鑑賞直後に直撃インタビュー!
押井守監督が観た『グラディエーターⅡ英雄を呼ぶ声』<前編>
いよいよ劇場公開を間近に控えた『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』。待望のリドリー・スコット監督最新作となったら、ぴあではやはり、リドリー・スコットを“師匠”と呼ぶ押井守監督にご登場いただきたい! ということで、本作の日本国内でのお披露目となった完成披露試写会に押井監督をお招きし、本編をご覧いただいた直後にご感想をお聞きしました!
はたして、押井監督は本作のどんなところに着目したのか? 今回お届けするのは、インタビューの前編。映画の核心に迫るネタバレも盛り込んだ後編は、劇場公開後にあらためて掲載いたします!
第4回
「喉が渇く映画だったね。
いい映画を観たら、喉が渇くものなんです」
── 今日は押井守監督にリドリー・スコットの最新作『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』をご覧いただきました。スコットを“サー”と呼ぶほど、押井さんにとってはとてもスペシャルなフィルムメーカーです。
押井 喉が渇いたよね(笑)。これはいい映画という意味。私だけでなく、多くの人がそうだろうけど、いい映画を観たときは喉が渇くものなんです。クオリティはさすがサーですよ。
── スコットはこの作品を、これまでの自分の作品の中でベストワンと言って大きな話題になりました。
押井 いや、ベストワンと言われると『エイリアン』(79)や『ブレードランナー』(82)はどうするんだと言いたくなるけど(笑)、サーがそういう発言をしたのは分からんでもない。コスチュームや美術を含めて絵作りはさすがとしか言いようがない。本当に大したもんです。セットとデジタルの使い方も相変わらず上手だし、見応えたっぷりであることは間違いないよ。2時間28分、全然飽きなかったから。
それにしても、驚くほど“続編”していたね。サーはこれまで続編を撮ったことないでしょ? 『プロメテウス』(12)は『エイリアン』のプリクエル(前日譚)だし、おそらく初めてじゃない?
── 言われてみればそうですね。こんな正統的な続編は初めてだと思います。
押井 一番凄いのはそこなんだよ。今回、私が本作のテーマとして観ていたのは“続編に挑戦したサー”です。時系列でちゃんと繋がった続編は初めて。それはもっとも困難なテーマだから、監督としては驚くほどチャレンジング。しかもサー、今年で87歳だからね。その年齢で初めてのことに挑戦するのはなかなかできることじゃない。
前作は、物語もきれいに完結していた。そこから物語を続けるのはフィルムメーカーとしては相当ハードルが高い。ただコロセウムでグラディエーター同士を闘わせればいいという問題じゃないし、実際、ストーリー的に見ても苦労しているのがよく分かる。そういう中で上手にまとめてくれたと思います。
── どういうところに苦労が滲んでいました?
押井 一番はキャラクター。前回のカリスマ、ラッセル・クロウがもう使えないのでメインのキャラクターを増やしている。これは私の想像だけど、サーはおそらくデンゼル・ワシントンが演じていた奴隷商人(マクリヌス)に力を入れたかったんじゃないかな。だって、マキシマスの息子ルシアス(ポール・メスカル)に対して「お前のオヤジは夢を語った。私は真実を語る」云々というかっこいいセリフがある。でも、そうやって彼を中心に置いてしまうと違う映画になっちゃうから諦めざるをえない。
『キングダム・オブ・ヘブン』(05)も本当はサラセン人の王、サラディンとエルサレムの仮面を着けた王様の話にしたかったのに、それじゃヒットが見込めないのでオーランド・ブルーム扮する若い戦士を立てた。それでもちゃんと“らしい”映画にしてしまうのはさすがサーなんですよ。
ネガティブに取ってもらいたくはないんだけど、映画(製作)は妥協の連続なの。妥協の産物と言ってもいいくらい。妥協の産物にどうやって正当性をもたせるか、それが監督の腕の見せどころ。上手くいけば監督も達成感を得られる。
一番血沸き肉躍ったアクションは
「文句なくサイ。今回の白眉です!」
── ということは今回、スコットは達成感を得たということですね?
押井 そうだと思うよ。それに、製作費がかなりあったんじゃない? 前作でできなかったことを今回やっている。デジタルに頼るだけじゃなく、いくつかセットをちゃんと作って、しかもエキストラもたくさん使っている。ローマの市街地を映し出し、そこに暮らす市民の生活臭のようなものが描かれている。物乞いがたくさんいるのも、ローマが汚くて臭い街だというのも意識的に取り入れている。ちゃんと世界が膨らんでいる。お金をかける甲斐のある監督がサーなんです(笑)。
── “世界”を創るというのは、スコットの大きなこだわりですからね。
押井 そうです。私がリドリー・スコットを“サー”と呼んで崇めているのは、実際に“サー”の称号をいただいているからじゃない。“世界観”とは何かを『ブレードランナー』で教えてくれたからです。
それが何かといえば、“ビジョン”。哲学であり思想。その監督が何を考え、世界をどう見ているのか? 監督のありようが映画を創造しているんです。
── スコットの映画では、それがちゃんと透けて見えますね。
押井 そうでしょ。最近のサーは厭世観たっぷりで、人間に愛想をつかした感じだったけど、『グラディエーターⅡ』は違う。サービス満点でびっくりした(笑)。
── 文字どおり、出血大サービスでしたね。とりわけ凄いのがアクション。数えてみたら小さいのも含めて9回くらいありました。
押井 1作目の『グラディエーター』のアクションは基本、コロセウムのシーンが中心だったけど、今回はバラエティに富んでいる。冒頭は海戦から地上戦、剣闘士の訓練ではふたりで殴り合いをし、皇帝の前ではでっかい剣士と剣による血みどろの一騎打ち。コロセウムでの戦いも巨大なヒヒやサイ、驚くべき動物も出てきて飽きさせないし、バランスをよく考えている。サーにしては珍しくサービス満点です。
── 大きくて狂暴なヒヒには驚きましたけど、実際はあんなヒヒいませんよね?
押井 いるはずはないけれど、もし実際のサイズのヒヒにしていたらビジュアルとして成り立たない。そういう判断をしているところが“サービス”だと言っているんです。
── 押井さんが一番血沸き肉躍ったアクションは?
押井 文句なくサイですよ。巨大なサイに乗ったおっさん。今回の白眉。あれは『300<スリーハンドレッド>』(06)よりもダンゼンいい。このシーンで私はサーの覚悟を見た。つまり、「今回はサービスするぞ!」という決意が伝わってきた。普段のサーなら絶対にやらないよ。
── 確かに、あのアクションは燃えますからね。
押井 それにほら、サイの頭の料理が出てきたじゃない? 角を削っている人がいたけど、あれは強壮剤になるからなの。帝政ローマ時代の宴会は強壮剤効果のある料理をふんだんに提供したと言われているから。ああやってコロセウムで殺されたサイを料理しているのかもしれない。そうやって考えると当時の人たちの生活も分かって楽しくなる。
── 主人公のルシアスはいかがでした? 『aftersun/アフターサン』(22)でアカデミー主演男優賞にノミネートされた若手のアイルランド出身の俳優です。
押井 前作のクロウほどカリスマがないので、それを補う意味もあって脇に魅力的かつ演技派の役者を揃えている。デンゼル・ワシントンにもうひとり、将軍のアカシウスを演じた人。彼はとても良かった。何という役者?
── ペドロ・パスカルです。押井さんの大好きな『ゲーム・オブ・スローンズ』(11~19/以下『GOT』)のオベリン役でブレイクし、『マンダロリアン』(19~)も素晴らしい。
押井 『GOT』は覚えてないけど、彼もとても良かった。今回、最も魅力的なキャラクターがアカシウスですよ。
── 押井さん、彼については後編でお願いします! 本作公開後に掲載する後編はネタバレありで語っていただきます。
取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己
(C)2024 PARAMOUNT PICTURES.
第4回