いま、ドキュメンタリーがアツい! TBS DOCS特集④
TBSの“本気”がつまったドキュメンタリーの祭典
今年も全15作品が集結して開催!
「TBSドキュメンタリー映画祭2023」特集
近年、洋邦問わず多くの作品が劇場公開され話題を呼ぶようになったドキュメンタリー作品。また、劇場公開作だけでなく、NETFLIXなどでもたくさんのドキュメンタリー作品が制作・配信され、その人気も高まっている。そんな中、開局以来ドキュメンタリーに力を注いできたTBSが“テレビで伝えきれない事実や想い”を発信すべく立ち上げた「TBSドキュメンタリー映画祭」、その第3回目となる「2023」がいよいよ開幕!
今回上映されるのは、社会派からエンタメ色が濃いものまでバラエティ豊かなラインナップ。本特集ではその15作品を紹介するとともに、「ぴあ水先案内人」の皆さんの期待&おススメや、同映画祭のアンバサダーを務めるLiLiCoさんのインタビューをお届けします!
ぴあ「水先案内人」が
期待&おススメする作品は?
LiLiCoさんが語る
TBSドキュメンタリー映画祭の魅力
テレビのニュースの続きやその裏を伝えたい!
TBSの“本気”が刻まれた15作品が集結!
数々の人気番組、ニュース番組を手がけるテレビ局として知られるTBS。同局が1955年の開局以来、制作・放送を通して注力してきたのがドキュメンタリーだ。これまでも多くのドキュメンタリー作品を世に放ってきた同局だが、彼らの主戦場であるテレビだけでは伝えきれない真実や声なき心の声をさらに強く発信していこうとスタートしたのが「TBSドキュメンタリー映画祭」だ。
記念すべき第1回開催となった「TBSドキュメンタリー映画祭2021」では22作品、昨年2022年3月開催の「TBSドキュメンタリー映画祭2022」では11作品を上映。今回も、国境もジャンルも越えたさまざまなテーマを描いた全15作品が出揃った。
※全15作品のラインナップはこちら
作品を作っているのは、いずれもTBSで日々、ニュースや番組に向き合い、現場に足を運び、取材を続けている記者やディレクターたち。その取材力は抜群だ。
さらに彼らは誰よりも取材対象者に対する思い入れが強い。それでも日々のニュース番組などでは、放送枠に収めるため、膨大な取材記録の大半はカットされてしまう……。
本映画祭では、放送されなかった“その後”の物語、短い映像では描ききれなかった貴重な映像や語り。取材する者、される者双方の熱い想いが映画作品として上映される。
過去にテレビ放送された題材もあるが、全作品、映画祭のためさらなる取材や編集を行なった“劇場版”で、テレビでは表現できない部分、映画館のスクリーンに映えるシーンなどがふんだんに盛り込まれている。
「本気の人間は面白い」。これは今回の映画祭のキャッチコピーだが、まさにこの言葉どおり、“本気”の人々の人生を、“本気”の制作者たちが映像に刻みこんだ全15作品。ぜひ劇場のスクリーンで堪能してほしい。(※動画配信もあり)
TBSドキュメンタリー映画祭2023
2023年3月17日(金)~30日(木)
東京:ヒューマントラストシネマ渋谷
2023年3月24日(金)~4月6日(木)
大阪:シネ・リーブル梅田
2023年3月24日(金)~4月6日(木)
名古屋:伏見ミリオン座
2023年4月15日(土)~21日(金)
札幌:札幌シアターキノ
TBSドキュメンタリー映画祭2023の
珠玉のラインナップ15作品一挙紹介!
① アフガン・ドラッグトレイル
街を見下ろす小さな丘を月明かりが淡く照らし出していた。 草木は無く、ゆらゆらと揺れる遠くの町の灯りまで見通せる。 「ザッザッ」駆け下りる足音が異様に目立つ。 戦闘員の怒号と老人の泣き声が静寂を切り裂いた。 アフガン・ドラッグトレイル―。 薬物中毒者の取り締まりは苛烈だ。 それでも常習者たちは「地獄」と呼ばれる橋の下に集まり、ゆっくりと死を待つ。 この国を蝕む薬物の闇。 私たちはその深部にカメラを入れた。
監督:須賀川 拓 ©TBSテレビ
② それでも中国で闘う理由
~人権派弁護士家族の7年~
2015年夏、中国で人権派弁護士ら約300人が拘束された。 そして今でも、突如連絡を絶ち、拘束されたことが後になって判明するケースが相次いでいる。 「党の100年は人権のために戦い、人権を尊重し発展させた100年だ」と主張する習近平指導部。 急速な発展を遂げ経済大国となった中国で何が起きているのか。 一家の大黒柱を突然失いながらも奮闘する家族を通して、中国社会の現実を見つめる。
監督:延廣 耕次郎・松井 智史 / 78分 ©TBSテレビ
③ オートレーサー森且行
約束のオーバルへ
2021年1月の落車事故。それは「5ミリずれていたら即死していたかもしれない」「一生車椅子生活になるかもしれない」大事故だった。5度の大手術、両足麻痺の後遺症。それでも、森且行は再び歩くことを、再び走ることを諦めなかった。壮絶なリハビリ、心にあるSMAPの仲間たちへの思い、現実を知って頭をよぎったもう1つの選択肢。50歳目前、ゼロから再起を目指す2年間の闘いを追った。
監督:穂坂 友紀 ©TBSテレビ
④ カリスマ
~国葬・拳銃・宗教~
私は普段、TVドラマのスタッフとして現場のエキストラと向き合っている。閉じられた画面の中を豊かにするため、決められた設定を生きるエキストラ。私は彼らに、国家や組織という閉じられたフレームの中で生きる、自らの人生を見た。私は誰しもに問いたくなった。「あなたの人生の主役は誰?」国葬、反対デモ、かつて世間を驚かせた「イエスの方舟」。日本社会のエキストラと主役(カリスマ)に、時を超えてマイクを向けた。
監督:佐井 大紀 ©TBSテレビ
⑤ 東京SWAN 1946
~戦後の奇跡『白鳥の湖』全幕日本初演~
敗戦直後の1946年、京城出身の青年・島田廣は、自身のバレエの才能を見出したロシア人の師匠、エリェナ・パァヴロヴァの悲願を成し遂げるために前代未聞の『白鳥の湖』全幕初演という無謀な挑戦に奔走する。 次々と仲間を増やしていく島田の前に現れたのは、若き日に密航し、上海でスターダンサーに昇りつめた謎の男・小牧正英。 焼け跡の東京で食べ物も稽古着もない中、手探りで作り上げた奇跡の舞台の歴史秘話。
監督:宮武 由衣 / 81分 ©TBSテレビ
⑥ War Bride
91歳の戦争花嫁
彼女の名前は桂子ハーン、91歳。 私の伯母である。 桂子は1951年、20歳の時に米軍の兵士と結婚し海を渡った。 『戦争花嫁』とよばれた―。 戦後たった5年、米兵と歩いているだけで娼婦と言われる時代に「何故桂子は敵国の軍人と結婚をしたのか?」 そこにあった幸せとは―。 激動の時代を生きた桂子の人生・生き様・家族・苦悩・差別などを当時の世相と共に描いた【真実の愛の物語】。
監督:川嶋 龍太郎 / 79分 ©TBSテレビ
⑦ ダリエン・ルート
“死のジャングル”に向かう子どもたち
中米コロンビアの小さな街に、数万人のハイチ難民が押し寄せていた。 そこで出会った2歳と6歳の幼い姉妹を抱える家族。 混迷を続ける母国を離れ、新たな人生を求め、陸路でアメリカを目指そうとしていた。 彼らが向かったのが、険しい地形やギャングの支配などから“死のジャングル”と呼ばれる密林地帯「ダリエン・ギャップ」。 年間13万人以上の難民が越境を試みる。 その先に希望はあるのか。 アメリカに辿り着けるのか…。
監督:萩原 豊 / 71分 ©TBSテレビ
⑧ 魂の殺人
~家庭内・父からの性虐待~
渡辺多佳子さんが4歳の頃、突然、性虐待は始まった。加害者は、自分の父親だった。“魂の殺人”と呼ばれ、被害者の心に深い傷を負わせる、性虐待。50年以上もの苦しみを経て、多佳子さんは決意する。実名で被害を告発すること。そして、絶縁状態にあった父親と対峙することを。「抵抗できなかった私が、悪いんですか?」多佳子さんの問いかけに、父親が語った言葉とは―。声を上げ始めた被害者たちと、その闘いを描く。
※性暴力の表現があります。当事者の方はフラッシュバックにご注意ください。
監督:加古 紗都子 / 71分 / 年齢制限:PG12 ©TBSテレビ
⑨ サステナ・ファーム
トキと1%
あなたの街でもミツバチやトンボが減った? それは平成に入って登場し、今や最も多く使用されている殺虫剤「ネオニコチノイド系農薬」の影響があるかもしれない。 いや、虫どころか宍道湖ではウナギやワカサギ、佐渡ではトキにも悪影響が? その謎に挑む大学教授たち…。 さらにヒトへの懸念も浮上した。 そこで農薬や化学肥料に頼らない有機農業を取材し始めると、究極の持続可能な農園=サステナ・ファームに遭遇した。えっ?
監督:川上 敬二郎 / 69分 ©TBSテレビ
⑩ KUNI 語り継がれるマスク伝説
~謎の日本人ギタリストの半生~
「絶対プロになってみせる!」強い信念のもとアメリカへ渡った日本人ギタリスト「KUNI」。ミステリアスな仮面をかぶり、L.A.メタルブームに沸くミュージックシーンのど真ん中で、ギタリストとしての地位を築き上げ、悲願の全米デビューを果たす。帰国後は音楽プロデューサーとして活動し、再びステージにも上がるが、突如ギターを封印。なぜ彼はギターを封印したのか? ロックシーンの最先端を駆け抜けた「KUNI」の謎に迫る。
監督:佐藤 功一 ©TBSテレビ
⑪ 通信簿の少女を探して
~小さな引き揚げ者 戦後77年あなたは今~
ディレクターが偶然手にした画家ゴーギャンの古書に、1枚の色褪せた通信簿が挟まっていた。昭和23年、大分県別府市の小学6年生の少女のものだった。「あの戦争を生き延びた少女に、通信簿を届けたいー」。それは歴史に埋もれた日本の戦後史を紐解く旅の始まりだった。“通信簿の少女”を探す中で「日本が歩んだ戦後77年」の断片を体験する。令和4年度文化庁芸術祭テレビ・ドキュメンタリー部門優秀賞受賞作品。
監督:匂坂 緑里 ©BS-TBS
⑫ シーナ&ロケッツ
鮎川誠と家族が見た夢
1月29日、「シーナ&ロケッツ」ギタリスト鮎川誠が74歳で逝去した。 福岡発のロックバンド「シーナ&ロケッツ」は1978年に結成され、『ユー・メイ・ドリーム』などのヒットで知られる。 中心となるのは鮎川誠とボーカル・シーナの夫妻。 休止することなく活動していたが、2015年、シーナが子宮頸がんで急逝。 それでも鮎川はバンドの続行を決断したー。 生前彼が語ったその理由と二人の馴れ初めからはじまる人生秘話とは…。
監督:寺井 到 ©RKB
⑬ 93歳のゲイ
同性愛者の長谷忠さんは、結婚をしたことも交際した経験もない。ずっと誰にも打ち明けることなく、好きな男性が出来ても告白することができない時を過ごした。かつて同性愛は「異常性欲」や「変態性欲」だと公然と語られ、治療が可能な精神疾患とされてきた。孤独の中で生きてきた長谷さんに訪れる「出会い」と「別れ」。この国の同性愛の歴史を紐解きながら、本当の自分を隠し続けた「93歳のゲイ」の日々をみつめる。
監督:吉川 元基 / 74分 / 年齢制限:PG12 ©MBS
⑭ やったぜ!じいちゃん
生まれつきの脳性マヒで身体が不自由な舟橋一男さん・75歳。子供の頃には「20歳までは生きられない」と診断された。しかし、75歳の今も元気、結婚し、二人の娘さんをもうけ、更に孫まで。今も印刷の仕事をし、積極的に外出もしている。今から50年前。CBCのカメラが舟橋さんを撮影していた。障がい者4人だけで北陸の温泉に旅する様子を記録したもの。その映像を交えながら、舟橋さんが感じることや暮らしぶりを静かに描く。
監督:仲尾 義晴 / 70分 ©CBC
⑮ 劇場版 ヤジと民主主義
2019年7月、札幌で参議院選挙の応援演説中の安倍晋三総理(当時)にヤジを飛ばした男女が北海道警察に排除された。 年金政策を批判するプラカードを掲げようとした女性らも排除されるなど、表現の自由を警察が奪った問題として注目を集めた。 この問題を追及し数々の賞を受賞したドキュメンタリー番組の劇場版。 テレビでは伝えられなかった映像や証言、追加取材を交え再編集。 安倍氏銃撃事件後、さらに重要な意味を増す問題作。
監督:山﨑 裕侍・長沢 祐 / 78分 ©HBC
ぴあ水先案内人に聞きました!
「これは観たい!orこれはおススメ!」な作品はどれですか?
イソガイマサト (映画ライター)
③『オートレーサー森且行 約束のオーバルへ』
⑦『ダリエン・ルート“死のジャングル”に向かう子どもたち』
⑧『魂の殺人~家庭内・父からの性虐待~』
ドキュメンタリーの魅力とスゴさは、フィクションでは到底描けない人間の数奇な“生”が映し出されるところだ。
『オートレーサー森且行…』は、人気アイドルをやめてまでその世界に入った森が、瀕死の重傷を負いながらも再びバイクに乗るのはなぜなのか?という謎に、監督の穂坂友紀が斬り込んでいることを期待してのチョイス。森の眼差しの先には何があるのか? 彼がどんな言葉を発するのか? 想像しただけで観たくなった。
『魂の殺人…』は50年以上も前の性被害を告白、絶縁状態だった父親との対峙を決意した渡辺多佳子さんの心の深層に迫る内容が衝撃的で興味深い。彼女はなぜ実名で昔の性被害を告白したのか? 久々に再会した父親は何を語るのか? 性被害の問題に一石を投じる作品になっているに違いない。
『ダリエン・ルート…』も、多くのハイチ難民が越境で通る中米コロンビアの密林地帯“死のジャングル”にカメラが潜入した驚愕の作品。彼らはなぜ危険な陸路でアメリカを目指すのか? 壮絶な人間模様に目が釘づけになるはずだ。
水上賢治 (映画ライター)
①『アフガン・ドラッグトレイル』
⑧『魂の殺人~家庭内・父からの性虐待~』
⑦『ダリエン・ルート“死のジャングル”に向かう子どもたち』
目移りするラインナップで正直なところ選びきれない。
悩みに悩んだ末に、1作目に挙げるのは、須賀川拓監督の『アフガン・ドラッグトレイル』。現在公開が続く『戦場記者』でも、少しだけ触れられた混乱の続くアフガニスタンに蔓延する薬物の問題について、さらに突っ込んだであろう取材で須賀川監督が何を見せてくれるのか、期待が高まる。
2作目は加古紗都子監督の『魂の殺人~家庭内・父からの性虐待~』。本作は、幼少期から父親に性虐待を受け続けた女性が、長年絶縁状態にあったその父と対峙する場面が収められているとのこと。加害者である父と被害者である娘というふたりの間で、どのような対話がもたれ、何が語られるのか、しっかりと耳を傾けたい。
3作目は、ギャング支配とジャングルの道なき道をいく危険なルートでアメリカを目指すハイチ難民の家族に密着した萩原豊監督の『ダリエン・ルート“死のジャングル”に向かう子どもたち』。今世界各地で起きている移民・難民の問題に向き合い、その厳しい現実を目の当たりにするであろう1作に注目したい。
よしひろまさみち (映画ライター)
⑥『War Bride 91歳の戦争花嫁』
⑬『93歳のゲイ』
⑮『劇場版 ヤジと民主主義』
報道機関の肝でもあるドキュメンタリーに力を入れているキー局は、NHKとTBS系列だろ、という思いがある。そんなTBS DOCS作品群は、TBSヲタのあたしにとっては実はそのほとんどにデジャブが。というのも、『報道特集』での抜粋版ドキュメンタリーや、『情熱大陸』や『解放区』枠で放映される中長編ドキュメンタリーを観ることが常だから。とはいえ、映画祭で上映されるのは、劇場用に再編集されたバージョンなので、デジャブ感よりも刺激と感動が勝る。
そんな中でも観てもらいたいのが『War Bride 91歳の戦争花嫁』『劇場版 ヤジと民主主義』『93歳のゲイ』の3本。あいにく『ヤジ…』は札幌限定、『93歳…』は大阪限定の上映となるが、足を運んででも観る価値がある。どれも社会問題にぴったり即したテーマと人物を追っているのに、彼らは日々流れるニュースに埋もれ、まったく日が当たっていなかったから。
静かな怒りを携えつつも、眼差しはあくまでやさしい。これら3作を観ると、自己責任論がはびこる今の日本が抱える問題が少し理解できるようになるはずだ。
ぴあ「水先案内人」が
期待&おススメする作品は?
LiLiCoさんが語る
TBSドキュメンタリー映画祭の魅力