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【おとなの映画ガイド】米アカデミー作品賞の本命! やっぱりスピルバーグの『フェイブルマンズ』はスゴイ

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『フェイブルマンズ』 (C)2022 Universal Pictures. ALL RIGHTS RESERVED.

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3月12日(日本時間は13日)に授賞式が行われる米アカデミー賞。注目は、なんといっても作品賞。ノミネートされているのは、すでに日本で公開された『西部戦線異状なし』『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』『イニシェリン島の精霊』『エルヴィス』『トップガン マーヴェリック』『逆転のトライアングル』の6本と、今後公開される『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(3月3日)、『フェイブルマンズ』(3月3日)、『TAR/ター』(5月12日)、『ウーマン・トーキング 私たちの選択』(初夏公開)の4本だ。

なかでも本命と目されているのは今週末公開の、スティーヴン・スピルバーグ監督『フェイブルマンズ』。今回はこの作品をご紹介します。

『フェイブルマンズ』

数々の大ヒット作、名作を手がけたスティーヴン・スピルバーグ監督。「私の作品のほとんどが、成長期に私自身に起こったことを反映したものだ」という言葉通り、彼の映画は彼の人生そのもの。変幻自在ともいえる題材の振れ幅の広さ、どんなテーマでも観る人を失望させないクオリティ。それを可能にしたのは何なのか、その創作の秘密がわかるのが、この作品。スピルバーグによる自伝的映画だ。

タイトルの「フェイブルマン」は人名。複数だから、いうなれば“フェイブルマン家の人々”。スピルバーグという姓のドイツ語の語源から、戯曲の要約を意味する演劇用語「fabel」を見つけ、共同脚本のトニー・クシュナーがシャレっ気で名付けたそう。あくまでも自伝“的”映画なので、いろいろフィクションが盛り込まれているけれど、主人公サミーの家族が、科学者の父、ピアニストの母、4人兄妹であることや、一家の歴史は、スピルバーグ家そのものだ。

スピルバーグはアメリカ・オハイオ州のウクライナ系ユダヤ人の家庭に生まれた。父親は先進的だったコンピュータのシステム開発エンジニアで、RCA、GE、IBMとアメリカの名だたるメーカーで活躍し、ある意味成功者であり、裕福でもあった。でも、その代償として、全国を転々と移り住み、家族もそれにあわせざるをえなかった。

彼の作品で記憶に残る多くは、家族がテーマであったり、新たに開発された郊外(サバービア)の家に住む子どもが主人公の物語。代表作の『E.T.』は地球に取り残された宇宙人E.T.を、郊外住宅の子どもたちが必死に守って「ホーム」に帰す話。『未知との遭遇』『A.I.』、第二次世界大戦を舞台にした『プライベート・ライアン』も広い意味では家族の映画だ。そして、もうひとつが、人種差別について。こちらも多くとり上げられている。『シンドラーのリスト』『カラーパープル』、ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』……。

家族のやや複雑な事情、ユダヤ人としての差別体験が、少年時代のスピルバーグにとって、あるトラウマとなって、作る映画にも反映されているように感じる。

この映画の主人公、サミーが映画と出会ったのは、1952年。フィラデルフィアの映画館で家族と観た『地上最大のショウ』だった。サーカスの舞台裏を描くセシル・B・デミル監督の大スペクタクル。その映像の中で、特に少年の心を射止めたのは、サーカスそのものでなく、一座が移動中に巻き込まれた列車事故のシーンだ。さっそく父親にミニチュアの列車とレールセットを買ってもらい、その脱線転覆再現に熱中する。あまりに夢中になっているので、父親に「そんなことをしてると模型が壊れてしまうよ。8ミリカメラを貸してあげるからそれで撮影して何度も観ればいい」と言われる。それがのちの天才映画監督誕生の瞬間だったわけだけれど、なんかこの少年の嗜好、とてもわかる気がする。

そこから、家族旅行を撮って家族に感動され、学校でもパーティーを撮影して喜ばれ、ますます映像への関心が加熱していく。そして、ストーリーのある「映画」の世界へ。8分の西部劇『The Last Gunfight』、40分の戦争映画『Escape to Nowhere』、『未知との遭遇』のベースになったと言われる135分のUFO映画『Firelite』と、日本でいえば自主映画、映画小僧の道をひた走り、そして、何とか映画会社に「もぐりこむ」までが描かれる。

ティーンエイジャー時代のサミー役は新人ガブリエル・ラベル。母ミッツィー役は『マンチェスター・バイ・ザ・シー』などでアカデミー賞に4度ノミネートされているミシェル・ウィリアムズ。今回も主演女優賞有力候補だ。父親バート役は『THE BATMAN−ザ・バットマン−』のポール・ダノ。突然現れ、サミーにショービジネスや映画界のことを話してくれる伯父役ジャド・ハーシュも印象的。彼も助演男優賞のオスカー候補だ。

この両親あってのスピルバーグなんだなあ、と思えるエピソードも多い。特に、家庭のためにコンサートピアニストへの道を諦める母ミッツィーのキャラクターはインパクトが強い。たとえば、一家が竜巻と遭遇するシーン。ふつう、人は竜巻をみたら慌てて逃げ出すものだけれど、このお母さんは、近づこうとする。恐怖より「見たい」が優先される。彼が製作総指揮をつとめた『ツイスター』みたい。「比喩的にいうと、母は私に生涯をかけて数え切れないほどの竜巻を追いかけることを許してくれた」とスピルバーグは語っている。夕飯のスタイルというのもとてもユニークなのだが、こちらは映画で驚いてください。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

【ぴあ水先案内から】

高松啓二さん(イラストレーター)
「……母ミッツィは明るい性格だが、夢を諦めた後悔を引きずっている。それでも息子の夢を応援する姿はディズニーの『ピノキオ』におけるブルーフェアリーのようだ(彼女は青い服を着ている)……」

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イラストレーション:高松啓二

中川右介さん(作家・編集者)
「……最後は、希望があるラストシーン。そのため、「いい映画を観た」「感動した」と思ってしまうが、なかなかどうしてシビアな映画だ」

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堀晃和さん(ライター・編集者)
「……家族の微妙な人間模様を描きながら、サミーの映画への憧れがストレートに語られる構成が胸を打つ……」

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