥底に感じるような作品なので、ぜひ劇場で体感してほしいなと思います。
取材・文:上野紀子 撮影:You Ishii
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対象公演:2022年9月10(土) 13:00公演
会場:KAAT神奈川芸術劇場<大ホール>
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