第1回:『アナと雪の女王』はなぜ”歴史に残る”映画になったのか?
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2013年冬、アメリカで1本の映画が公開された。それはディズニーが長年に渡って実現を夢見てきたプロジェクトで、フィルムメイカーたちはスタジオの伝統を引き継ぎながら、現代の観客の心に響く物語を描くことに成功。映画は全世界で大ヒットを記録し、世界各地の興行記録を塗り替えた。タイトルは『アナと雪の女王』。アナとエルサ、ディズニー史上初の“ふたりのヒロイン”が登場する本作は、ディズニーの歴史だけでなく、映画の歴史にもその名を刻む傑作になった。
それはウォルト・ディズニー“念願のプロジェクト”だった
『アナと雪の女王』は現在から6年前(日本公開は5年前の2014年)の作品だが、このプロジェクトが始まったのはそれよりもずっとずっと前、1937年だ。この年、世界初の長編アニメーション映画『白雪姫』を完成させ、驚異的なヒットを飛ばしたウォルト・ディズニーは、次のプロジェクトを模索する中で、デンマークの作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンの童話『雪の女王』のアニメーション映画化を思いつく。
『雪の女王』は、悪魔の作った鏡のかけらが眼と心臓に刺さり、恐ろしい雪の女王に連れ去られてしまった少年カイを救うため、少女ゲルダは危険な冒険に旅立つところから始まる。ゲルダは不思議な森に足を踏み入れ、数々の危険な目にあいながら、トナカイの背に乗って北にある雪の女王の宮殿にたどり着く。鏡のかけらが刺さったカイは冷たく、その心も変わってしまっていたが、ゲルダの涙と“真実の愛”がカイの心に刺さっていた鏡を溶かす。
美しい白銀の世界、ワクワクする冒険、魅力的な悪役・雪の女王、そして真実の愛を描く物語……本作はウォルトの心をとらえたが制作は思うように進まず、彼らはプロジェクトを“休止”させた。
そして時は流れ、スタジオは1990年代にもこの企画にトライするが、ここでも企画は凍結。しかし、2000年代に『プリンセスと魔法のキス』『塔の上のラプンツェル』でディズニー・プリンセスを現代的に描くことに成功した彼らは、ウォルト念願のプロジェクト『雪の女王』の映画化に再チャレンジする。
そこで、かつてスタジオで活躍し、『ターザン』を監督したクリス・バックがスタジオに帰還した。彼はウォルト同様、この物語に魅力を感じ、『シュガー・ラッシュ』の脚本で注目を集めた才人ジェニファー・リーと共同で監督を務めることを決め、創作にとりかかる。
彼らは長い時間をかけて試行錯誤を繰り返し、妥協を一切排して大胆に設定を変えながら現代の観客が共感できるキャラクター、21世紀にふさわしいヒロイン像、これまでのディズニー・プリンセスの“定型”を新生させる脚本を作り出していった。彼らは何度も問いかけたという。プリンセスはか弱くて王子に守られるだけの存在なのか? 悪役の魔法使いは本当に呪われた存在なのか? “真実の愛”とは何を意味するのか? 彼らが長い時間をかけて紡ぎだしたストーリーは全世界の観客を驚かせ、その感動はまたたく間に広がっていった。
凍った世界を救うのは“真実の愛”。『アナと雪の女王』の物語
『アナと雪の女王』は、アレンデール王国の幼い王女エルサと妹のアナが遊んでいる場面から始まる。姉のエルサは生まれつき雪や氷をつくりだす不思議な力が備わっていて、ふたりは仲良く遊んでいたが、アクシデントでエルサはアナを意識不明の状態にさせてしまう。父・母と共に助けを求めて妖精トロールの元を訪れたエルサはそこで“自身の感情を抑えて生きる”ように言われる。
その後、城は扉を閉め、エルサは部屋に閉じこもって誰とも会わぬまま、日に日に強くなっていく自身の力に戸惑っていた。一方のアナは大好きな姉が急によそよそしくなってしまったことにさみしさをおぼえる。エルサは心を閉ざしたまま成長し、アナは姉との心の距離を感じている。さらにある日、王である父と妃である母は理由を告げぬまま、ふたりを置いて航海に出かけ、事故で帰らぬ人になってしまう。姉妹が頼れるのはお互いだけなのに、ふたりの距離は縮まらないままだ。
時が流れ、成人したエルサが戴冠式を迎えることになり、長年に渡って閉ざされていた城の扉が開かれた。アナは人々に出会えることを喜ぶが、エルサは人前で自身の不思議な力を制御できるのか恐れを抱いたままだった。そしてエルサの恐れは現実となる。妹のアナがその日に出会ったばかりの隣国の王子ハンスと結婚すると言い出し、姉妹は口論になり、エルサは人々の前で魔法を暴発させてしまう。
これまでずっと力を隠して生きてきたのに、魔法のことを知られてしまい、“怪物”呼ばわりされたエルサは城を飛び出し、これからは自分の力を制御することなく“ありのまま”の自分で生きていくことを誓う。しかし、この魔法によって夏だったアレンデールに永遠の冬が訪れてしまった。愛する姉エルサを救うため、凍った世界を元に戻すため、アナは危険な冒険に旅立つ。彼女は数々の危険な目にあいながら、山男のクリストフ、彼の親友のトナカイ・スヴェン、雪だるまのオラフと共に北にあるエルサの宮殿にたどり着く。
しかし、王国が雪に閉ざされたことを知ったエルサは激しく動揺し、暴発した彼女の魔法がアナの胸に刺さる。少しずつ冷たくなっていくアナを救うことができるのは“真実の愛”。そこでクリストフは、アナと結婚を約束したハンスの王子のもとにアナを連れていくが、すべての魔法を溶かす“真実の愛”は意外なところに隠されていた……
『Let It Go~ありのままで~』の“その先”にあるものとは?
彼らは『雪の女王』で描かれたモチーフや世界観を基にしながら、大胆な改変や創作を積み重ねてオリジナルのストーリーを完成させた。本作の最大のポイントは、雪の女王と主人公を“姉妹”にしたこと。そして何よりも雪の女王・エルサの魔法を“その人にしか持っていない力=個性”として描いたことだ。この映画にはわかりやすい悪役はいない。姉妹は自分の心の中にある“恐怖”と戦うのだ。
この設定の大転換はのちにディズニーの、いや映画の歴史に残る結果を導いたが、そのきっかけは“ソングライター”によってもたらされた。本作の楽曲を手がけたロバート&クリステン・アンダーソン=ロペス夫妻がエルサについて想いを巡らせている時に浮かんできた楽曲『レット・イット・ゴー~ありのままで~』は、それまで“呪い”として描かれることの多かった魔法の力を“個性”として描いた名曲だ。この楽曲の誕生によってジェニファー・リー監督は「これまで描いてきた物語をすべて書き直す必要があると感じた」と振り返る。
結果として本作では、王子さまに助けてもらうのを待っているプリンセスや、主人公を陥れる邪悪な魔女が不要になった。エルサは自分に備わった魔法と共に“ありのまま”で生きていくことを選ぶ。妹のアナは魔法や特殊な力がないにも関わらず、王子の助けを借りずに“信じる力”だけを武器に恐怖に立ち向かう。そして王国の人々は、そんな姉妹のことを受け入れる。本作で描かれたヒロイン像は性別や年齢を問わず幅広い層から圧倒的な支持と共感を集めた。
悪役であるはずの魔女の秘めた想いが明かされ、彼女が周囲の人々と家族をつくっていく『マレフィセント』、様々な個性を持ったキャラクターが偏見と戦い、お互いを認め合って生きていく『ズートピア』、境遇や成長の過程が違っても確かな友情を築こうとする主人公を描いた『シュガー・ラッシュ:オンライン』……『アナと雪の女王』が描いた設定や感動は、その後のディズニー作品に大きな影響を与え続けている。
ちなみに『レット・イット・ゴー~ありのままで~』は現在では“アナ雪”を代表する楽曲だが、よくよく思い返すと、この楽曲は映画の前半で歌われている。魔法の力を周囲に知られてしまったエルサは、王国も家族も、自分の役割もすべて捨てて“ありのまま”でいたいと願う。しかし物語が進むにつれて、エルサは“ありのまま”だけでは前に進めないことに気づく。妹アナの強い想いを知り、自分の個性を残したまま周囲の人たちと共に生きていけることに気づいて変化し、成長していくのだ。
“ありのまま”だけでは真実の愛にはたどり着けないし、幸せは手に入らない。自分の個性に苦しんだり、困難が訪れた時、人はどのようにしてその壁を乗り越えていけばいいのか? 『アナと雪の女王』で描かれたテーマをさらに進化させた待望の続編が『アナと雪の女王2』だ。
続編でエルサはどこからか聞こえてくる不思議な歌声に誘われて、自分とアナに隠された“秘密”に向かいあう。思い返せば『アナと雪の女王』では多くの謎が残されたままだ。なぜエルサは不思議な力を使えるのか? なぜ姉妹の両親は子どもたちを置いたまま旅に出かけて帰らぬ人になったのか? アナとクリストフの恋の行方は?
ディズニーの歴史に、映画の歴史にその名を刻んだ姉妹の物語はついに完結編に突入する!
『アナと雪の女王』
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