Vol.2<前編>『グッバイ、ドン・グリーズ!』
いしづかあつこ監督インタビュー
「ニューヨーク・タイムズ」のトップ10ベストインターナショナルドラマに選出されるなど、世界を席巻した『宇宙よりも遠い場所』(通称“よりもい”)から約4年。今、最も注目されているクリエイターのひとり、いしづかあつこ監督の新作劇場アニメ『グッバイ、ドン・グリーズ!』がいよいよ公開となる。2月10日にはTOHOシネマズの“ピックアップ・シネマ”イベントでも上映された本作は、とある田舎町を舞台に3人の少年たちが織り成す冒険の物語。それぞれに悩みを抱える彼らが、ともに過ごす中で育んだ友情は、やがてある奇跡を起こす──。これまでにも胸を熱くするドラマ作りや魅力的なキャラクター造形で、アニメファンのみならず多くの観客を虜にしてきたいしづか監督に、制作の裏話や作品に込めた思いを聞いた。
『宮田バスターズ(株) ―大長編―』の坂田敦也監督が登壇!
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私はキャラクターになりきれるタイプ
勝手にしゃべってくれるものを脚本にしました
── 『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』(通称“ノゲノラ”)に続き2本目の劇場作品、しかもオリジナル作品ということでプレッシャーはありましたか?
いしづか あまりそう見られませんが、実は毎回プレッシャーを感じるタチで(笑)、もちろんありました。ですが、アニメを作るという意味では、今までやってきたことと特に変わったことはなく、今回も今できるすべてを詰め込んだ感じです。“ノゲノラ”で、スクリーン上での見え方や質の違いなどの経験値を積ませていただいたことも今回につながっていると思います。
── 本作の構想はどのようなきっかけで生まれたのでしょうか。
いしづか 特に「これだ!」というきっかけは実はなくて、スタッフさんたちと話す中で徐々に見えてきた感じです。“よりもい”では女の子を主人公にしたので、今回は男の子にしたいというのはあって、さらに広い世界を描きたいよね、というのもなんとなくあって。いろいろな試行錯誤を重ねながら今の話に落ち着きました。本当に初期は男の子が運命の相手のヒロインと出会って、彼女を救う話だったんですよ。でもそれだと視点がヒロインに集中してしまって、世界の果てしなさや可能性の物語が描けないのではと思い直して。主人公を3人にして、彼らだけの冒険や世界を描いてみようと。
── “よりもい”では南極を目指しましたが、今回は北極圏のアイスランドにたどり着きます。なぜアイスランドを選んだんでしょう?
いしづか 特に“よりもい”を意識して北極圏を選んだわけではないのですが、せっかく前回は南極にたどり着いたんだから、次も国内でとどまらず、遠くに足を伸ばせるような舞台を選びたかったんです。その中でアイスランドは、あの荒涼とした大地を見たときに命が生まれて消えていくことを体現している土地のように思えて、「ここだ!」って運命を感じたんですよね。自然も人間も同じ生き物として存在している境界線のなさがすごく魅力的で。
今回、作品で描こうとしていたのも境界線のない世界。いかに自分たちが勝手に線引きした世界の中で生きているかだったので、アイスランドを舞台にすることでそれが描けるのではないかと思いました。私の中でもいつか行ってみたい場所のひとつだったので、これを機にロケハンに行けると期待したのですが、残念ながらコロナ禍に入ってしまい、Googleマップでロケハンしました(笑)。
── 3人のキャラクターのかけ合いや距離感も、とても自然体に感じました。
いしづか 気が弱くて一歩踏み出せないロウマと、優等生だけど周囲の期待と本当の自分の間で悩んでいるトト、元気でやんちゃで引っかき回す役のドロップというのは、トリオにしようと思ったときに見えてきたバランスです。今回、自覚したのですが、私、キャラクターになりきれるタイプみたいで。なりきってしまえば、勝手にしゃべってくれるので、それを書き出して吟味して脚本にしていきました。
エンタテインメントの中にどうテーマを忍ばせるか
── アフレコ現場の様子はいかがでしたか?
いしづか 声優さんたちには「アニメの主人公です!」みたいな力みをせず、できるだけナチュラルに話してほしい、ついこの間まで中学生だった男の子なので子供らしさを忘れないでほしい、ということはお伝えしました。3人ともいろんな作品で主人公を演じられていますし、やったらやっただけかっこよくなってしまうので、そのかっこよさをあえて封印する方向で演じていただいています。現場でも3人そのままの関係性というか、花江(夏樹)さんと村瀬(歩)さんがわちゃわちゃしているところを、梶(裕貴)さんが常に気を配ってまとめてくれたりして、和気あいあいとしていました。
── 自分の置かれた環境から飛び出し、広い世界を目指すというのは、“よりもい”とも共通するテーマのように感じますが、相関関係はあるのでしょうか?
いしづか “よりもい”では南極へ行くというのが目的で、それに加えどれだけ友情や絆を描くかが最大のテーマだったので、実は世界の広さを知るとかちっぽけな自分を思い知るとか、そういった視点は掘り下げられていないんです。だからこそ、今回の話につながったというか。
スタッフさんたちに『…ドン・グリーズ!』の説明をするとき、よく“『スタンド・バイ・ミー』のその後”という話をしていたんですが、街に帰ってきて次の日に何をしたかとか、その次の年に何をしたかとかを描きたいとは伝えていました。世界の大きさを知ると、実際に何をするのか、何ができるのかの可能性も見えてくるはず。「僕らにできることは無限にあるんだ」と思えるような流れを作りたかったんです。
── 物理的な世界の広さだけではなく、自分の中の世界の広さという視点ですね。
いしづか 認識=世界ならば、自分が変わることで無限に広がっていきますからね。
── いしづか監督の作品はキャラクターの心の機微がとても丁寧に描かれていると感じますが、ドラマを作る上で大事にしていることはありますか?
いしづか 私の表現はどちらかというと伝わりづらい方じゃないかなと思っているんです。なぜかと言うと、まず正直じゃない。心の中で思ったことと違うことを口にしてしまうような場面が多いんですよ。たとえば、怒りの感情をストレートに口にするときにはむしろキャラの顔は怒らせないとか、そういう“ズレ”を積極的に使っているので、アニメらしくないリアリティが見えるというか、相反する情報がたくさんあるように感じてしまうのかもしれません。実際、その効果は狙っています。
── ありがとうございます。最後に、オリジナル作品を作る上で意識していることがあれば教えてください。
いしづか 最低限エンタテインメントにはしたいなと思っています。オリジナルを作るときってテーマを深く掘り下げていく作業が長いんですね。今回で言うところの“世界の広さ”なのですが、宇宙の真理を突き詰めていくみたいな思考に近くて、そうなってしまうとエンタテインメントであることよりもテーマをどう吐き出すかというところに集中してしまうんです。でもお客さんが観たいのは面白い映画。今回も少年3人の冒険譚と友情が起こす奇跡を描くという枠はキープしつつ、その中にどうテーマを忍ばせ、エンタテインメントとして形にするかはかなり意識しました。ロウマたちの冒険を楽しみながら、そんな“世界の広さ”に思いを馳せてもらえたらうれしいです。
取材・文:渡部あきこ
イベント撮影:内田涼
(C)Goodbye,DonGlees Partners
『グッバイ、ドン・グリーズ!』
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