【おとな向け映画ガイド】

『オードリー・ヘプバーン』の光と影

ぴあ編集部 坂口英明
22/5/1(日)

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今週(5/4〜7)の公開映画数は19本。うち全国100館以上で拡大公開される作品が『ドクター・ストレンジ／マルチバース・オブ・マッドネス』『死刑にいたる病』の2本。中規模公開、ミニシアター系が17本です。その中から今回は、永遠のスターの人生を追ったドキュメンタリー『オードリー・ヘプバーン』をご紹介します。

『オードリー・ヘプバーン』

天国に召されてからそろそろ30年になるというのに、オードリー・ヘプバーンの人気は衰えません。毎年のように、出演作はリバイバル上映されますし、昨年、デジタル処理された映像で明石家さんまと“共演”したCMも、話題になりました。

そのCMに登場した姿は、映画『ローマの休日』のもの。当時24歳の彼女は、この作品でアカデミー賞主演女優賞を受賞し、まさに一夜にしてハリウッドのトップスターに躍り出たのです。

この映画は、オードリーのプライベートも含めた姿を映し出した、初めてのドキュメンタリー。映画関係者だけでなく、知人、邸宅の庭師にまでインタビュー、さらに出演作の映像や家族が提供した写真など、貴重な資料で浮かび上がるオードリー・ヘプバーンの真の姿です。

もちろん、『ローマの休日』『麗しのサブリナ』『ティファニーで朝食を』、この代表作3本など、出演映画についての映像クリップ、エピソードも豊富で、魅力に満ちあふれています。

例えば、オシャレのアイコンとして語られる『ティファニーで朝食を』のトップシーン。

早朝のニューヨーク五番街、ティファニーの前にイエローキャブが止まり、黒のイブニングドレスにサングラス、お団子ヘアの女性が降りてくる。手にはクロワッサンとテイクアウトのコーヒー……。

村上春樹も翻訳しているトルーマン・カポーティの原作にはもちろんこんなシーンはありません。カポーティが望んだ最初のキャストはマリリン・モンロー。そして「夜の女」というイメージだったそうです。オードリーが演じることで、主人公ホリー・ゴライトリーはまるで大都会を浮遊する妖精に変わりました。

衣装を担当したのは、かのユベール・ド・ジバンシィ。『麗しのサブリナ』から始まる名コンビです。「オードリー・スタイル」とよばれるデザインは「ふたりの発明」と紹介されます。オードリーという素材を得て、若くて才能にあふれるジバンシィの発想が広がった様子は、残された数々のスケッチにみてとれます。

『パリで一緒に』では写真家リチャード・アヴェドンともコラボをしています。ジバンシィがデザインした衣装でカメラの前に立ち、ポーズを決めるオードリーの姿は、神のようです。アーティストたちとの仕事は、映画の枠を超越しています。

とはいえ、オードリーがハリウッドの映画界で活躍した時間はそんなに長くはないのです。もちろん、人気が衰えたわけでも、作品に恵まれなかったわけでもありません。実は、「彼女自身がハリウッドに背を向けた」（ピーター・ボグダノヴィッチ監督のインタビュー）のです。

その理由が解き明かされていきます。

彼女が生まれたのは、1929年ベルギー。父親はイギリス人実業家、母親はオランダ貴族の家柄でした。ふたりはナチス信奉者だったといいます。両親はその後、離婚。オードリーはひきとられた母から離れ、イギリスの寄宿学校に入ります。のちに再会しますが、彼女は父親に棄てられたと思い込み、それは生涯変わらず、わだかまりとして残ったようです。

ある友人は「彼女は男運が悪かった」と述懐します。最初の夫、メル・ファーラーとの結婚。二度目はイタリアのプレイボーイ。離婚を繰り返す理由も、この映画ではそっと語られます。その分、子供達へますます深い愛情を注いでいく姿も。

後年、ユニセフ国際親善大使として彼女は世界中の子供達のために、自身の名声を臆することなく使い、この活動に残りの生涯を捧げました。

孫のエマは「世界中にこれほど愛された人が、愛に飢えていた」と語っています。アパートメントの非常階段で、小さなギターをひきながら、さびしそうに『ムーンリバー』を口ずさんでいたホリー・ゴライトリーと、どこかダブってみえるオードリーの人生です。

【ぴあ水先案内から】

中川右介さん（作家、編集者）
「……晩年の活動だけでも、一本の映画になるだけの物語があると感じた……」

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伊藤さとりさん（映画パーソナリティ）
「……アイコンとなってしまった自分ならではの方法で、人生のやり残しを社会貢献に転換させた人道的な生き方だった……」

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紀平重成さん（コラムニスト）
「……表向きの華やかさとは逆に実生活では慎ましやかであろうと心掛けていた姿を描く……」

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高松啓二さん（イラストレーター）
「……第二次大戦時、彼女がレジスタンス運動をしていたのは有名だが、両親はナチスシンパだったのは意外。……」

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立川直樹さん（プロデューサー、ディレクター）
「……今までに経験したことのない観点でひとりのスターと時間を過ごしたかのように感じられる。」

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植草信和さん（フリー編集者、元キネマ旬報編集長）
「……映画ファンが集まる酒席での定番話題は、｢映画史上最高の作品は? 監督は? 俳優は?｣。｢女優｣部門のそれは老若男女で異なるが、ほぼオードリー・ヘプバーンで落着する……」

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