リドリー・スコットX歴史劇=名作確定!の法則
全世界の映画ファンが公開を待ちわびていた超大作『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』がついに本日から公開されている。本作は2000年公開の『グラディエーター』の“その後”を描いた作品で、引き続き巨匠リドリー・スコット監督がメガホンをとっている。
スコット監督は数々の傑作を手がけてきたが、歴史劇でもその手腕をいかんなく発揮している。リドリー・スコットが手がける歴史劇にハズれなし! 本作もすでに“名作確定”の大旗があがっている状態だ。
第5回
スコット監督のキャリアは“歴史劇”から始まった
全世界の映画ファンが公開を待ちわびていた超大作『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』がついに本日から公開されている。本作は2000年公開の『グラディエーター』の“その後”を描いた作品で、引き続き巨匠リドリー・スコット監督がメガホンをとっている。
スコット監督は数々の傑作を手がけてきたが、歴史劇でもその手腕をいかんなく発揮している。リドリー・スコットが手がける歴史劇にハズれなし! 本作もすでに“名作確定”の大旗があがっている状態だ。
テレビ、CMの世界で活動していたリドリー・スコットが初めて長編映画『デュエリスト/決闘者』を発表したのは、1977年のこと。映画の舞台は1800年のフランスで、タイトルのとおり男たちの“決闘”を描いた作品だ。1800年と言えば、後にスコット監督が描くことになるナポレオン・ボナパルトが活動していた時代。彼のキャリアは“歴史劇”から始まったのだ。
その後、スコット監督は『エイリアン』や『ブレード・ランナー』など映画の歴史に名を刻む名作を次々に発表するが、定期的に歴史に材をとった作品、歴史上の人物を主人公にした映画を数多く手がけている。
大航海時代を生きた探検家を主人公にした『1492 コロンブス』、十字軍が活動していた時代が舞台の『キングダム・オブ・ヘブン』、旧約聖書の出エジプト記を基にした壮大な劇『エクソダス:神と王』、14世紀のフランスを舞台にした『最後の決闘裁判』など過去が舞台の作品は多く、昨年には誰もが知る将軍が主人公の『ナポレオン』が公開になった。
本作のプロデューサーを務めたルーシー・フィッシャーは「優れた映画監督には古典の教養や知識がある」とした上で、「興味深いのは、私が共に仕事をしたスティーヴン・スピルバーグもフランシス・フォード・コッポラもリドリー・スコットも、学校で歴史を専門的に学んだ人ではないんですよね」と微笑む。
「リドリーはアートスクールで学んだ人ですから、本作も画コンテはすべて彼が描き、すべて絵の具で彩色されているんです。おそらく彼らは古典や歴史に個人的な関心や興味があって、独学で学んでいるんだと思います。優れた映画監督は“人間”というものに興味を抱いているので、歴史や古典、神話、伝説に対する教養があるのでしょう。その上、リドリーはそれらを視覚的に捉えて、視覚的に伝えることができるのです」
リドリー・スコットの歴史劇は確かに“視覚的”だ。世界史の深い知識がなくても、スクリーンを見つめるだけで世界観や当時の社会や階級の様子、文化が伝わってくる。『グラディエーターII』でも観客は劇場でスクリーンの前に座るだけでスッと古代ローマの世界に、壮大な歴史の旅に誘われるのだ。
俳優から全幅の信頼。スコット監督の魅力
スコット作品を支えているのは、実力のある俳優たちだ。スコット監督は作品、シーンに対するビジョンが常に明確で、撮影のスピードも驚異的なまでに早い。本作に出演したフレッド・ヘッキンジャーは「リドリーは尋常じゃないペースで撮影していくので、現実の人生と一緒でやり直しは許されないのです。1回の撮影ですべてを決めなければならない緊張感があります」と笑顔を見せる。
しかし、彼の俳優の演技を見る目は確かだ。そして絶対に良い演技を見逃さない。デンゼル・ワシントンは「彼と仕事をしていると、巨匠と一緒に仕事をしているんだと分かるし、この人にすべてを任せれば安心できると思えるんです」と語る。
「彼は映画づくりのすべての面をちゃんと見ることのできる才能が備わった人なんです。全幅の信頼を寄せられる人の下だと俳優は自由に飛躍できます。それに彼は、僕の演技のベストテイクを絶対に拾ってくれるという自信があります。だから完成した映画を観ると、自分で演技した記憶のないベストの演技までちゃんと映画に盛り込まれているんですよ」
劇中で主人公ルシアスと対峙するローマ帝国の将軍アカシウスを演じたペドロ・パスカルも、リドリー・スコット監督を長年にわたって敬愛していたという。「私はこれまでの人生、彼の作品を観客としてしか経験したことがなかった。目を見開き、感嘆していた。彼の作品に参加できるなんて、思ってもみなかったことです」
スコット監督は俳優のために完璧な環境を用意し、俳優は監督のジャッジに全幅の信頼を置く。『グラディエーターII』でダイナミックで緊迫感のある演技が生まれた理由はここにある。
リドリー・スコットは“戦い”続ける
数々の名作を発表し、多くの映画人から巨匠と呼ばれるリドリー・スコット監督だが、現在も常に創作環境を更新し、本作のためにもギリギリまで良い現場を、良いテイクを獲得するために奮闘したようだ。
長年にわたってスコット監督の“右腕”として働くスコット・フリープロダクションのプレジデント、マイケル・プルスは「映画づくりは“戦い”でもあるんです」と言う。
「芸術とビジネスの間にはいつも緊張関係があります。リドリーがよく言うのは、『映画というのはものすごくお金がかかるものだ。小説や絵画など芸術にはいろいろあるけど、映画はすごくお金がかかる。つくる上で高くつくものではあるけど、自分は効率良く撮影できる人間だ』ということです。
彼は優れた芸術家であり、同時に腕のたつビジネスマンでもあるんです。彼はとにかく映画への愛が強くて、朝起きた段階から映画を製作するすべてのプロセスに対してワクワクしているんですよ」
劇中のキャラクターと同じぐらい、リドリー・スコットは全身全霊をかけた戦いを続けている。大規模な撮影とそれに伴う巨額の予算、オスカー受賞作の続編をつくることの緊張感、アクションや多人数の関わるシークエンスを複数のカメラで撮影する困難……そのすべてを取り仕切り、最高の成果を手にする必要がある。本作の最強の戦士はスコット監督かもしれない。「この規模の映画を撮ることには、大きな興奮がある」とスコット監督は語る。
「大きなストレスを感じなければならない。実際、ストレスを受け入れなければならない! 私はそうしている。そのおかげで飛び続けられる。ディテールにディテールを重ねる仕事だ。そして、アイデアを広げれば広げるほど、相乗効果を見出すことができるんだ」
もうすぐ87歳になる巨匠のあまりにも頼もしい言葉だ。いまだ戦うことをやめない映画監督が、彼に信頼を寄せる俳優たちと完成させた、スコット監督十八番とも言えるアクション歴史劇。『グラディエーターII』は、傑作になる要素がすべて揃っている。
第5回