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「この映画祭で新たな映画を“発見”してほしい」 チェアマン&ディレクターに聞く各部門の見どころ

36回目の東京国際映画祭も多彩な上映作品とイベントが揃った。

メインの「コンペティション部門」をはじめ、アジアの秀作が集まる「アジアの未来」、日本公開前の最新作が上映される「ガラ・セレクション部門」、世界各地の映画祭の潮流がわかる「ワールド・フォーカス部門」、若い世代をターゲットにした「ユース部門」、海外に紹介されるべき日本映画を集めた「Nippon Cinema Now部門」など多彩な部門が用意されているが、安藤裕康チェアマンと、市山尚三ディレクターは「この映画祭で新たな映画を“発見”してほしい」と考えているようだ。

1:東京で新たな才能を発見!

『哀れなるものたち』(ガラ・セレクション)

安藤 今年の東京国際映画祭で上映される『哀れなるものたち』(ヨルゴス・ランティモス監督)は本当に素晴らしい作品で、ヴェネチア映画祭ではグランプリ(金獅子賞)を受賞したのですが、あまり報道されないんです。一方、日本の報道では「海外の映画祭で日本人監督が受賞した」ことばかりが報道されます。

そういうことではなく、グローバルな視点で、作品についてしっかりと語り、報道する文化が根づいてほしいと思っています。東京国際映画祭でも、『哀れなるものたち』のような高いレベルの作品がどんどん上映される状況になってほしいですし、アジアからそのような作品が出てきてほしいと思っています。

市山 東京フィルメックスのように全上映作品を観ることができる小規模な映画祭もあれば、東京国際映画祭やベルリン映画祭のように大規模で選択肢の多い映画祭もあります。予算に問題がないのであれば、1本でも多くの映画を上映して、観客が選択できる状態が良いと思います。もちろん、つまらない映画を上映してしまえば映画祭の評判が落ちますから、ちゃんと観て選ぶ、という線は守っています。コロナが明けて、世界の映画製作本数は増えていると思いますし、今年は本当に面白い映画が多いので、スケジュール的に泣く泣く上映を諦めた作品もありました。

安藤 どこかの映画祭で受賞した映画を上映するだけではなくて、観客には東京で素晴らしい作品を“発見”してもらいたいです。一方で、我々は観客に愛される、足を運んでもらえる映画祭でありたいと思っていますから、芸術映画だけ上映して満足するのではなく、バランスをとりながらみんなで盛り上がれるものを目指しています。

世界初上映の作品も多いコンペティション部門

市山 コンペティション部門は、他の映画祭では賞をとっていないもの、初めて上映されるものをセレクトしているので、この部門を観ることで新たな発見をしてほしいと思っています。“発見”は映画祭の醍醐味だと思います。お客さんの中にはすでに海外の映画祭で受賞したものを観る方が、クオリティが保証されていると思うのかもしれないですが、映画祭でまだ情報の多くない作品を観て、面白いとなると大きな発見になります。今年はこれまで以上にレベルの高い作品がコンペティション部門に揃ったと思っています。

また、今年からアニメーション部門がリニューアルされ、国内だけでなく海外の優れた作品も上映される。

海外の優れた作品も上映されるアニメーション部門

近年は海外のアニメーション作品のクオリティも上がっていますし、カンヌやベルリンのコンペティション部門にもアニメーション作品が上映されるようになりました。そこで、ちゃんと海外の優れたアニメーション作品を上映する部門を作って、海外の製作者が日本の製作者と交流する場を作りたいと考えています。

現在は海外の大きな映画祭のコンペ部門でもアニメーションが出品されていますし、実写とアニメーションの垣根はなくなってきています。東京国際映画祭でもコンペティションにアニメーションが出品されるべきだと思っているのですが、日本のアニメーションの場合は公開のギリギリ前まで製作していて、映画祭のエントリーの段階ではまだ映画が完成していなかったりする。その部分はアニメーション製作者の方とも今後、連携を深めていきたいです。

2:生誕120年。大規模な小津安二郎特集が開催

今年の目玉企画・小津安二郎特集

そして今年は、生誕120年を迎える巨匠・小津安二郎の大規模な特集が開催される。

安藤 昨年の映画祭が終わって来年のことを考えた時に、2023年は小津安二郎の生誕120周年だということがわかりました。松竹さんも昨年末から関連する催しを全国でやっていますし、僕も小津作品が大好きなんです。

小津は日本が世界に誇れる監督ではありますが、近年は世界の人たちが以前ほどは小津作品を観なくなってきています。だからこそ東京国際映画祭で特集をすることで、改めて世界の人に小津作品を観てもらいたいと思っています。作品上映はもちろんですが、ケリー・ライカートさん、ジャ・ジャンクーさん、黒沢清さんが登壇するシンポジウムも開催します。

市山 僕は小津生誕90年の時には松竹にいたので、記念上映にも携わりました。その後も、周年には何らかの形で関わってきたのですが、今回は上映作品がデジタルリマスターされたことで、新しい観客との出会いや再発見がある、というのが大きいと思います。

中でも『父ありき』は、これまでのプリントは音声状態が良くなくて、修復するにも大きな予算がかかる状態だったのですが、いまはデジタル技術が進歩して大きな予算をかけずにノイズをとり、修復ができるようになりました。完全版ではないのですが、中国で上映されていた音声の良い状態のプリントがモスクワで発見され、国立映画アーカイブに保存されていたので、従来のプリントと組み合わせてデジタル修復したものが上映されます。デジタルリマスターされたものだけでなく、国立映画アーカイブでは35㎜フィルム上映もありますので、映画祭でしかできない大規模な内容になりました。

『父ありき 4Kデジタル修復版』

安藤 今年、小津作品を特集すると決まったので、今年のコンペティション部門の審査員長は小津作品を愛するヴィム・ヴェンダースさんにお願いしたいと思いました。ヴェンダースさんは昨年、高松宮殿下記念世界文化賞を受賞されたので、授賞式のパーティで審査員長をお願いしたら、ふたつ返事で引き受けてくださいました。

仕上げは今年の映画祭のポスターです。『東京物語』の笠智衆さんと原節子さんの場面をイメージして、“現代の東京”で撮影することになったんです。『東京物語』は義理の父娘ですが、こちらは本当の父娘(奥田瑛二、安藤桃子)にお願いしました。

『東京物語 4Kデジタル修復版』

市山 小津作品について毎年、何かしらの発見や発掘がありますし、若い観客でまだ小津作品を観ていない方には映画祭での特集が作品を観るひとつのきっかけになると思います。

安藤 それにすでに観ている方も改めて小津作品を観てもらうことで新しい発見があると思うんですよ。

市山 過去の名作を上映するのは映画祭の使命のひとつではあるので、今後も何らかのかたちで続けていきたいと思っています。

3:映画祭は“映画人を育てる”場所でもある

「映画が生まれるとき~TIFFティーンズ映画教室2023~」

過去の名作、現代の映画界の傑作を上映するだけでなく、東京国際映画祭は映画の”未来”にも目を向けている。会期中には子どもたちを招いたイベントや、映画を学んでいる学生が各国から集まる催しが開催。若い才能が集まり、交流する場をつくることも映画祭の重要な役割なのだ。

安藤 映画祭には次世代の映画界を担っていく若い才能を育てる責務があると私は思っています。東京国際映画祭では「TIFFティーンズ映画教室」という子どもたちを集めて一緒に映画をつくってもらうイベントを開催していますが、今年は海外からも人を招いて、国際的な視野から作品を考えたり、話し合ったりする場をつくっていきたいと思っています。

市山 2000年以降、ベルリン映画祭が“タレントキャンパス”を始めた時に、各映画祭が”映画祭は未来の才能を見つけ、育てなければならない”と気づいたわけです。こういうプログラムは一般の方が参加できるものではないので、なかなか表には出てこないのですが、長い期間をかけて続けていくうちに成果が出てくる。「ティーンズ映画教室」はまだ始まったばかりですけど、いつかはここから新しい監督が出てきてほしいと思っています。

安藤 次世代の映画人を育てる、ということは映画祭とって大切なことです。単に映画を見せるだけではなくて、国際的な視野の中で新しい映画人を育てていくことは使命だと思っています。

市山 映画祭はすでに映画を上映して、それを観るだけのものではなくなっているんですよ。人が集まり、交流し、さらに若い才能を育てる。配信などで気軽に映画を観られる今だからこそ、映画祭の使命をちゃんと考えたいと思っています。

プロフィール

安藤裕康(あんどう ひろやす)

1944年生まれ。1970年に東京大学を卒業後、外務省に入省。外交官として米国、フィリピンや英国での勤務を経て、内閣総理大臣秘書官、在米国日本国大使館公使(特命全権)、中東アフリカ局長、在ニューヨーク総領事(大使)、内閣官房副長官補、駐イタリア特命全権大使等を歴任。2011年10月より2020年9月まで国際交流基金理事長として、外国との文化交流に取り組む。2019年の第32回TIFFよりチェアマンに就任。

市山尚三(いちやま しょうぞう)

1963年生まれ。松竹、オフィス北野をベースに主に海外の映画作家の作品をプロデュースする。主な作品にホウ・シャオシェン監督の『フラワーズ・オブ・シャンハイ』(1998)、カンヌ映画祭審査員賞を受賞したサミラ・マフマルバフ監督の『ブラックボード』(2000)、カンヌ映画祭脚本賞を受賞したジャ・ジャンクー監督の『罪の手ざわり』(2013)等がある。また1992年から1999年まで東京国際映画祭の作品選定を担当。2000年に映画祭「東京フィルメックス」を立ち上げ、ディレクターを務めた。2013年より東京藝術大学大学院映像研究科の客員教授。2019年、川喜多賞受賞。2021年、東京国際映画祭プログラミング・ディレクターに就任。

開催概要

第36回東京国際映画祭

期間:2022年10月23日(月)~11月1日(水)

会場:日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区

※映画祭公式サイトにて、メルマガ会員向け抽選販売、先行抽選販売に続いて、10/14(土)に一般販売を部門別で開始。詳細はこちら

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