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【おとな向け映画ガイド】ウド・キアー 怪優人生の終盤に生まれた傑作!──『スワンソング』

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イラストレーション:高松啓二

今週末(8/26〜27) の公開映画数は20本。全国100館以上で拡大公開される作品が『アキラとあきら』『異動辞令は音楽隊!』『DC がんばれ!スーパーペット』『NOPE/ノープ』の4本、中規模公開・ミニシアター系が16本です。その中から、一風変わったヒューマンコメディ 『スワンソング』をご紹介します。

『スワンソング』

白鳥は、この世を去る間際に最も美しい声で歌うらしい。そんな伝説から生まれた言葉、「スワンソング」。それをタイトルに使ったこの作品、怪優中の怪優、数々の異色作でアクの強い演技を見せてくれたウド・キアーの、まさにスワンソングと呼ぶにふさわしい俳優人生終盤に生まれた傑作だ。

ウド・キアーは映画出演時77歳。アンディ・ウォーホルが製作した『悪魔のはらわた』のフランケンシュタインと『処女の生血』のドラキュラ役で脚光をあび、デンマークの鬼才、ラース・フォン・トリアー 作品の常連として活躍、最近印象的だったのは、ナチスが月で秘密帝国を築いていたという“トンデモSF”の総統役。とにかくこの人のシーンになると、とたんに映画が怪しい魅力を帯びてくる。

今回は、だいぶ趣がちがう。といっても、演じている役柄は、決して好人物とは言えないし、お涙ちょうだいのストーリーでもない。やはり、どちらかというと、世の中のメインストリームから外れた生き方をしてきた人だ。実際に目の前に来られたらすぐに親しくなれる自信がないけれど、なんとも好感が持てる、そんなキャラクター。

通称“ミスター・パット”。アメリカ中西部の田舎町にある老人ホームで、ひっそりと余生を送るゲイの元ヘア・メイクドレッサーだ。

若い頃は、経営するサロンが大繁盛で、ずいぶん羽振りもよく、ゲイクラブのドラァグクイーンとしてステージを盛り上げていた。しかし、パートナーのデビッドをエイズで失い、隠居した今、ただただ、淡々とした日々を過ごしている。

そんなある日、町一番のお金持ちで上顧客だったリタの弁護士から、仕事の依頼がくる。亡くなった彼女が「死化粧はパットに頼んでほしい」と遺言を残したという。その報酬は2万5000ドル! 実は仲違いをして疎遠になっていたリタ。「ぶざまな髪で葬れば」と悪態をついて一度は断わるが、結局、パットは棚の片隅にしまっておいた道具やゴージャスな指輪を身に着け、老人ホームを抜け出すことに……。

ここから始まるパットの復活劇。町に戻り、お金もないのに、商売道具の化粧品の調達から始めるなかで、昔の人間関係がみえてくる。この映画が“粋”なのは、わざとらしい説明的なシーンが少ないこと。登場する人物たちの会話のはしばしで、彼のおかれた状況や、環境がイメージできる。ゲイの人たちの生き方も昔とはちがっている。かつて、いわゆる“ハッテン場”だったゲイバーも、ネットに役割をゆずり、そろそろ閉店……。久しぶりに町にでたパットは、過去の想い出を追体験し、同時に現実と向きあうことになる。そんな中で、彼のおちゃめでちょいワルの奥に、しっかりと佇む「人間としての誇り、ピンと前を向いた姿勢」が、とても魅力的だ。

実は、パットには実在のモデルがいる。その名も、パトリック・ピッツェンバーガー。通称パット。監督のトッド・スティーブンスは17歳のとき、オハイオ州のゲイクラブで、フェザーボアを首にまき、フェルトのつば広帽を小粋にかぶった「ミスター・パット」のキラキラ輝くステージを見て衝撃を受けた。この映画は、そのあこがれの存在を描き、ゲイである自分自身も投影したものだという。撮影はスティーブンス監督の故郷でもあるオハイオ州サンダスキーで行われた。

きらびやかなゲイのジイ様が歌う、スワンソング。ウド・キアーは、実に楽しそうに演じている。一世一代なんて大げさな演技でなく、軽やかに、哀愁の人生を、歌い上げた。

【ぴあ水先案内から】

佐藤久理子さん(文化ジャーナリスト)
「……たとえ時代遅れと言われようと、自信を持って生きればいいのだ、という、老境の格好いい生き方を、ウド・キアー版ミスター・パットから、しかと学びたい。」

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佐々木俊尚さん(フリージャーナリスト・作家)
「……しみじみとした情愛を眼だけで演じきるシーンなど、なにからなにまで痺れた。傑作。」

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真魚八重子さん(映画評論家)
「……一人のお手本となる魅力的なゲイとして、ウド・キアーが最高に輝いている映画である。」

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