
『ミッキー17』は全世界が注目するポン・ジュノ監督の集大成
『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督最新作『ミッキー17』が3月28日(金)から公開になる。ポン監督はこれまでも様々なジャンル、語り口の新作を披露し、観客を驚かせ続けてきたが、本作も予測不可能なドラマが描かれる。キャリア最大のスケールでこれまでの集大成となる傑作が誕生した。
“ハラハラするけど笑える”ポン・ジュノの世界

ポン・ジュノ監督は1969年生まれ。映画学校で学びながら短編作品を手がけて注目を集め、2000年に『ほえる犬は噛まない』で長編デビュー。その後は『殺人の追憶』(2003)、『グエムル-漢江の怪物-』(2006)と韓国の映画興行記録を塗り替える大ヒット作を手がけ、2013年には『スノーピアサー』で海外に進出した。
2019年には『パラサイト 半地下の家族』が世界的に大ヒット。カンヌ国際映画祭の最高賞、アジア映画として初めてアカデミー賞®作品賞に輝いた。
ポン監督の作品はサスペンス、アクション、家族ドラマ、近未来ドラマなど複数のジャンルのテイストが融合しているが、どの作品も緻密なキャラクター表現と、笑いがふんだんに盛り込まれている。中でもコメディの描写は緊張感やハラハラする場面にも登場し、観客は極度の緊張感を感じながら思わず笑ってしまったり、極限状態に置かれる人間の剥き出しの感情やちっぽけさを“笑い”を通じて感じたりする。
ハラハラするけど笑える、笑った先に深いドラマがある。そんな奥行きのある描写もポン監督作品の見どころのひとつだ。
『ミッキー17』でも主人公は人生失敗だらけのダメダメ男で、過酷な環境に放り込まれて死んではまた生き返らされる仕事に従事しているが、その描写には思わず笑ってしまう。さらに17番目のミッキーの前に、なぜか18番目のミッキーが出現したことで、ミッキー17はパニックに。ポン監督はこの混乱も、緊迫感のあるドラマとして描く一方で、しっかり笑えるコメディとしても描いている。
単なるギャグではなく、キャラクター描写や状況をさらに効果的に見せるために繰り出される笑い、予測不可能な展開とセリフ……ポン・ジュノ監督が得意とする"ブラックな笑い”が本作では最高レベルで次々と出現。緊張感を感じながら思わずニヤリとしてしまう場面の連続だ。
監督が主人公を“使い捨てワーカー”にした理由。

原作になったエドワード・アシュトンの小説『ミッキー7』の主人公は歴史学者だが、監督はプロジェクトに着手した段階から主人公を“使い捨てワーカー”にしようと考えた。
「最初に要約を読んだ時から、ミッキーのキャラクターに強く惹かれました。彼を通じて現代の若者、現代の労働者階級を描けると思ったからです。原作のミッキーはもっとインテリで、歴史学者という設定でしたが、現代の若者、ワーキングクラスの人たちがもっと共感しやすいキャラクターにできると思いました。なにせ、彼の仕事は、毎日死ぬことなのですからね。そのこと自体、すごく興味深いです」
これまでもポン・ジュノ監督は繰り返し、社会の片隅で光を当てられていない人物、何の支援もないままの人たち、苦しんでいるのに無視されている人たちを描き続けてきた。そして『オクジャ/okja』ではその視線が人間だけでなく動物たちにも及んでいる。
「この映画では、ある時期に起きた特定のこと、あるいは私たちがニュースで毎日見る特定の問題ではなく、歴史の中で繰り返し起きてきたことに焦点を当てたつもりです。
『グエムルー漢江の怪物―』では、政府から何の手助けもしてもらえない家族を描きました。『スノーピアサー』でも、やはり力を持たない階層の人たちを描きました。この映画のミッキーのジャーニーにも、そこに通じるものがあります。ミッキーも権力を持ちません。彼には何の権限もありません。私は“なぜ?”と問いかけます。なぜ私たちは、力のない階層の人たちを目にし続けているのか。私たちはしょっちゅう未来や、テクノロジーの進化について語ります。社会は前進しているはず。なのに、どうしてここは向上しないのでしょう? この物語はそこを探索すると思います」
『ミッキー17』でも社会の上下構造を思わせるビジュアルが何度も登場する。とにかく楽しいエンターテイメント作品でありながら、同時に現代社会の抱える問題や、普遍的な人間ドラマを描く。ポン監督の持ち味と魅力がここにも発揮されている。
こんな映画は観たことがない! 唯一無二にしてポン監督の集大成

主演を務めたロバート・パティンソンは脚本を読み、最初にこう感じたという。
「こんなものはこれまで読んだことがない」
未解決の連続殺人事件を追う中で刑事たちが想像もしなかった迷路に入り込んでしまう、韓国に出現した巨大な怪物に平凡な一家が立ち向かう、寒冷化した未来世界を列車が周回している世界を描く、半地下のアパートで暮らす家族が高級住宅街で暮らす一家を乗っ取ってしまう。
振り返れば、ポン・ジュノ作品は”これまで観たことがない”映画のオンパレードだ。その設定はとにかく斬新で、観る者の予測がつかないものでありながら、難解さはなく映画が始まると観客はスッとその世界に入り込んでしまう。
先にあげたブラック・コメディの要素、社会につながる設定やドラマづくりに加えて、俳優とキャラクターを演出する力、スクリーンに映えるビジュアルを描く能力の高さ、語り口(編集)の巧妙さ、物語を語る際のデフォルメ&誇張の匙加減の絶妙さ、省略の的確さ……ポン・ジュノ作品を語る上ではいくつもの“注目ポイント”があるが、『ミッキー17』にはそのすべてが詰まっている。
他の映画にはない設定と、他の映画では味わえない面白さ、そしてポン・ジュノ監督作品にしかないテイストが楽しめる本作。公開後には唯一無二の魅力と刺激を求めて何度も映画館に通うことになるだろう。
『ミッキー17』
3月28日(金) 公開
mickey17.jp
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