今泉力哉監督の『からかい上手の高木さん』、永野芽郁と高橋文哉が共演、不器用でちょっぴり風変わりな純愛ストーリー【おとなの映画ガイド】
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『からかい上手の高木さん』 (C)2024 映画『からかい上手の高木さん』製作委員会 (C)山本崇一朗/小学館
続きを読むシリーズ累計発行部数が1200万部を超え、アニメやTVドラマ化もされた山本崇一朗の大人気コミック『からかい上手の高木さん』が、実写劇場版となって5月31日(金)に公開される。監督は、一筋縄ではいかない愛を描かせたらピカイチの今泉力哉。永野芽郁、高橋文哉という、今、最も勢いのある俳優が共演する。小豆島の明るい日差しとノスタルジックな風景の中で展開するこの物語、悩み多き中学生から「恋なんて忘れちゃった」というおとなまで、期待以上にこころに刺さる映画です。
『からかい上手の高木さん』
『愛がなんだ』『街の上で』『窓辺にて』……、今泉力哉監督の作品にはハズレがない。彼が監督するというから、筆者は本作に興味を持った。
これほどメディア展開された大ヒット作でありながら、それに触れる機会をもたなかったのは、いわゆる“食わず嫌い”ってやつだ。ただ、タイトルを耳にするたびに、「からかい上手」「高木さん」という組み合わせの面白いセンスには惹かれていた。そんなこんなで観てみたら、おもいのほか、ハマってしまった。
男の子を「からかう」っていうと、オトコを手玉にとる悪女、のような語感もあるのだけれど、この物語はそれとはかなり違う。“おしゃま”で可愛らしい中学生の高木さんが、なんとか自分の純な恋心を隣の机に座る相手に伝えたいのに、相手の西片君が鈍感というか、子どもなんで、注意をひくためについからかってしまう……というもの。なのに、西片は、そうとも知らず「からかい返してやろう」と、子どもっぽい妙な競争心だけを抱いて対抗してくる。彼、運動神経はすこぶるいいのに、勘は激しく鈍いのだ。
この原作コミックの物語を、今泉力哉監督が映画と同じスタッフでまずはドラマ化。Netflixの配信から始まり、TVでも放送した。
ドラマでは高木さんを月島琉衣、西片を黒川想矢が演じた。隣で授業を受けて毎日通学も一緒だった高木さんが、親の仕事の都合で突然島を去ってしまう。
映画は、そんなドラマのラストから10年後、西片(高橋文哉)が体育教師になって勤務している母校の中学に、高木さん(永野芽郁)が教育実習生になって帰ってくるところから始まる。コミックにはないオリジナル・ストーリーだ。放送されたドラマの一部を過去の回想として使うという、なかなかあたまのいい作り方をしている。
高木さんを演じる永野芽郁は、NHK連続テレビ小説『半分、青い。』でヒロインに抜擢、映画では、『こんにちは、母さん』で第47回日本アカデミー賞の優秀助演女優賞を受賞した、コミカルもシリアスも彼女色で演じきれる振り幅の広い女優だ。
西片役は高橋文哉。『仮面ライダーゼロワン』で主人公に抜擢され、ドラマ『君の花になる』の好演が話題を呼び、ここ数年ドラマ、映画の主演があいつぐ注目株。彼も同じ日本アカデミー賞の新人俳優賞に輝いている。
母校では、西片の親友・中井君も先生になっている。演じているのは鈴木仁。彼と中学時代から付き合っている真野さん役に平祐奈。先生になった西片が担任している登校拒否気味の生徒役を『カラオケ行こ!』でやくざにカラオケを教える中学生に扮し注目された齋藤潤が、彼に想いを寄せる女子生徒を『流浪の月』の白鳥玉季が演じている。
そして、ドラマにも映画にも彼らを見守る田辺先生が登場する。両方とも江口洋介。教頭先生に昇進しているというのが、10年の経過を感じさせる。江口の存在と、美しい小豆島の風景が、ドラマと映画のブリッジ役だ。
美術の先生をめざす教育実習生の高木さん。3週間の実習先に母校を選んだのは、もちろん理由があったわけだが、ひと足先に社会人になった西片は、あいかわらずまだ、とっても鈍い。
10年間も初恋の人を想い続けるって、それ現実的?と感じる節もあるけれど、先月日本公開された『パスト ライブス/再会』もそうだった。あれも、淡い恋心を抱いていた幼なじみが、親の都合で離ればなれになり、大人になって再会する話だった。成就するかどうかは別にして、長い時間をかけて想い続ける純愛ってのは、心に響く。
見ているあいだ、微笑ましくって、いい気分にひたれた。なんて可愛らしいカップルだろう。とはいえ最初は、もどかしさ、はがゆさでむずむずしてしまう。が、慣れてくると、実はこれが、この映画の魅力なのだと気づく。
からかい、からかわれの関係。でも、そんな中でほんの少し、ふたりが沈黙してお互いを見つめる瞬間があったりする。相手を想う、なんともいえない“間”……。そんな一瞬のシーンも今泉監督作品らしい。昭和のフォークグループ、トワ・エ・モアが歌った『或る日突然』という曲みたい。
映画のあとで、Netflixのドラマをみた。たわいない中学生の話なので、一般的に言う“おとな向き”ではないけれど、ワクワクしながら楽しんだ。映画のあのシーンは、そっかそっか(←高木さんの口ぐせ)こういう意味だったのかと確認できる面白さも。コミックは、どうしようかな?
文=坂口英明(ぴあ編集部)
【ぴあ水先案内から】
中川右介さん(作家、編集者)
「『赤いスイートピー』は、知り合った日から半年が過ぎても手をにぎらない話だが、これは10年過ぎても手をにぎらない話。だ……」
伊藤さとりさん(作家、編集者)
「……不器用な人間たちが自分で拗らせてしまった感情を誰かに手助けされながらほどいて行くようにも思える脚本……」
(C)2024 映画『からかい上手の高木さん』製作委員会 (C)山本崇一朗/小学館