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ついに劇場公開! スプリングスティーンを知らなくても楽しめる“共感”の映画!

映画
PR 第5回 2025年11月14日
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映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』がついに本日から日本での公開をスタートさせた。

本作は数々のヒット曲を持ち、圧倒的なステージで聴衆を魅了するシンガーソングライター、ブルース・スプリングスティーンが主人公の物語だが、すでに公開された地域で寄せられているのは“共感”の声だ。

なぜ、世界的なシンガーが主人公の映画に観客は共感を寄せるのだろうか?

主人公が抱く普遍的な感情とドラマ

“ザ・ボス”の愛称で知られるブルース・スプリングスティーンは、アメリカ出身のシンガーソングライター。『ザ・リバー (The River)』『ボーン・イン・ザ・U.S.A. (Born in the U.S.A.)』など、数多くのヒットアルバムを発表し、ギネスブックに載るほどの規模のツアーを成功させてきた“ロック界のカリスマ”だ。

となると、本作に登場するのは巨大なステージや豪邸、と思うかもしれないがさにあらず、誰もいない家で孤独に暮らす男だ。1980年代の前半、ブルースはツアーを終えた後、故郷のニュージャージーに家を用意して、ひとりで暮らすようになる。当時、彼は成功の重圧を感じ、幼い頃から抱えている悩みに押しつぶされそうになっていた。

そこで彼は自宅に複数のチャンネルを録音できるレコーダーを持ち込んで、ベッドルームでひとりで創作を開始する。そこで歌われるのは、多くの人が彼に抱いているイメージとは異なる静謐で、思慮に満ちた楽曲ばかり。その歌声は繊細で、迷いや痛みがそのまま声になってシンプルなギターに乗っている。後に名盤として愛され続けるアルバム『ネブラスカ (Nebraska)』に結実する創作過程が、映画の中心に据えられている。

ここで描かれるのは、ひとりの人間が自身の内面に向き合う姿だ。忙しい日々を送っていると“先送り”にしてしまっていたことが増えてくる。それはやがて心の片隅を占めるようになり、そう簡単には解決できないことが分かってくる。こんな想いをしたことのある人は少なくないのではないだろうか? 

私たちは世界的なスターではないし、こんな名曲を書くことはできない。しかし、自分と向き合い、過去を思い出しては苦しみ、事態がうまくいきかけたかと思えば裏切られて深く落ち込んだりするブルースの姿は、誰もが共感するはずだ。

もちろん彼が味わうのは苦しみだけではない。ニュージャージーで彼はダイナーで働く女性と出会い、安らぎを感じ、仲を深めていく。一方で恋愛は、自分自身の至らなさを教えてくれるものでもある。そんな切なさ、そこで生まれる痛みや涙も、多くの観客の共感を呼ぶだろう。本作を手がけたスコット・クーパー監督は語る。

「これは“ザ・ボス”というアイコンではなく、孤独で岐路に立ち、自分自身を見つめ直すブルースについての物語です」

語り継がれるであろう親子の物語

劇中でブルースは繰り返し、自分の幼少期を思い出す。彼が幼い頃、父は酒に溺れ、幼いブルースは父の暴力と独裁的な態度に怯えていた。部屋にいれば聞こえてくる父と母が争う声も、ブルースを不安にさせる。

年齢を重ねても心にダメージを与え続ける父の存在。自身を信じて導いてくれた母の存在。映画は現在と過去を行き来しながら進んでいき、ブルースの内面では過去と現在は交錯する。すべては過ぎ去った出来事。しかし、彼にとってはまだ終わっていないのかもしれない。

ブルースの父ダグを演じたスティーヴン・グレアムは、演じる上でブルース本人と話し合ったという。

「ブルースが父親について話すとき、声のトーンを変え、威圧的な人物像を作り上げていることに気づきました。そのことに気づいているかと尋ねると、彼は気づいていないと言った。“ダグ”という概念を自ら作り上げていたのでしょう」

スティーヴン・グレアム(左)とスコット・クーパー監督(中央)、スプリングスティーンを演じたジェレミー・アレン・ホワイト
(a)Jamie McCarthy

そう。ここにいるのは、実在の父親ではないかもしれない。ブルースが長年にわたって心の中で築き上げてきた“父・ダグ”という存在だ。だから、父が変化したり、ブルースの前からいなくなるだけでは問題は解決しない。

ブルースが変わらなければ、ブルースが自身の父親像と向き合わなければ、この物語は終わらない。

映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』は、単純なトラウマや苦しい過去として片付けるのではなく、主人公が自身で築き上げたイメージに対峙して、自分自身が変わることで高い壁を乗り越えようとするドラマを描くことに成功している。

映画の後半でブルースと父の関係にある変化が訪れるが、それはブルースが何かを克服したからでも、相手に復讐したからでもない。過去は変えられないからだ。それでもブルースは親子の関係を受け入れ、乗り越える。その結末はとても誠実な展開で、感涙必至の内容だ。

これまで数々の親子の確執を描いた映画が存在したが、本作が描く親子のドラマの誠実さ、心震える結末の美しさは、今後も語り継がれるだろう。

“孤独”を確認することで人間は前を向ける

ここまで、苦しい、悩み、孤独……のフレーズを連呼してきたが、本作は映画館を出るときにはこれ以上ないほど“前向き”な気持ちになれるパワースポットのような作品だ。

なぜ、人生の厳しい時期を過ごす男のドラマを観て、こんなにも力がわいてくるのだろうか? 主演のジェレミー・アレン・ホワイトがブルース本人と名盤『ネブラスカ (Nebraska)』について話し合った際のエピソードにヒントがある。

「アルバム最後の曲『Reason to Believe』についてブルースと何度も話しました。この曲はいつも私に小さな希望を与えてくれますが、ブルースは公の場で“このアルバムで最も希望に満ちていない曲だ”と語っているんです。でも、このアルバムは特に孤独や人間、そして名もなき存在であることについて歌っていると思います。自分が迷ったり、少し孤独を感じたりしたときはいつも、このアルバムに支えられてきました」

ホワイトの言葉に納得しかない。そのとおりである。人は“明るく前向き”な言葉を受けて、前を向けるほど単純ではない。人間は時に歌や物語を通じて“孤独”に触れ、自分の中にある“孤独”を確認することで前を向けるのだ。

本作が描くのは楽しい感情ばかりではない。しかし、ここにあるのはネガティブなものではなく、観客の誰もが感じたことのある、そして観客に“寄りそってくれる”感情たちだ。

上映中、あなたの感情は激しく動き、上映後には深い余韻と希望が待っている。ホワイトは力強く語りかける。

「この物語が私にとって重要なのは、長年称賛され、その音楽は誰もが知るほど親しみ深い人物でありながら、その人生の物語は知られていないかもしれないからです。ブルースが私たちにこの映画を制作させ、最も脆弱な姿を見せることを許したことは、勇気ある行為だと思います。

私は、観客がこの映画を観終えたときに希望を感じ取ってほしい、と思っています。深く尊敬してきた人物がどん底に落ち、そこから這い上がっていく姿を見届けることで」

スプリングスティーン 孤独のハイウェイ

(C)2025 20th Century Studios 11月14日(金)公開

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