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視点を変えると見えてくる“シャマランマジック”の正体を探る!

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M・ナイト・シャマラン監督が新作『トラップ』を完成させた。本作はこれまで数々の作品で観客を驚かせてきたシャマラン監督の集大成にして、新たな一歩を踏み出す意欲作だ。サスペンス、ホラー、ファンタジーなど様々な要素を独自のブレンドでミックスしてきたシャマラン作品の魅力とは何か? そこに潜む“隠し味”をあらためて紹介する!

密室、閉鎖空間……“制約”がシャマラン映画を輝かせる

霊が来たら逃げればいい。正体不明の生き物が来たらぶっ叩いて調べればいい。これではサスペンスやホラーは成立しない。あらゆる映画は主人公が逃げ場をふさがれ、動きを制限されることでドラマティックになる。

シャマランは物語の必須条件である“制約”を巧みにアレンジしてきた。『シックス・センス』ではコール少年だけが幽霊を見ることができる。逆の言い方をすると他の登場人物には霊が見えない。コール少年がどれだけ訴えても、他の人には何もないように思える。シャマランはこの制約を使ってドラマを盛り上げ、最後の最後に“実はコール少年が見ていた男は……”とサプライズを仕掛けた。

『ヴィレッジ』は閉鎖空間が舞台だ。自給自足で暮らすアメリカの村の住人たちは、奇怪な出来事が次々に起こっても村から出ることができない。通常のホラー映画であれば、この設定は単に恐怖を盛り上げるためにある。しかし、本作は“村から出られない”ことが物語の重要な設定であり、ラストのサプライズへとつながるのだ。

そして最新作『トラップ』は、シャマランの“オレ流制約”の最新にして究極のかたちを楽しむことができる。

全米を震撼させている切り裂き魔クーパーが、もうひとつの顔“優しい父”として娘と共にやってきた巨大アリーナでは、世界的に人気のアーティストが公演中。しかし、このライブ会場そのものが“トラップ=罠”で、すべての入り口が塞がれ、その周囲には大量の警官隊が配備される。会場内のいたるところに監視カメラが設置され、スタッフ通路はすべてセキュリティロック済み。

大きな会場ではあるが完全な閉鎖空間。外に出ても幾重にも警官が包囲している状態。つまり、逃げ場はない。さらにクーパーは、娘に自分が切り裂き魔であることを知られたくないので、娘と一緒に“父として”このアリーナから脱出しなければならない。しかし、ライブは進行中で娘はステージに夢中だ。

空間の制約、行動の制約、素性を明かせない制約……シャマランは本作で過去最難の状況を自ら作り上げてしまった。そしてこの制約を単に突破するのではなく、これまでの作品同様、“シャマラン流”のアレンジを加えながら描いていく。

ワクワクとユーモア。シャマラン作品の隠し味

シャマラン映画を観ているときの感情、と聞いて思い浮かぶのは何だろうか? ドキドキ? 恐怖? 緊迫感? えー!という驚き? どれも正しい。さらに彼はいくつかの映画でこれらに“ユーモア”を盛り込んでいる。

シャマラン映画を観て爆笑した経験はあまりないかもしれない。観るからにコミカルな登場人物がいることも少ない。しかし、彼は映画の中にユーモアを入れることを重視しているようだ。

「『アンブレイカブル』のような初期の作品では、ユーモアを上手く扱える自信がなく、ほとんどすべてカットしていた。私は直感的に、スリラー作品の中で、ダークなユーモアと驚きと感動を組み合わせられたらおもしろいと思っていた。年齢を重ねてきて、ようやく“この雰囲気が上手く伝われば、観客はこのユーモアを楽しめるはずだ”と思えるようになった。だから『ヴィジット』で初めてユーモアを強調して、そこにホラーと感動を混ぜたカクテルを作るようにして映画を作った。『スプリット』が2本目。そして『サーヴァント ターナー家の子守』(※2019年から配信されているTVシリーズ)は、全体を通して中心にユーモアがある作品になった。そういう意味で、『トラップ』はそれらの作品と関係がある」

ポイントはシャマラン映画のユーモアは、単なる“ギャグ”ではない、ということ。張り詰めた雰囲気や緊張感で観客を囲い込む一方で、少しだけ風変わりな設定を描いたり、ちょっと笑えたり、観る者の意表を突く展開を混ぜる。観客が恐怖を感じていると、急にダークなユーモアのあるシーンが描かれ、映画のリズムが少し変わる。つまり、観客が“油断”する。その隙をついてシャマランはショック描写やサプライズを繰り出すのだ。

彼が語るとおり、『トラップ』はワクワクだけで押し通すのではなく、随所にニヤリとする場面やユーモアのある展開が描かれ、物語の緩急が巧みにコントロールされている。さらに主人公は切り裂き魔でありながら、優しい父でもあるので、劇中には繰り返し「娘を愛するちょっとダメなパパと、元気いっぱいの娘」のドラマが挟み込まれる。観客が仲良しほのぼの父娘を見れば見るほど、その後の衝撃はより強くなる。“意地悪シャマラン”の本領発揮だ。

『ヴィジット』でも優しいおじいさん、おばあさんが登場し、ホッコリしたが、その後の展開はご存知のとおり。シャマラン映画のユーモアは、ワクワクや驚きを引き立てる、欠かすことのできない隠し味なのだ。

“手でふれられないもの”の魅力

シャマラン作品には繰り返し超常的な現象が起こる。霊が見える、すごいスピードで老けていく、農場を人間ではない生き物が必死に走っている。しかし、彼はホラー映画を作りたいわけでも、モンスター愛好家でもない。シャマラン監督はかつて筆者がインタビューした際にこう語っている。

「通常のドラマもあれば、ハリー・ポッターのような完全なファンタジーもありますが、ふたつのバランスをとることが私の作品では重要なのです。たとえば恐竜が現代に戻ってきたとしたら? そんな超現実的な設定を地に足のついたドラマとして語ることができれば、観客は“もしかしたら、そんなことも起こりえるのでは?”と感じてくれるでしょう。だから私はいつも目には見えないもの、手でふれられないものが、見たりふれたりできると感じられることに興味があります。子どもはそういうことを信じられますよね? 私は大人もそういうことを信じられたらいいなと思っているんです」

シャマラン映画を深く楽しむ最大のポイントがここにある。彼の作品が時折、ファンタジーや童話的な世界観を見せる理由も、上記の発言を読むとすんなり理解できるはずだ。

では、最新作『トラップ』には“手でふれられないもの”が登場するのか? ネタバレを避けるため明言はできないが、確かに登場する。本作は罠にかかった切り裂き魔の脱出と騙し合いを描いたサスペンス作品で、『レディ・イン・ザ・ウォーター』のようなファンタジーではない。『アフター・アース』のようなSFでもない。しかし、劇中には“手でふれられないもの”が描かれ、それが主人公クーパーの存在を理解する上で極めて重要な役割を果たす。

そもそも、なぜクーパーは切り裂き魔になったのだろうか? 消防士として暮らし、愛する家族に囲まれて幸せに暮らしている男がなぜ、切り裂き魔になる必要があるのか? それは「彼がこの罠から脱出できるのか?」と同じぐらい観る者の興味をひく疑問だろう。

M・ナイト・シャマランはこの疑問に映画の中でしっかりと答えを出している。先ほどの彼の発言をひくなら「超現実的な設定を地に足のついたドラマとして語る」やり方で。

本作は設定も、その語り口も、そして劇中で起こるドラマも、シャマラン映画の中で最も考え抜かれている。観客が思う「これぞシャマラン映画!」であり、そのイメージをさらに超えていく映画。それが『トラップ』だ。

『トラップ』
10月25日(金)公開
(C)2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED