これぞ映画の迷宮!『ドミノ』が描く多重&多層の世界
映画『ドミノ』が描くのは、現実ではない世界。そこではこれまでの常識は通用せず、観客の予想のさらに上をいく出来事が次々に起こる。それはまるで迷宮のように魅力的で魅惑的。ベン・アフレック演じる主人公ロークと共に“まだ誰も体験したことのない世界”に足を踏み入れてみてほしい。
第4回
世界が二転三転するハイパーサスペンス
これまでも映画では繰り返し“どんでん返し”が描かれてきた。それまでの物語の流れからは想像もできない出来事や悲劇が主人公を襲ったり、ある情報がもたらされることで描かれてきた世界の見え方が一変してしまう映画もあった。
時には少年とずっと行動を共にしていた主人公が“すでに死んでいる”ことが明らかになって観客を驚かせたり、未知の惑星だと思っていたら実は“地球”だった、なんてことも。映画館で驚きたい、心地よく裏切られたい、という観客は多いのではないだろうか。
『ドミノ』はそんな“驚き”が、1回だけでなく幾度も訪れる衝撃作だ。主人公ロークは刑事で、愛する娘が失踪して現在もその行方が分かっていないが、ある事件に関わる中で、娘の写った写真を発見する。まだ娘は生きているのか? だとしたら、どこにいるのか? そして娘をさらった犯人は?
これが本作が提示する最初の“謎”だ。しかし、本作はこれだけで終わらない。この謎に関するヒント、手がかりが劇中で提示され、ある謎が解けたと思えば、その外側にまた新たな謎があることが分かる。さらに我々の常識を覆すような衝撃的な出来事が次々に起こるのだ。謎の外には、さらなる謎、そしてその先にも……ミステリーが幾重にも出現して層を成し、時に世界の天と地がマルッとひっくり返るような真実が明かされる!
もちろん、映画ファンがニヤリとするヒッチコック直系の王道サスペンスも登場。緊迫感のある場面や、観客すら罠にかけられている場面もある。
映画『ドミノ』は、劇中の世界が何度もひっくり返る、油断厳禁のサスペンスを超えた“ハイパーサスペンス”だ。
これを超える“脅威”はあるのか? 謎の男の異形の力
事件を追う主人公ロークは、ある男に遭遇する。彼はなぜかロークのことを知っており、さらに行方不明のロークの娘についても何かしらの情報を握っているようだ。
しかし、彼を捕まえるのは簡単ではない。なぜなら、この謎の男は相手に暗示をかけ、思いどおりに操る不思議な力を持っているからだ。
つまり、この男の前では自分の仲間が一瞬で敵になってしまうかもしれない。何げなく道を歩いている縁もゆかりもない人が、この男の仲間になるかもしれない。これまでも、巨大なパワーや腕力を持つ敵、悪の組織を率いる敵、何があっても屈しない敵などが描かれてきたが、この謎の男はそれを上回る脅威だと言えるだろう。彼が暗示をかければ、原理的には世界中の誰でも“敵”になる可能性があるからだ。
さらに刑事ロークによって追い詰められたこの男は、屋上から身を投げて一瞬で姿を消してしまう。屋上からも瞬時に逃亡できる男を捕まえるには、どこに追い詰めればいいのか?
この設定を導入したことで、『ドミノ』はこれまでにないドラマ運びや緊迫したシーン、サスペンスを描くことに成功している。画面の中にいるキャラクターの関係性が一瞬で“別のもの”になってしまう可能性があり、観客は一瞬たりとも気が抜けない。
相手の脳をハッキングして自在に操ることのできる“絶対に捕まらない”男を捕まえる方法はあるのだろうか?
“自分自身”も信用できない。迷宮の出口にあるものとは?
謎の男を追うロークは、彼を知る占い師のダイアナに出会い、衝撃の事実を知らされる。
ロークはかつて、謎の男と同じ秘密組織に所属していたというのだ。
ロークは驚きを隠せない。なぜなら彼は秘密組織に身を置いた記憶などないからだ。彼はずっと刑事として事件を追い、娘を愛する良き父親だった。謎の男は暗示をかけて相手を自在に操ることができる。ということは、ロークも彼に“操られて”いるのか?
本作の最大の面白さは、次から次へと新たな謎と、それまでの物語のルールを激変させる出来事が起こるだけでなく、その影響が主人公にまで及ぶことだ。暗示を駆使する謎の男と対峙するロークは、仲間や周囲の人間を信用できない。一瞬で“敵”になる可能性があるから。さらに彼は“自分自身”も信用できなくなってくる。
華麗なアクションとサスペンスに満ちた映画『ドミノ』は、観客を惑わせ、心地よく翻弄させてくれる迷宮のようだ。スクリーンに映し出されるシーン、設定、キャラクターの関係のすべてが一瞬にして“二転三転”するかもしれない。そこに出口はあるのか? そして、そこにある真実とは?
本作は映画の面白さを凝縮した、映画でしか描けない迷宮を作り上げた衝撃作だ!
『ドミノ』
10月27日(金)公開
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第4回