【ぴあテン:アート】ぴあ執筆陣が選ぶ2024年のマイベスト
「ぴあアプリ/WEB」アートジャンルでご執筆頂いている9名の皆さまに、2024年に鑑賞した展覧会や芸術祭、アートイベントなどから、「ベスト10本」を挙げて頂き、そのなかで特に印象に残っている3本についてコメントを頂きました。さらに2025年に期待している展覧会などについても教えて頂いています。2024年、みなさんはどんなアートと出会いましたか? 2024年の振り返りと2025年の鑑賞計画の参考になさって下さい!
INDEX
浦島茂世(美術ライター)
木谷節子(アートライター)
白坂由里(アートライター)
鈴木芳雄(編集者/美術ジャーナリスト)
Tak(青い日記帳/美術ブロガー)
中山ゆかり(ライター)
藤原えりみ(美術ジャーナリスト)
村田真(美術ジャーナリスト)
和田彩花(アイドル)
- 「森の芸術祭 晴れの国・岡山」(岡山県北部12市町村)
- 『ホー・ツーニェン エージェントのA』(東京都現代美術館)
- 『そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠』(東京都庭園美術館)
芸術祭が年々盛り上がっていますが、2024年も熱かった。初開催の「森の芸術祭 晴れの国・岡山」は、開催会場が岡山県北部と非常に広域で、交通の便が悪く移動が非常に困難だった。にもかかわらず、作品と場のパワーが強く、とにかくインパクトの強い芸術祭だった。特に「つやま自然のふしぎ館」は一生忘れられない場所だし、また行きたくなる博物館。第2回の開催も強く希望します。
『ホー・ツーニェン エージェントのA』は、時間をテーマにしたシンガポールのアーティスト、ホー・ツーニェンの東京で初となる大個展。様々な尺度で時間について、そこから欧米とアジアの関係について、人間と地球の関係についてなどを考え、なんともいえない不思議な作画のアニメに導かれてついつい考えてしまうのであった。
『そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠』は、もう圧巻の一言。このところ、超絶技巧な作品やアーティストに人気が集まりがちだけど、「質感そのもの」を全面に強く押し出すアーティストや作品がもっと注目されてもいいよね、と思える展示。

〈これも良かった!〉
- 『田中一村展 奄美の光 魂の絵画』(東京都美術館)
- 『SIDE CORE 展|コンクリート・プラネット』(ワタリウム美術館)
- 『挂甲の武人 国宝指定50周年記念 特別展「はにわ」』(東京国立博物館)
- 『ハニワと土偶の近代』(東京国立近代美術館)
- 『TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション』(東京国立近代美術館)
- 『内藤コレクション 写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙』(国立西洋美術館)
- 『鎌倉別館40周年記念 てあて・まもり・のこす 神奈川県立近代美術館の保存修復』(神奈川県立近代美術館 鎌倉別館)
2025年のアートはこれに期待!
2025年は万博イヤー。そして、「瀬戸内国際芸術祭2025」、「岡山芸術交流2025」も開催される、とにかく関西が熱い年。できるだけたくさん西へ通いたいものの、ホテル代は高止まりしておりどうなることやら…。そして、東京も相変わらず素敵な展覧会がたくさん。直近だと東京都美術館の『ミロ展』、東京都写真美術館の『鷹野隆大 カスババ』、そしてそしてサントリー美術館の『没後120年 エミール・ガレ:憧憬のパリ』が楽しみ。横浜美術館の新しい門出にも期待。
- 『田中一村展 奄美の光 魂の絵画』(東京都美術館)
- 『田名網敬一 記憶の冒険』(国立新美術館)
- 創建1200年記念 特別展『神護寺 空海と真言密教のはじまり』(東京国立博物館)
2004年は、舟越桂さんや谷川俊太郎さんなど、長く美術界で親しまれてきた芸術家が逝去されましたが、なかでも三島喜美代さん、田名網敬一さんが、再評価の機運が高まる中で開催された大きな個展の最中に(おそらく現地で展覧会を観ること無く)亡くなられたことは本当に残念なことでした。また3月、『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?』(国立西洋美術館)、『大吉原展』(東京藝術大学大学美術館)で、展覧会企画者の意図せざるところで、内覧会が占拠されたり展覧会の主旨がゆがめられたことは、今後の美術展を考える上で大きなインパクトとなりました。
『田中一村展 奄美の光 魂の絵画』
生前「最後は東京で個展を開いて、絵の決着をつけたい」と言っていた田中一村の思いを実現すべく、長く丁寧な調査研究の成果をもとに、まさに上野のお山で開催された美術史的にも意義のある大回顧展。一村といえば、奄美での活動が有名ですが、そこにいたる千葉時代の作品や周囲の人々のサポートを知ることで、一村芸術への理解がより深みを増したと思います。
『田名網敬一 記憶の冒険』
国立新美術館の広大な展示室を、天井から床まで埋め尽くした田名網氏のイメージの洪水に圧倒された、空前絶後の展覧会。物量で責める展覧会を久々に見た爽快感とともに、汲めども尽きぬ田名網氏のアイデアや制作意欲に、真の意味での「creator」魂を見せつけられました。本展開幕の2日後に田名網氏が亡くなられたことは大変残念なことでした。
『神護寺 空海と真言密教のはじまり』
1200年の歴史を誇る、空海ゆかりの神護寺の至宝を紹介する王道の寺宝展。巨大な両界曼荼羅や、五体そろっての虚空蔵菩薩坐像、やまと絵屏風のルーツである山水図屏風など、「現存最古」の国宝満載で、空海の偉大さとともに、日本の文化芸術の奥深さを改めて実感。1200年目にして初となったご本尊《薬師如来立像》ほか、数々の仏像のドラマチックな展示にも圧倒されました。

〈これも良かった!〉
- 『内藤コレクション 写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙』(国立西洋美術館)
- 『そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠』(東京都庭園美術館)
- 『静嘉堂文庫竣工100年・特別展 画鬼 河鍋暁斎×鬼才 松浦武四郎―「地獄極楽めぐり図」からリアル武四郎涅槃図まで』(静嘉堂文庫美術館)
- 『モネ 睡蓮のとき』(国立西洋美術館)
- 『マティス 自由なフォルム』(国立新美術館)
- 『生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真』(東京ステーションギャラリー)
- 『儒教のかたち こころの鑑ー日本美術に見る儒教ー』(サントリー美術館)
2025年のアートはこれに期待!
一番楽しみにしているのは、東京国立近代美術館で開催される『ヒルマ・アフ・クリント展』。カンディンスキーやモンドリアンに先駆けて抽象画を創案した女性画家の作品は、これまでの小難しい抽象画のイメージをガラリと変えてくれそうな予感がします。あとは、2026年にかけて大きなゴッホ展が立て続けに巡回することからゴッホにもスポットがあたりそう。またNHKの大河ドラマ「べらぼう」に寄せて、主人公・蔦屋重三郎が見出した歌麿や写楽の浮世絵ほか、江戸文化全般を見直す気分が高まっていくと思います。
- 『鴻池朋子展 メディシン・インフラ』(青森県立美術館、国立療養所松丘保養園 社会交流会館)
- 『阿波根昌鴻 写真と抵抗、そして島の人々』(原爆の図 丸木美術館)
- 『ART in MINO 土から生える2024』(多治見市、瑞浪市、土岐市各会場)
今年は「個展であって(複数の人が参加していて)個展じゃない」、「共同開催だがその館独自の展示」、そんな展覧会が目に留まった。
その両方で頭抜けていたのが鴻池朋子だ。2022年から開始した高松市美術館、静岡県立美術館、青森県立美術館の3館リレー展であると同時に、青森県立美術館では『メディシン・インフラ』と展覧会名を変え、各地で自作を展示保管してもらう長期プロジェクトからスタート。鴻池自身の作品だけでなく、歴史学者の木下知威らこれまで関わった人々が自身の発表を行う展示「プロジェクトラボ 新しい先生は毎回生まれる」なども混ざる。また、国立療養所松丘保養園 社会交流会館がサテライト会場になり、同園で暮らしていた成瀬豊の作品と、熊本の菊池恵風園の絵画クラブ「金陽会」の作品が出会った。来場者も含めて多くの人々が関わり、美術館の問い直しが行われた。
また、戦後の沖縄で、「銃剣とブルドーザー」と呼ばれる米軍の土地接収に対して写真とペンを武器に闘った記録などを紹介した『阿波根昌鴻 写真と抵抗、そして島の人々』も印象的。撮影したのは阿波根だけではない。村に1台のカメラをみんなで駆使したある種のプロジェクトといえる。
岐阜県のやきものの街、多治見市・瑞浪市・土岐市で開催された『ART in MINO 土から生える2024』は、芸術祭を問い直すオルタナティブなプロジェクト。素材や土地・場所から作品を生み出すサイトスペシフィックな創造に向き合っていた。3展いずれも、人が主体的になり、人と力を合わせる芸術だと感じた。

〈これも良かった!〉
- 『そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠』(東京都庭園美術館)
- 『没後30年 木下佳通代』(埼玉県立近代美術館)
- 『生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真』(東京ステーションギャラリー)
- 『Nerhol 水平線を捲る』(千葉市美術館)
- 『移住 露口啓二』(iwao gallery)
- 『ヴァジコ・チャッキアーニ Big and Little hands』(SCAI THE BATHHOUSE)
- 『鈴木康広 空気の人/分光する庭』(座間市役所)
2025年のアートはこれに期待!
今年の毛利悠子展も良かったが、アーティゾン美術館で毎年開催されている「ジャム・セッション」が充実している。毎年異なる現代アーティストを選び、そのアーティストが石橋財団コレクションのなかから作品を選んで展覧会を構成するシリーズだ。2025年は、沖縄を拠点とする山城知佳子と、宮城県を拠点とする志賀理江子の二人展とあり、こちらの想像を超えてきそう。
- 『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×毛利悠子—ピュシスについて』(アーティゾン美術館)
- 『宮永愛子 作品鑑賞会 ~暗闇で耳を澄ます~』(神戸六甲ミーツ・アート)
- 『京都市美術館開館90周年記念展 村上隆 もののけ 京都』(京都市京セラ美術館)
『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×毛利悠子—ピュシスについて』(アーティゾン美術館)
近年、評価急上昇の毛利悠子。彼女を知る人にはこれまでの総括+新作、そうでない人には自己紹介を果たせた良き展示だった。そもそもこの美術館の名物企画「ジャムセッション」だったので、モネ、クレー、デュシャンの作品とともに展示。そんな巨人たちが毛利をインスパイアした。ヴェネチア・ビエンナーレ日本館での展示と時期が重なりながらもこれだけの展覧会を作ったのはさすが。
『宮永愛子 作品鑑賞会 ~暗闇で耳を澄ます~』(神戸六甲ミーツ・アート)
「神戸六甲ミーツ・アート」内の2日間だけのイベント。神戸港内に作られた人工島に六甲山から切り崩した埋め立て用土砂の運搬する際、街中にダンプカーを走らせず、専用トンネルを建設したことは有名な話だが、既に用済みとなったそのトンネルを展示場所に使った。ナフタリンや樹脂を使い、時間を紡ぐ作品で知られる宮永愛子。展示施設として得難いこの場で今回見せてくれたのは作られて間もない陶器が土と釉薬の収縮率の差から貫入が入るときに発する音を聴く作品。宮永の実家の家業は陶芸で、彼女にとっては珍しくはない現象が沁みる。国立新美術館や富山市ガラス美術館でもこの作品を見たことがあるが今回は至高の体験。
『京都市美術館開館90周年記念展 村上隆 もののけ 京都』(京都市京セラ美術館)
日本での展覧会は毎度これが最後と公言する村上隆。世界を獲った彼が京都の地で「京都」をキーワードに展開し、もちろん期待を裏切らなかった。村上本(?)洛中洛外図を描き下ろし、京を護る四神の部屋に八角堂、琳派の系譜を継ぐような花卉図、五山送り火はキャラクターになり、舞妓さんまで登場。世界情勢の煽りを受け、作品運搬費、保険料が高騰する事情が新作を見せる原動力となった。

〈これも良かった!〉
- 『日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション』(東京都現代美術館)
- 『そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠』(東京都庭園美術館)
- 『Van Gogh: Poets and Lovers』(ナショナル・ギャラリー、ロンドン)
- 『Francis Bacon: Human Presence』(ナショナル・ポートレート・ギャラリー、ロンドン)
- クリストフ・ビュッヘル『Monte di Pietà(質屋)』(プラダ財団ヴェネチア)
- ルイジ・ギッリ「旅|写真1970–1991」(MASI ルガノ、スイス)
- 『Pop Forever, Tom Wesselmann &…』(ルイヴィトン財団、パリ)
2025年のアートはこれに期待!
『ヒルマ・アフ・クリント展』(東京国立近代美術館)、『横尾忠則 連画の河』(世田谷美術館)『日本美術の鉱脈展 未来の国宝を探せ!』(大阪中之島美術館)『Caravaggio. The portrait unveiled︎』 (The Gallerie Nazionali di Arte Antica)
- 『PARALLEL MODE:オディロン・ルドン-光の夢、影の輝き-』(岐阜県美術館)
- 『没後50年 福田平八郎』(大阪中之島美術館)
- 『空海 KŪKAI ―密教のルーツとマンダラ世界』(奈良国立博物館)
アフターコロナ禍の展覧会は海外から作品を借りてくる大規模展は影をひそめ、美術館のコレクションを軸とした展覧会が多く開催された。結果として東京での特別展よりも地方美術館での特色を持たせた展覧会が目を引いた。大阪市立東洋陶磁や畠山美術館などリニューアルを果たし新たなスタートを切った美術館や地方での多彩な芸術祭など今年もひと時も目を離せないアートにどっぷり浸れた一年だった。
『PARALLEL MODE:オディロン・ルドン-光の夢、影の輝き-』
ルドン作品を開館当初から長く収集してきた岐阜県美術館が、国内外からも作品を借り圧倒的な物量で開催した世界的にも類を見ない大規模回顧展。一生分のルドンを岐阜で観られるとは思いもしませんでした。
『没後50年 福田平八郎』
「私はエカキとして少し写生狂に出来上がっているようだ」という画家の言葉の通り徹底した写生に基づいた作品から現代アートのような「漣」「雨」までをまとめて観ることで、福田がまごうことなき具象画、写実絵画であったことが窺い知れました。
『空海 KŪKAI ―密教のルーツとマンダラ世界』
空海に関する展覧会はこれまでも色々と観てきたが、これ以上の空海展は今後望めないであろう何から何まで素晴らしい展覧会だった。奈良国立博物館の意気込みと矜持を強く感じた。

〈これも良かった!〉
- 『心象工芸展』(国立工芸館)
- 『鷹のおでまし ―鷹狩の美術―』(埼玉県立歴史と民俗の博物館)
- 『没後300年記念 英一蝶 ―風流才子、浮き世を写す―』(サントリー美術館)
- 『生誕150年記念 菱田春草展 不朽の名作《落葉》誕生秘話』(福井県立美術館)
- 『開館40周年記念 源氏物語 THE TALE OF GENJI ─「源氏文化」の拡がり 絵画、工芸から現代アートまで─』(東京富士美術館)
- 『空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン』(東京ステーションギャラリー)
- 『かみがつくる宇宙―ミクロとマクロの往還』(市原湖畔美術館)
2025年のアートはこれに期待!
「EXPO 2025 大阪・関西万博」開催にからめた国宝展や大規模展覧会が目白押しの大阪を中心とした関西圏から目が離せない一年になり、何度も大阪へ足を運ぶことになる。『日本国宝展』(大阪市立美術館)、『超 国宝―祈りのかがやき―』(奈良国立博物館)、『特別展 日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡―』(京都国立博物館)、『日本美術の鉱脈展 未来の国宝を探せ!』(大阪中之島美術館)、『大ゴッホ展』(神戸市立博物館)、『きもののヒミツ 友禅のうまれるところ』(京都国立近代美術館)など。
中山ゆかり(ライター)
- 『オタケ・インパクト―越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム―』(泉屋博古館東京)
- 『モネ 睡蓮のとき』(国立西洋美術館)
- 『TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション』(東京国立近代美術館)
昨年から引き続き、海外からの大規模展が戻ってきた感があった一方で、これまで光があてられてこなかった作家やテーマの掘り起こしを行う意欲的な展覧会が多かったと思う。また自館の空間や所蔵品を活かして現代作家と協働する、あるいは複数館で連携して企画するといった傾向もいっそう高まっているように感じた。
主に東京近郊の美術展にしか足を運べていないので、限られたなかでの印象だが、明治から昭和にかけて活躍した尾竹三兄弟を顕彰する『オタケ・インパクト』は、三人三様に個性あふれる画家だったことすら認識できていなかった身には、本当に大きなインパクトがあった。『板倉鼎・須美子展』などと同様に、美術史の主流の語りからこぼれ落ちていた作家に光を投じた、探索と研究の成果を目にできる意義深い展観だったと思う。
一方、みんなが大好きなモネについては見応えのある展覧会が毎年のように開催されているが、『モネ 睡蓮のとき』は、晩年のモネが現在はオランジュリー美術館に展示されている睡蓮の大装飾画へと至る道に焦点をあてた企画。ライター的には、晩年のモネの紹介記事では、白内障による視力の悪化と抽象化の傾向を結びつけて短絡的な説明で終わりにしてしまいがちだが、葛藤に満ちたその歩みと抽象的な作品群の色彩の響きの美しさを目のあたりにできて感銘を受けた。
『TRIO』展は、パリ市立近代美術館と東京国立近代美術館、大阪中之島美術館の所蔵品をテーマごとに3点セットで並べることで、新たな発見を生んだ展観。各館のコレクションの魅力にふれると同時に、作品同士を見比べる面白さが味わえて楽しかった。

〈これも良かった!〉
- 『マティス 自由なフォルム』(国立新美術館)
- 『ブランクーシ 本質を象る』(アーティゾン美術館)
- 『彫刻の森美術館 開館55周年記念 舟越桂 森へ行く日』(彫刻の森美術館)
- 『板倉鼎・須美子展』(千葉市美術館)
- 『田中一村展 奄美の光 魂の絵画』(東京都美術館)
- 『ハニワと土偶の近代』(東京国立近代美術館)
- 『内藤礼 生まれておいで 生きておいで』(東京国立博物館、銀座メゾンエルメス フォーラム)
2025年のアートはこれに期待!
『TRIO』展で作品を見比べる楽しみを味わったこともあり、アメリカのサンディエゴ美術館と国立西洋美術館の所蔵品を並べて見る『西洋絵画、どこから見るか?』が、春に注目する展覧会のひとつ。「比べる」という観点からは、ファン・ゴッホ展や、NHKの大河ドラマに登場する蔦屋重三郎に関わる展覧会など、共通するテーマを異なる切り口から見る複数の展覧会が開催されるのも楽しみなところ。ひとつを見れば、もうひとつの展覧会も見たくなる、そんな相乗効果を期待したい。
- 『大小島真木展「千鹿頭 CHIKATO」』(調布市文化会館たづくり)
- 『生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界』(東京都庭園美術館)
- 映画『Viva Niki タロット・ガーデンへの道』
『大小島真木展「千鹿頭 CHIKATO」』
国譲り神話から現在に至る長野県諏訪市の歴史と文化を、生と死の循環という観点から掘り下げた意欲作。本来展示空間ではない、扱いにくい通路のような細長い空間を巧みに使用し、人工大理石と瑪瑙によるインスタレーションから始まり、絵画や立体作品、諏訪の歴史と自然災害の多い日本の自然風土を重ねつつ、最後の展示室には森に住む神々が人の生と死を寿ぐ映像作品。作品点数は多くはないものの、空間に込められた意味合いの深さと重さを実感する体験でした。
で、こうした視座は『鴻池朋子展 メディシン・インフラ』(青森県立美術館ほか)とも通じるものであることを再確認。鴻池さんの創作意欲とその実践には驚愕。今回も充実した展示空間でした。
『生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界』
戦前から現代にかけて途切れることなく作品集が刊行されてきているにも関わらず、公立の美術館での初回顧展となる展覧会。改めて思う。欧米基準由来の純粋芸術の価値観を保ってきた美術界では、挿絵やイラスト、絵葉書など大衆芸術の興隆によって人気画家となった夢二は評価されてこなかったのだと。今やアニメやゲーム、漫画が日本文化を代表する時代にも関わらず、超時代遅れの純粋美術VS大衆美術という価値査定がこれまで続いていたのかと唖然。夢二が活動していた時期に建てられた東京都庭園美術館での展示は、とても快いものでした。
映画『Viva Niki タロット・ガーデンへの道』
写真家・松本路子によるニキ・ド・サンファルをめぐるドキュメンタリー映画。クリエイティヴな活動に携わる女性たちのポートレート写真集を刊行している松本は、1981年から約10年間、ニキと交流を重ねてきた。タロット・ガーデンはイタリアのトスカーナ地方の郊外にニキが作り上げた22個の建造物と自然が作り出すアート空間。ニキとの交流を語る松本自身のモノローグと小泉今日子による客観的なナレーションの乖離、そしてラストの小泉今日子の歌声が、いわゆるドキュメンタリー映画の手法によるのではない心温まる余韻を残す。2月もまだロードショーされるのでお時間ある方はぜひ。

〈これも良かった!〉
- 『京都市美術館開館90周年記念展 村上隆 もののけ 京都』(京都市京セラ美術館)
- 『マティス 自由なフォルム』(国立新美術館)
- 『宇野亞喜良展 AQUIRAX UNO』(東京オペラシティアートギャラリー)
- 『大吉原展』(東京藝術大学大学美術館)
- 『触れてなどいない』(寺田倉庫)
- 『鴻池朋子展 メディシン・インフラ』(青森県立美術館ほか)
- 『カラーズ ― 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ』(ポーラ美術館)
2025年のアートはこれに期待!
『パウル・クレー展 ── 創造をめぐる星座』(愛知県美術館ほか)、『岡﨑乾二郎』(東京都現代美術館)、『ヒルマ・アフ・クリント展』(東京国立近代美術館)、『異端の奇才——ビアズリー展』(三菱一号館美術館)、『相国寺展—金閣・銀閣 鳳凰がみつめた美の歴史』(東京藝術大学大学美術館)『坂本龍一 | 音を視る 時を聴く』(東京都現代美術館)映画『オークション ~盗まれたエゴン・シーレ』
- 『ライディング・モダンアート ラファエル・ザルカ展』(東京日仏学院)
- 第60回ヴェネツィア・ビエンナーレのヴァティカン館(ジュデッカ女性刑務所)
- 『「再開館記念『不在』―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」』(三菱一号館美術館)
川村記念美術館の休館、BankARTの撤退が決まるなど、経済原理に押し倒されて美の追求者は氷河期を迎えようとしています。『ライディング・モダンアート ラファエル・ザルカ展』は、世界中のパブリックアート(抽象彫刻)をスケボーで滑り倒したドキュメント写真展。東京日仏会館はその後も『ゲバルト展』を開くなど過激路線を突っ走ってます。ヴェネツィア・ビエンナーレのヴァティカン館は、ジュデッカ島の女性刑務所を会場に、アーティストが受刑者とコラボした作品をムショ内で見るという稀有な体験をさせてくれました。ガイドも現役受刑者で、メモも写真も禁止。「『不在』トゥールーズ・ロートレックとソフィ・カル」は、ロートレックの存在が霞むほどソフィ・カルがおもしろい。彼女も出品したギャラリー小柳の「UNSOLD UNSOLD」も笑えました。

〈これも良かった!〉
- 『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか? ――国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ』(国立西洋美術館)
- 第8回横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで生きてる」(横浜美術館など)
- 『梅津庸一 クリスタルパレス』(国立国際美術館)
- 『巨大化宣言 森靖』展(碌山美術館)
- 『PARALLEL MODE:山本芳翠 ー多彩なるヴィジュアル・イメージー』(岐阜県美術館)
- 『無言館と、かつてありし信濃デッサン館―窪島誠一郎の眼』(静岡県立美術館)
- 『川崎市市制100周年・開館25周年記念 「岡本太郎に挑む 淺井裕介・福田美蘭」展』(川崎市岡本太郎美術館)
2025年のアートはこれに期待!
見たい展覧会は、埼玉県立近代美術館の『メキシコへのまなざし』、 東京国立近代美術館の『ヒルマ・アフ・クリント展』、 京都二条城の『アンゼルム・キーファー:ソラリス』、 東京国立博物館の『蔦屋重三郎展 コンテンツビジネスの風雲児』、 東京都現代美術館の『岡﨑乾二郎』、 兵庫県立美術館の『藤田嗣治×国吉康雄:二人のパラレル・キャリア―百年目の再会(仮題)』、 アーティゾン美術館の『オーストラリア現代美術 彼女たちのアボリジナル・アート』、 国立西洋美術館の『スウェーデン国立美術館 素描コレクション展―ルネサンスからバロックまで』、 京都・泉屋博古館の『生誕151年目の鹿子木孟郎 (仮)』、 水戸芸術館の『磯崎新展(仮称)』など。
- 『梅津庸一 クリスタルパレス』(国立国際美術館)
- 『没後30年 木下佳通代』(埼玉県立近代美術館)
- 『「シュルレアリスム宣言」100年 シュルレアリスムと日本』(板橋区立美術館)
昨今、既存の価値観や構造を批判していく機会が増えました。展覧会の中にもそのような視点を垣間見ることが増え、今の時代の空気を感じます。これまで政治的、社会的テーマを扱う作品を見るのが好きだったのですが、今更ながら美術の価値ってどこにあるのだろうと改めて考える時間も増えました。個人的には、主題も表現もどちらの視点も大切にしながら美術と接したいです。
主題、美術界への問題意識、表現に関心を持って、手を動かし続ける作家だと感じる梅津庸一さんの『クリスタルパレス』は、今の時代を象徴するような展示でした。圧倒的な表現の幅広さと奥深さが素晴らしいです。『没後30年 木下佳通代』は、木下さんの美術館での初めての個展。まとまった調査がされてこなかった作家さんを展示で見られる機会が嬉しかったです。どの作品も最高にクールでした。『「シュルレアリスム宣言」100年 シュルレアリスムと日本』は、板橋区ゆかりの作家を含めた日本のシュルレアリストたちの作品を堪能できたすてきな展示でした。

〈これも良かった!〉
- 『追悼 野見山暁治 野っ原との契約』(練馬区美術館)
- 『リキッドスケープ 東南アジアの今を見る』(アーツ前橋)
- 『心象工芸展』(国立工芸館)
- 『生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界』(東京都庭園美術館)
- 『デ・キリコ展』(東京都美術館)
- 『カルダー:そよぐ、感じる、日本』(麻布台ヒルズギャラリー)
- 『シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝』(森美術館)
2025年のアートはこれに期待!
大阪中之島美術館『生誕150年記念 上村松園』が楽しみです。個人的には、琵琶湖の周りで仏像巡りをしたいです。あのあたりには観音信仰が根付いていると聞いたことがあります。観音様が好きなので、絶対行きたい場所です。それから、2024年に山登りの楽しさに気づいたので、高野山にも行きたいです。