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珠玉の逸品!伝説の巨匠ビクトル・エリセ31年ぶりの新作『瞳をとじて』【おとなの映画ガイド】

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『瞳をとじて』 (C)2023 La Mirada del Adios A.I.E, Tandem Films S.L., Nautilus Films S.L., Pecado Films S.L., Pampa Films S.A.

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映画史上の名作『ミツバチのささやき』から50年、前作『マルメロの陽光』から31年。寡作の巨匠、ビクトル・エリセ長編第4作目になる『瞳をとじて』が2月9日(金)、日本公開される。昨年開催された第76回カンヌ国際映画祭カンヌプレミア部門で上映され、世界中のファンを歓喜させた待望の新作は、記憶をめぐる、人生のミステリー。

『瞳をとじて』

主演の人気俳優が失踪し、撮影が中断され、お蔵入りとなった『別れのまなざし』というスペイン映画の、わずかに残された映像が映し出される。パリ郊外の富豪の邸宅、この家の主人が、上海で行方不明になった娘の捜索をある男に依頼する、そんなシーン。

撮影は始まったばかりだった。俳優の名前はフリオ・アレナス(ホセ・コロナド)。現場近くの海に面した崖に、そろえて置かれた彼の靴が発見され、投身自殺と推定されたが、遺体はみつからなかった……。

それから22年。『未解決事件』というテレビの番組が、この失踪事件を取り上げることになり、フリオの親友で、『別れの…』の監督でもあるミゲル(マノロ・ソロ)にインタビュー出演と取材協力の依頼がくる。

ミゲルは、そのインタビューをきっかけに、フリオの消息を探し始める。

昔からの仕事仲間の映画編集者、ふたりの共通の女ともだち、フリオの娘と、ミゲルは数少ない昔なじみと久しぶりに再会する。それは、フリオと過ごした青春時代の思い出や、抑圧されたスペイン・フランコ独裁時代のつらい記憶とももう一度向き合うことになる、過去への旅でもあった。

今年84歳になるビクトル・エリセ。31年ぶりの新作、という気負いは感じられない。冒頭の未完の映画が鍵を握るミステリー仕立ての展開は、見事なストーリーテリングで退屈させないし、詩情豊かな映像美も、さすがと思わせる。

「物語は、半分は経験したこと、半分は想像から生まれた。私は映画の脚本を、自分で書いている。だから、私が人生において最も関心を抱いていることが、作品のテーマだと考えるのは自然なことだ」とエリセは語っている。

主人公が元映画監督という設定そのものが、エリセ自身の投影だろうし、フィルムが重要な役割をになったり、映画好きに刺さるセリフも散りばめられている。海辺の自宅に帰って、親しい仲間たちと楽しい酒を酌み交わしながら、ミゲルがギターを弾き、口ずさむ歌は、なんと、ハワード・ホークス監督の西部劇『リオ・ブラボー』で酔いどれガンマン、ディーン・マーティンが歌った『ライフルと愛馬』だ。

さらに、シネフィル(映画通)の皆さんにとって、感涙ものなのは、エリセの代表作『ミツバチのささやき』で、透き通った瞳が印象的な少女を演じたアナ・トレントが、フリオの娘役で出演していること。しかも役名は今回も「アナ」なのだ!

『ミツバチのささやき』の日本公開は1985年。いまでいうと六本木ヒルズの入り口あたり、WAVEというビルの地下にあったオシャレなミニシアター、シネヴィヴァン六本木でロードショーが始まり、11週のロングランヒットになった。その年のキネマ旬報ベストテンでは、外国映画部門の第4位と高評価。その頃のミニシアターファンの多くが「生涯のベスト」にあげる作品といわれている。

本作の公開に先立ち、この『ミツバチのささやき』と、エリセの長編2作目『エル・スール』が、ヒューマントラストシネマ渋谷やシネ・リーブル神戸などで特別上映されている。

2月4日(日) の回に足を運んでみたが、ほぼ満席。若い男女が多かった。

「ソイ、アナ(わたしは、アナよ)」、同じセリフをいうアナ・トレント。2本の映画のあいだに、50年の月日が横たわる。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

【ぴあ水先案内から】

樋口尚文さん(映画監督、映画評論家)
「……人生も映画もミステリーのようではあるが、ミステリーというジャンルにはおさまらない何ものか……」

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立川直樹さん(プロデューサー、ディレクター)
「……巨匠ビクトル・エリセの創作に対する情熱とパワーに僕は心から拍手を贈りたい。」

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高崎俊夫(編集者、映画評論家)
「……まるで彼の映画的遺言とでも称すべき格別なまでの美しさを湛えている……」

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(C)2023 La Mirada del Adios A.I.E, Tandem Films S.L., Nautilus Films S.L., Pecado Films S.L., Pampa Films S.A.