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第1回:PFF荒木啓子ディレクターが語る、映画祭の役割と今年のPFF

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世界最大級の自主映画コンペティション“PFFアワード”を擁する映画祭「ぴあフィルムフェスティバル」(以下、PFF)が9月11日(土)に開幕する。メインプログラム“PFFアワード”をはじめとして、特集やスペシャル映画講座など様々な企画が約2週間に渡って用意されている。

日本にも様々な映画祭が存在するが、PFFは他の映画祭と何が違うのか? 今年はどのような想いでプログラムが組まれたのか? 荒木啓子ディレクターに話を聞いた。

“一生懸命になにかをやっている人の美しさ”があるPFFアワード

PFF荒木啓子ディレクター

本映画祭のメインは“PFFアワード”。上映時間やジャンルなどの規制が一切ない条件で集まった489作品を時間をかけて審査し、選ばれた18作品が上映される。誰かに頼まれたわけでも、商品として制作されたのでもない自主映画は、作り手の“表現したい想い”の結晶だ。

「PFFはまだ評価されていないもの、保証がなにもないものを尊重する映画祭だと思っています。監督たちのゼロ地点、スタートラインから一緒にやっていく。だから、この映画祭は“一生懸命になにかをやっている人の美しさ”みたいなものがあふれている場所だと思うんですね。ここにいるアワードの監督たちはすごく頑張っていて、恥ずかしい言い方なのかもしれないですけど、ここには“青春の美しさ”がある。映画でなにかを描きたいと思った時には、しがらみだったり、恐怖だったりがあるはずで、ここにいる監督たちはそれを超えてきた。そうしてなにかを創造したり、発表することを味わって、もう元の場所には戻れない人が映画監督を続けているわけです。

だから、ここには無垢な美しさ、人間の持っている創造の純粋さがあって、それは人類が信じなくてはいけないものだと思っています。勿論、映画ごとに上手・下手はあるし、もしかすると全然別の道に進んでいく方もいるのかもしれないですけど、毎年こうして500人近い人がPFFに応募くださっているわけですから、“世の中可能性に満ちているな“と、しみじみ思います」

映画祭は自分の中の“芯”を見つける場所

昨年のPFF

映画祭では各監督が来場し、上映後にはQ&Aが行われる。監督によっては自作を不特定多数の観客に披露することが初めての場合もあれば、自作について観客と語り合うことも初めてのケースもあるだろう。映画と監督と観客が会場で初めて出会い、変化が訪れる。それも映画祭の醍醐味のひとつだ。

「去年のアワードのグランプリに選ばれた『へんしんっ!』の石田智哉監督は映画祭の期間中ずっと観客の反応が知りたいとおっしゃってました。彼は自分にしっかりとしたテーマや軸があるから、観客の反応を知りたがっていたと思うんですけど、多くの監督は観客の反応を受けることでどうなるかまだ未体験。今回の上映から、自作を“観せる”ということを考え始める人も多いのです。

人はそう簡単に自分の中の“芯”を発見できるわけじゃない。それを見つける場所が映画祭だと思うんですね。ほかの表現と同様に、自分で始める自主映画は自分で自分を発見していく場所。その時に映画祭がサポートすることで、個人ではなかなか困難な交流と発見の場が作れるのだと思います。

この映画祭は“PFFアワード”が芯であることは確かなんです。今年も配信がありますし、なにかピンと来たものがあれば、どのプログラムでも観に来てほしいですね」

入選監督たちにも観て欲しいという思いで企画した様々なプログラム

『ナワポン・タムロンラタナリット監督特集~タイからの新しい風~』。ここまで一気にナワポン作品を観られるのはPFFだけ!

さらに今年はデビューから10年で7本の長編映画を発表し、さまざまな映画祭でも高評価を集めるタイの俊英ナワポン・タムロンラタナリット監督の特集や、上映とトークを組み合わせたPFFスペシャル映画講座、恒例企画“映画と音楽シリーズ”など様々なプログラムが用意されている。

本映画祭の特集は、単に観客に向けて開催されるだけではなく、PFFアワードに入選した若い監督たちに向けて企画が練られているのも特徴だ。

「ナワポン・タムロンラタナリットはずっと気になっていた監督だったんですよ。(2012年のPFFアワードグランプリ作品)『くじらのまち』が海外の映画祭で上映された時に、何回か鶴岡慧子監督と一緒に旅したのですが、ナワポン監督の初長編『36のシーン』が、釜山映画祭でもベルリン映画祭でも『くじらのまち』と同じセクションで上映されたので、監督とは交流がありました。

それまで短編王子と呼ばれて注目されていた監督が、その後、ものすごい数の作品をつくっていった。その軽やかさと、映画を発見して楽しくてしょうがない感じを伝えるために、まとめて紹介したかったのです。彼が影響を受けているのは、主に1990~2000年代の日本映画なんですけど、同じ時代に日本に生きている映画監督たちが彼みたいに浴びてきた日本映画を吸収して、自分なりの映画を構築して出せているかと言われると、日本の監督たちは“新しいことをやらなくてはいけない”というプレッシャーと、“商業映画だとこんなことはやってはいけない”という思い込みに押しつぶされてる感じがする。だから、そんなプレッシャーは忘れて、好きなことは好きって言っていいんだよって言いたくてナワポンの特集をやりたいんです。いまの監督たちにもこのスピードが得られる環境にしたいと思いますし、彼の映画を観ておくことで、アワードの監督たちが、少し楽になるといいなとも思います。

「映画講座」プログラムは、“話を聞けば聞くほど面白くなること”って世の中にはあるので、その場所を作りましょう、という企画です。映画を観る視点をちゃんと持っている人が語った時にその映画も生きると思うんです。そうすることで過去の映画を今に生かしたいと思っています。

たとえば今回、ゲストのおひとりの横山百合子さんはジェンダー研究で著名な方。国立歴史民族博物館の教授です。横山さんが加藤泰監督の『骨までしゃぶる』を語ったら絶対に面白いことになるだろうなと思ってご相談しました。最初は「私、映画のことは詳しくないんです」って戸惑っておられたのですが、映画を観てもらったら「この映画は遊郭についての教科書みたいな映画ですね! 女子高生の必見映画にしたいくらい。この映画ならお話できそうです」って。だから映画に詳しいかどうかは関係なくて、確かな視点があることが大事だと改めて思いました。

この映画講座プログラムを通して、これまで観てきた映画もまったく違う角度から“この映画はすごい”と思える5つの時間です。

非日常を味わいに会場に来て、ぜひスクリーンで観てほしい

上映後に監督と作品について語り合うことが出来るのもPFFならでは!

PFFの会場では毎年、上映後に監督と観客が作品についてロビーで語り合う場面や、参加した作品のスタッフやキャストが交流する光景が見られる。単に“映画を観る”以上の体験、これまでに感じたことのない想いや映画に出会える可能性がある、それがPFFだ。

「なかなか口にするのがはばかられる状況ではありますが、会場に来て、スクリーンで観てもらいたいですよね。映画館は感染のリスクは低いですし、感染防止対策は充分致しますので、できれば実際に来て観てもらいたいですし、会場で監督たちに会って“熱”を感じてもらいたい。映画祭に来ることで非日常が味わえると思いますし、絶対に楽しい、未来が明るくみえる体験になると思います!」

【ぴあからお知らせ】

次回(8月27日配信予定)は、今回のお話にもチラッと挙がった、ナワポン・タムロンラタナリット特集についてご紹介します。

そんなナワポン監督からPFFの特集上映に際し、メッセージが到着!日本好きでも知られる監督の熱いメッセージ、是非ご覧ください。

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