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『カラーパープル』はなぜ、40年の時を経てスクリーンによみがえるのか?

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1985年の12月にアメリカでスティーブン・スピルバーグ監督作品『カラーパープル』が公開された。本作は公開当初こそ上映規模は大きくなかったが、口コミで人気を集め上映規模を拡大。その年のアカデミー賞で10部門ノミネートされた(助演女優賞にはソフィアを演じたオプラ・ウィンフリーとシュグを演じたマーガレット・エイヴリーのふたりが候補になった)。

そして約40年の時を経て再び、スクリーンに『カラーパープル』が登場する。本作はなぜ、このタイミングで新たな命を吹き込まれたのだろうか?

約40年ぶりにセリーの物語がスクリーンに

本作は20世紀の初頭から中頃にかけて、アメリカで生きたひとりの女性セリーの激動の人生を描く感動作だ。幼い頃から父の虐待を受け、理不尽な環境に置かれてきた彼女は、父の一存で望まない相手と結婚させられる。毎日続く、暴力と恐怖の日々。しかし、彼女は自分から声をあげることができない。どんな酷い仕打ちを受けても、反抗したり、逃げ出す術を知らない。

そんなセリーは長い時間をかけて変化を遂げていく。ひとりの女性の成長を描いた物語は、アメリカにおける黒人の扱い、家庭内における女性の立場、そしてさまざまな“試練”を与える神と祈ることしかできない人間の関係などを巧みに描いている。

原作になった小説を書いたアリス・ウォーカーは当初、数年をかけて執筆する予定だったが、原稿は1年ほどですべてを書き終えてしまったという。彼女の中にある熱い想い、書きたいものに対する明確なビジョンが執筆を早めた部分もあるが、彼女は“心の中から湧き上がってきた登場人物たちの声”を綴り、「自分は何も書き加えるものがなかった」と振り返る。

想像からではなく、日々の生活の中で、動いていく社会の中で生まれた“心の声”が物語になっている。これこそが本作が愛され続ける理由のひとつだろう。そして、約40年ぶりに本作が再び映画化されたのも、このことに関係がある。

本作の製作を務めたオプラ・ウィンフリーは、スピルバーグに再映画化を打診して快諾された理由を「女性たちが声をあげている今が、その時だと彼は悟ったのです」と分析する。

1985年に最初の映画が公開されてから、社会は完全ではないが大きく変化した。社会の中で暴力や差別にさらされ、声をあげられなかった女性たちは少しずつではあるが声をあげ始めている。その声に耳を傾け、社会を変えようとする動きが始まりつつある。理不尽な差別に目を向けようとする人たちが増えつつある。

本作は、何か崇高なテーマを掲げたり、勉強を強いるような内容ではない。感動のドラマと圧巻のミュージカルシーンで綴られる人間ドラマだ。しかし、表現の手法や観客の受け取り方は、40年の時を経て、変化しているのではないだろうか。

ついに変化が始まろうとしている。理不尽なことは変えなければならない。このタイミングで『カラーパープル』が再びスクリーンに登場することの意味は大きい。

セリーが“立ち向かう敵”とは?

一方で本作には、時を超えて響き続ける普遍的なメッセージとドラマがある。

中でも注目すべきは、主人公のセリーが“弱い”女性から“強く”変身していくドラマとして描かれていないことだ。物語を通してセリーは苦難に立ち向かい、時には想像を絶する悲しみを味わいながら、さまざまな境遇の女性たちと出会い、変化していく。

しかし、この物語を冷静に見返すと、セリーの心の奥底にある情熱や強さは、物語の冒頭、暴力と怯えの中にいるセリーの中にすでに備わっていることに気づく。

誰もが熱い心を持ち、自分の進みたい道があり、自分に対する誇りを持っている。ただ時にそんな想いがうまく表現できない、強さに変えられない時がある。『カラーパープル』はそんな“目には見えにくい強さ”や“小さくて周囲の音に埋もれてしまう声”を丁寧にすくいとっていく。

間もなく公開になる映画はミュージカル版で、そんな小さな声や表に出せない感情がパワフルな歌声とメロディになって表現される。

何があっても諦めない不屈の精神、相手を思いやる愛情、そして自分の中に眠っていた情熱を表現することの葛藤と、表現するための勇気。

この物語はアメリカで暮らしていなくても、性別がどんな人であっても深い共感を呼ぶ。

この先も響き続ける本作のメッセージ

本作の監督を務めたブリッツ・バザウーレ(左)

本作の原作になったウォーカーの小説は全米図書賞とピューリッツァー賞に輝き、いまも版を重ね続けている。そしてスピルバーグが監督した1985年の映画も現在も多くのファンを集めており、この物語に影響を受けた作家、映画監督、音楽家は多い。

本作の監督を手がけたブリッツ・バザウーレは「スピルバーグ監督の『カラーパープル』は、カルチャーの礎のひとつになりました。あの作品の台詞が今もなお引用されていることが、どれほど重要な作品だったかを示していると思います」と語る。

この物語はドラマとして素晴らしいだけでなく、観客の心に触れるような魅力がある。観る者の中に眠っていたパワーを呼び覚ますような力がある。

この40年間、多くの人がこの物語に影響を受けてきた。そして今後も映画『カラーパープル』は多くの新しい観客に出会い、影響を与え続けることになるだろう。私たちは、これからも続くこの物語の長い歴史の“大きなポイント”を映画館で目撃できるチャンスを得ているのかもしれない。

『カラーパープル』
2月9日(金)公開
(C)2023 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.