いま、ドキュメンタリーがアツい! TBS DOCS特集④
“本気”の人々のドラマを“本気”で伝える!
話題の映画祭が今年も開催!
「TBSドキュメンタリー映画祭2023」特集
近年、洋邦問わず多くの作品が劇場公開され話題を呼ぶようになったドキュメンタリー作品。また、劇場公開作だけでなく、NETFLIXなどでもたくさんのドキュメンタリー作品が制作・配信され、その人気も高まっている。そんな中、開局以来ドキュメンタリーに力を注いできたTBSが“テレビで伝えきれない真実”を描こうと立ち上げた「TBSドキュメンタリー映画祭」、その第3回となる「2023」がいよいよ開幕!
今回上映されるのは、社会派からエンタメ色が濃いものまでバラエティ豊かなラインナップ。本特集ではその15作品を紹介するとともに、「ぴあ水先案内人」の皆さんの期待&おススメや、同映画祭のアンバサダーを務めるLiLiCoさんのインタビューをお届けします!
ぴあ「水先案内人」が
期待&おススメする作品は?
LiLiCoさんが語る
TBSドキュメンタリー映画祭の魅力
LiLiCoさんが語るTBSドキュメンタリー映画祭の魅力
「自分が知らない扉を開けると、こんなにも人生って豊かになる」
昨年公開された『人生クライマー』や『戦場記者』など、良質なドキュメンタリー映画を次々と公開しているレーベル、TBS DOCS。TBSの若手ディレクターがさまざまな角度からとらえた“現代社会”は、実に刺激的で真を突いたものばかり。何がリアルで何がフェイクか、分かりにくい今だけに、このようなレーベルの存在は貴重といえるだろう。
そんなTBS DOCSが贈る新作の数々をとりまとめた「TBSドキュメンタリー映画祭2023」が3月17日より全国順次に開催される。本映画祭のアンバサダーに就任した映画コメンテーターLiLiCoさんに、ドキュメンタリー映画の魅力や楽しみ方などお話をうかがった。
(※聞き手は、「ぴあ」のLiLiCoさん連載「LiLiCoのこの映画、埋もらせちゃだめ!」でも聞き手を務めており、プライベートでも交流のある映画ライター・よしひろまさみちさん)
知らなかったなにかによって
世界がどんどん広がっていくんです
── 「TBSドキュメンタリー映画祭2023」アンバサダー就任おめでとうございます。かねてからドキュメンタリー映画にハマっていることはうかがっていますが、いいタイミングでこのお話がきましたね。
LiLiCo ありがとうございます。この10~12年ぐらい、バラエティーやミュージカルなど、さまざまなジャンルのお仕事に挑戦してきてきましたが、やっぱり今一度、映画にちゃんと向き合おう、と思っていたところだったんです。もちろん、いろいろなことに挑戦する充実した人生というのは、すごく楽しいんだけれども、やっぱり私は映画のお仕事が大事だし、育ててもらった分野ですから。
そんなときに、この話をいただいたんですよ。しかもTBS。知らないところに飛び込むわけではないですし、監督がみんなテレビマンなので、とても面白い。ずっとしゃべっていたいっていうぐらい面白いです、みんな。いいタイミングで、私にぴったりのお誘いだったな、と感謝しています。
── 長年出演されている『王様のブランチ』が、良質なドキュメンタリーをたくさん制作しているTBSっていうのもなにかのご縁ですね。
LiLiCo そう、本当によかった。しかも、この10年くらい、私がドキュメンタリーにどっぷりハマっちゃったのも、タイミングよかったですよね。
ドキュメンタリー映画をテレビで紹介することって、本当に難しいんですよ。これは“ブランチ”に限らない話ですが、そもそも事実や実際の事象の映像を編集しているものを、番組用にまたもう1回切り貼りすることになるから、テレビでの紹介にはかなりハードルが高いんですって。
だから私の「ぴあ」の連載が、ほぼドキュメンタリー映画のときがあったりするんですよ。ちょっとでもドキュメンタリー映画の面白さに気づく人が増えてほしいな、と思っているのに、なかなかできないジレンマが連載にいっちゃってるんです(笑)。
── TBS DOCSというレーベルについてはどう思いますか?
LiLiCo “人”を映し出すドキュメンタリーを作り出していて、どれもこれも素晴らしいと思いますよ。ドキュメンタリーの略として“DOCS”ってつけてるけど、それってほら、もうひとつの意味は“医者”じゃないですか。たくさんの作品から、自分の心まで直すこともあるし、心をあらためて高めてくれるものでもあるってことも象徴しているのかな、って思っています。
ドキュメンタリー映画の良さって、知らなかったことを知ることだから、けっして爽やかな気分になれるものばかりではないんですよね。だけど、鑑賞後、それまで知らなかったなにかが心のどこかに住み着いてくれることで、世界がどんどん広がっていく。今回の映画祭の出品作は、その素晴らしさに気づかせてくれる作品ばかりだと思います。
── LiLiCoさんが近年ハマっていたドキュメンタリーは、主に海外のものでしたが、今回は日本の作品ですね。
LiLiCo 日本のドキュメンタリー映画、上映規模が本当に小さいですからね……。それもおかしいと思うけど。その分、この映画祭はありがたかったですよ。長年住んでいる日本だけど、やっぱり私はスウェーデン人だから、日本の知らないことにもたくさん気づけましたから。
まず、今回の映画祭ラインナップではなく既に全国公開されてる作品で『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』なんて本当にびっくりしましたよ。いつもは静かな日本人だけど、ああやって畳みかけられるように質問されたら、自分の思いを自分の言葉でしゃべるんだな、って。しかも質問が難しいのに、何かしら答えを生み出さなきゃいけないっていう状況。その必死さが人間の生々しさに繋がると思いました。
── 日の丸の意味はご存知でしたか?
LiLiCo 子どもの頃から日の丸は太陽だよって言われてたので知ってました。でも、“どこに掲げたらいいと思いますか”という質問には、私は答えられないな。スウェーデンの国旗のことはよく考えるけど、日本人と違う目で日の丸を見られるようになりましたよ。こういうドキュメンタリーを見ると、やっぱり日本も表向きのイメージだけじゃないってことが分かりますよね。
『魂の殺人』を観て涙が止まらない
自分の一部がえぐられた感じだった
── 今回の映画祭の作品をご覧になって、総じてどう感じました?
LiLiCo 一番印象に残るのは日本人の死に対する気持ち、かな。私は全く共感できないんだけど、作品を観ることでようやくいろいろ理解できたんですよ。
以前は、死んだら神様になるっていう考え方は謎すぎたし、自殺が多かったり。そういうことの理由が全く分からなかったんです。でも、これらの作品を観ていると、あ、こういうことなんだ、って。言語化するのは難しいんだけど、なんとなく分かった気がするんです。
実は私、日本人研究がマイブームで(笑)。たとえば、グループで写真を撮るときに“みんな笑顔でお願いします”って言うじゃない。そんなの当たり前でしょ、って思っていたんだけど、違うんだよね。あれって、学生時代にクラスの写真が笑顔じゃダメだったから、言われなきゃ硬い表情のママだったりするんでしょ。
そういう明文化されていない決まりみたいなものが、日本にはたくさんあって、それがすごくユニークに映るんです。
── 15作品ありますが、特に注目したい作品はどれですか?
LiLiCo その決まりごとにもつながるんだけど、日本の女性が男性よりも一歩下がった存在だったり、“奥さん”っていう言葉だったり、違和感があったんですよね。
そこで『魂の殺人』にはやられました……。私の一部がえぐられた感じ。もう涙が止まらないんですよ。よく実名で、しかも顔出しでこんなつらい話を明かしてくれたという尊敬とともに、全く罪悪感のかけらも見えない実父に対して本当に腹が立ったし、この根っこにあることってなんだろう、って考えさせられました。これこそ、知らなかったことを知った瞬間に、その後の自分の考えも変わる、といういい例だと思いますよ。
逆に聞きたいんだけど、『93歳のゲイ』はどう思った? 私はすごい話だな、って思ったんだけど。
── その話はまたの機会に(笑)。長くなりますよ。
LiLiCo ははは(笑)。『チョコレートドーナツ』とかの機会にLGBTQ+のサイトに出してもらったときに初めて知ったんですよ。家族に認めてもらえないことなどから、自殺してしまう若者が多いって。それって本当にあってはいけないことだと思うんですよね。
── スウェーデンではどんな人でも受け入れる風土がありますからね。日本も変わってきてるけど、まだまだ。
LiLiCo 私ね、日本に来る前、母からよく聞かされていたのは“日本では何かしらハンデを持った人を街で見ないから不思議に感じると思う”ってことだったのね。スウェーデンではあらゆるマイノリティが自分らしく生きているから、日本はだいぶ状況が違うってことを言いたかったんだと思う。
実際、日本に来たらそれを感じたし、一昨年私が膝を壊したときに、東京には真っすぐな道がないっていうのが分かって、車椅子を使う方が出かけるのを控える気持ちも分かったんですよね……。
── 最後に、このドキュメンタリー映画祭を知らない方々へひと言。
LiLiCo 自分が知らない扉を開けると、こんなにも人生って豊かになる。それなら、映画の時間、お金も高くないですよ(笑)。
いい意味でも悪い意味でも、知るっていうことが大事。中には、具合悪くなるところもあるんだけれども、それを本当に経験してる人たちがいるっていうことを知るっていうのが本当に大事なんです。タブー視して、勝手に目をそらしていることがたくさんあって、そこにもちゃんと息づく人がいることを知ることで、自分には何ができるかを考えるきっかけになると思いますよ。
プロフィール
LiLiCo
1970年11月16日、スウェーデン・ストックホルム生まれ。18歳で来日し、芸能界へ。01年からTBS『王様のブランチ』に映画コメンテーターとして出演するほか、女優、ナレーター、エッセイの執筆など幅広く活躍。夫である純烈の小田井涼平との夫婦生活から、スウェーデンで挙げた結婚式の模様、式のために2カ月で9kgに成功したダイエット術、スウェーデン育ちならではのライフスタイルまで、LiLiCoのすべてを詰め込んだ最新著書『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』が、講談社より発売中。
TBSドキュメンタリー映画祭2023
2023年3月17日(金)~30日(木)
東京:ヒューマントラストシネマ渋谷
2023年3月24日(金)~4月6日(木)
大阪:シネ・リーブル梅田
2023年3月24日(金)~4月6日(木)
名古屋:伏見ミリオン座
2023年4月15日(土)~21日(金)
札幌:札幌シアターキノ
公式サイト:
https://www.tbs.co.jp/TBSDOCS_eigasai/
Text:よしひろまさみち
Photo:源賀津己
ぴあ「水先案内人」が
期待&おススメする作品は?
LiLiCoさんが語る
TBSドキュメンタリー映画祭の魅力