オスカー最有力の声! B・スプリングスティーンの“心の内”を描く傑作が登場
映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』は、誰もが知る伝説のシンガーソングライター、ブルース・スプリングスティーンの若き日を描いた作品だ。映画がプレミア上映された夜から世界各地で高評価と熱狂の声が次々にあがり、本年度の映画賞の最有力、との声もあがっている。
伝説のロックスターの若き日々
ブルース・スプリングスティーンは現在も最前線で活動を続ける世界的なシンガーソングライターで、ロックの英雄と呼びたい存在だ。『明日なき暴走 (Born to Run)』『ボーン・イン・ザ・U.S.A. (Born in the U.S.A.)』など数々の名盤を発表し、歴代のツアーはその規模、動員ともに歴史に名を刻む成功を収め続けている。そのステージの完成度の高さと熱量は圧巻で、どんな状況であっても決して膝を折ることなく自身の想いを叫び続けている。
ブルースのキャリアにはいくつかの転換点、注目すべき点があるが、本作では1982年、彼がまだ若くロックスターとしての名声を得たばかりの時代が描かれる。アルバムもツアーも成功を収めたブルースはなぜ、ステージからはなれて自宅にこもったのか? 彼はなぜ誰にも頼らずにひとりきりで新アルバムを制作したのか? そしていつも力強く、迷いのない目でステージに立っているように見えたブルースが抱えていた迷い、苦しみ、過去とは?
映画では世界的なスターで“アイコン”と呼んでもいいブルースのありのままの姿が描かれる。幼い頃から抱えている家族に対する複雑な感情、自身の音楽に対する迷い、私生活とスターであることの葛藤など、ブルースの内面が繊細なタッチで、同時に容赦なく描き出される。
とは言え、本作は有名人の裏話や暴露映画ではない。ここにある感情は普遍的なもので、スターのヴェールを脱いだ孤独な男の悲しみや迷いは誰の胸にも静かに、しかし確実に突き刺さるだろう。もしかしたら、まだブルース・スプリングスティーンを知らない人にとって本作は“最高の出会い”になるかもしれない。
劇中でブルースを演じたジェレミー・アレン・ホワイトは語る。
「この物語が私にとって重要なのは、長年称賛され、その音楽は誰もが知るほど親しみ深い人物でありながら、その人生の物語は知られていないかもしれないからです」
まだ誰も知らないブルース・スプリングスティーンがここにいるのだ。
ブルース本人も協力して実現
本作は実現の難しいプロジェクトだった。というのも、ブルースと彼の長年のマネージャーのジョン・ランダウはこれまで持ち込まれた同様の企画のほぼすべてを断ってきたからだ。プロデューサーのエレン・ゴールドスミス=ヴェインは「簡単にはいかないと分かっていました。それでも私は、この物語を映画にするには、本物の感情の深みや生々しさ、人間的な経験を描ける監督が不可欠だと確信していました。そしてその人物は、スコット・クーパーだったのです」
スコット・クーパー監督は俳優としてキャリアをスタートさせた後、2009年に脚本と監督を務めた『クレイジー・ハート』を発表した。名優ジェフ・ブリッジス演じる中年のカントリー・ミュージシャンの物語を描いた作品で、ブリッジスはオスカー主演男優賞を受賞。歌曲賞にも輝くなど、映画としてのクオリティ、劇中音楽のレベルの高さも高評価を集めた。
クーパー監督が本作で目指したのは、ドキュメンタリーでも伝記映画でもなく、ひとりの音楽家が人生の岐路に立ち、自分自身を見つめなおす物語。その想いにブルースたちはGOサインをだした。
実際にプロジェクトが始まると、ブルースとジョン・ランダウは脚本の開発、プロダクション・デザインや衣装などにも協力したという。
ブルースは「『クレイジー・ハート』を観たことがあり、スコットが映画の中で音楽を扱う方法を理解していると知っていました。『ファーナス/訣別の朝』も観たことがあり、彼がブルーカラーの生活を捉えることができ、その生活に対する真の感覚を持っていることを知っていました」と語る。
「彼の映画のトーンには、私がとても好きな生々しさがありました。それは、私が最も好きな映画時代の一つである 70 年代の映画を彷彿とさせるものでした。また彼は、この作品が伝記映画ではなく、音楽を伴ったキャラクター主導のドラマであることを理解していました。彼は素敵な人物であり、素晴らしい監督であるだけでなく、この仕事に適任の人材だと感じました」
ブルースは“自分”を演じる俳優ジェレミー・アレン・ホワイトにも会い、彼に求められた時にはアドバイスをおくり、映画の制作過程を通じてすべてを見守った。
作品のためにできることはすべて提供する一方で、映画制作者たちの自由はしっかりと確保する。ブルースとランダウが本作のチームに多大な信頼を寄せていたことがわかる。
ちなみに作品が完成し、第63回ニューヨーク映画祭でプレミア上映が行われた際には、ブルースとランダウもサプライズで会場に姿を見せ、ブルースは上映後のステージにあがり、ギター1本で「LAND OF HOPE AND DREAMS」を熱唱。集まった観客をわかせた。
批評家も絶賛! 本年度の映画賞で最有力候補に!
プレミア上映の直後からメディアには批評家の絶賛コメントが次々に掲載されている。
“Deadline”は「アーティストの魂を探求する、知的で緻密なテンポの旅路を描いた傑作」と評価し、“THE WRAP”は「ホワイトのしょんぼりとしたカリスマ性はまさに完璧だ」「スプリングスティーンのファンにとっては、道中、満足感を得られるエピソードが数多くある」「だからこそ、この映画は他に類見ないほど感動的で、満足感に溢れたロックンロール映画となっている」と絶賛。
他にも数多くのレビューが掲載され、現在も増え続けている。そのどれもが、主演のジェレミー・アレン・ホワイトの演技の完成度はもちろん、劇中の音楽、脚本とそこで描かれるドラマ、クーパー監督の演出などにも触れており、映画を構成するあらゆる要素で完成度が高いことが伺える。
早くも記事などでは本年度の映画賞で本作を有力候補とする声があがっている。演技だけでなく全方位的に評価が高いため、俳優部門だけでなく、作品賞や脚本、監督、撮影などの部門でも本作に栄冠がもたらされる可能性もありそうだ。
最後にもうひとつだけ触れておくと、クーパー監督の作品は『クレイジー・ハート』も『ファーナス/訣別の朝』も公開から長い時が経っても映画ファンから愛され続け、繰り返し名前のあがる作品だ。本作も“本年度の映画賞”に輝くだけでなく、これから何年経っても繰り返し名前があがり、新たな観客を獲得し続ける。そんな作品になることは間違いない。ブルースの楽曲がそうであるように。
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