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ぴあ 総合TOP > ぴあ映画 > Vol.4『お嬢ちゃん』『成れの果て』『N号棟』 女優・萩原みのり

Vol.4『お嬢ちゃん』『成れの果て』『N号棟』
女優・萩原みのりインタビュー

この3月に25歳を迎えたばかりの女優・萩原みのり。しかし2012年にCMデビューし、翌年には『ルームメイト』で映画デビューを果たしており、そのキャリアはすでに10年を超えた。特に近年の活躍は目覚ましく、『佐々木、イン、マイマイン』、『花束みたいな恋をした』、『街の上で』など話題作に立て続けに出演している。

そして3月24日に実施された『TOHOシネマズ ピックアップ・シネマ』プロジェクト第4弾では、萩原の特集が組まれた。上映されたのは単独初主演を果たした2019年公開の『お嬢ちゃん』と、昨年公開された主演作『成れの果て』の2本。これら2本に加え、4月29日より公開予定の主演作であるホラー映画『N号棟』について、萩原自身にインタビュー。どんな役もリアルに息づかせる萩原だが、何事にも真摯に向き合い続けるその姿勢が、リアルなキャラクターを生むのだろうと感じさせる言葉が返ってきた。

『お嬢ちゃん』の自然な会話にアドリブはなし
一言一句が脚本どおり

── テレビドラマを含め、話題作への出演が続いています。昨年、別の機会で萩原さんに取材させていただいた際に、「注目を浴びている実感がない」とお話しされていましたが、こうしてイベントまで組まれました。

萩原 「なぜ私を選んでいただいたんだろう」と不思議な気持ちですが、今回上映していただいた『お嬢ちゃん』は、作品自体のファンが根強くいらっしゃるんです。二ノ宮(隆太郎)監督のファンというか。最近、配信で観られるようにはなってきましたが、単館上映された後に観たいと思っても観られない作品だったので、今回のように映画館で上映していただける機会をいただけたのは、本当にありがたいです。『成れの果て』も同じく、映画を映画館で観られる期間って限られているので、こうしてもう一度機会を作っていただいてとても嬉しかったです。

── 『お嬢ちゃん』は役名も“みのり”ですが、アテ書きだったのでしょうか。

萩原 どうなんでしょう。私はそうは思いませんでしたけど。ただ、私が演じるならと二ノ宮監督が書いてくださったのは確かで、おそらく私のことが出ている記事などを読まれて、主人公のみのりが過去に新体操をやっていたといった要素を入れていったのだと思います。

── 自然な会話のキャッチボールに引き込まれる作品ですが、セリフは脚本に全て書かれているのですか?

萩原 一言一句ちゃんと書かれてます。

── それは驚きです。

萩原 頭のシーンから、すべてリハーサルをやりました。おそらくアドリブはひとつもないんじゃないかと思います。3人の男の人たちが話しているシーンや、パチプロのくだりなんかも、すごく生っぽいしナチュラルですけど、全てセリフどおりです。みなさん本当にお芝居が上手いから、エチュードのようにやったのを映していったのかなと思っている方もいるかもしれませんが、二ノ宮監督の脚本どおりです。

── かなりみっちりリハーサルをされたんですね。

萩原 2日間かけて全てのシーンをやりました。私も自分が出ていないシーンもずっと見学していました。この作品は少し独特で、ワークショップがベースになっているので、私以外の方たちは、「この映画に出たい」「二ノ宮作品に出たい」という強い思いがあって、ワークショップを受けにきていた方たちです。なので、そこに私だけ後から入っていったら嫌なんじゃないかなという懸念がありました。もし自分だったらモヤモヤするだろうなと。そのまま撮影に入るのは嫌だったし、この作品を皆さんと一緒に作っていきたいという気持ちが強かったので、自分が出るシーン以外も、全てのリハーサルを見学させていただきました。

── 本作の主人公も自分が納得できないことをそのままにはできない人ですが、萩原さん自身もモヤモヤしたまま前には進めないタイプですか?

萩原 時と場合によります。ただ、それを私は『お嬢ちゃん』の主人公のように、相手にぶつけるということはしません。自分の中でどうにかしたり、誰かに助けを求めることはあっても。だからそこは主人公とかなり違いますね。

『成れの果て』で小夜の涙が溢れたシーンは
カメラマンとの信頼関係があったからこそ生まれた

── 『成れの果て』は繊細で難しい作品です。最初は主人公・小夜の最後の選択に関して理解できなかったと、以前お話しされていました。

萩原 脚本を読んだとき、「なんで小夜は許したんだろう」というのが理解できなかったんです。でも小夜が許すか許さないかを決めるのは、演じる私だなと気づきました。行動としての選択、結末は変わらなくても、そこにある気持ちや、そこまでの感情次第で許していないと伝えられるのは、演じる私の気持ち次第だなと。もちろんお客さんがどう受け取るかは分からないところですが、でも私自身は徹底して絶対に許さないという思いを持ち続けて芝居しましたし、それを受け止めてくれたお客さんもいました。自分の思いが作品を通して伝わったことを映画の感想を見て知ったときに、やってよかったと思いました。もちろん、どう受け取るかは皆さんが決めてくださっていいことなんですけど。

── 特に心に残った感想はありましたか?

萩原 特定のワードではないのですが、私は、こうした作品をジャンル映画にしたくないんです。被害者の方がいるような作品って、ただのエンタメにしちゃいけない。ガワだけの面白みで作るようなことは絶対にしたくない。作品に入る前からも、公開後のインタビューでも、その思いは大事にしていたので、そこがちゃんと伝わったと思えたときは、ほっとしました。

── 本編で幼馴染の男性から心ない言葉をぶつけられ、そのあとひとりで泣き崩れるシーンが印象的でしたが、泣くというのは脚本になかったそうですね。無意識のうちにああした芝居になったのでしょうか。

萩原 カットがかからなかったので、脚本に書かれたセリフが終わってからも、小夜としてその場にひとりで居続けた結果でした。それに、目の前にはとても信頼するカメラマンさんがいました。自分がどう自由に動いても撮ってくださるという自信というか、信頼関係があったので、崩れ落ちるという芝居もできたんです。あのシーンのような画角では、カメラマンさんは立って撮っているので、本来は私はしゃがんじゃダメだと思うのですけど、あそこで全てが溢れたときに、小夜が立っていられるわけがない。それをちゃんと押さえてくれるカメラマンさんがいるという信頼関係のもとで成り立った、すごく大事なシーンでした。

新作ホラーでは限界まで達するも
今後自分がどうなっていくか楽しみ

── 幽霊が出ると噂の廃団地に訪れ追い詰められていく主人公・史織を演じた、新作『N号棟』についても聞かせてください。「本当に大変な現場だった」とコメントされています。

萩原 生きるとか死ぬとかって、リアルに生きている中でも身近なことではありますが、考えなくていいのなら考えなくてもいいことでもありますよね。でもこの作品中では、史織が死恐怖症の“タナトフォビア”なので、ずっと考え続ける必要がありました。死恐怖症の方たちが書いているブログを読んだり、集団自殺について調べたり、作品に入るまでの準備段階から、どうしても疲弊するというか。さらに現場でもどんどん追い詰められていったので、最後には、史織と同様に、私自身、限界まで達していました。

── 詳しくは言えませんが、クライマックスは特にすごかったです。

萩原 あのシーンは、遮光された部屋の中で6時間くらいかけて撮影したんです。たぶん誰もトイレとかにも行ってなかったと思います。シーンが変われば、気持ちも一度オフになると思うのですが、ひとつのシーンだけを撮り続けていたので、気持ちが途切れることもなく、ずっと心をぐちゃぐちゃにしていく作業を続けていました。

あの空間では、私以外の登場人物は、全員おかしくなっているんです。後半は何も考えなくても涙が止まりませんでしたし、自分がなぜ泣いているかももう分からない状態でした。地べたに座っている私を、みんなが見下ろしていて、獲物になったような気持ち。心配してくれるスタッフさんの目までも、ただただ怖かった。史織もそうだったと思いますが、私も本当にゼロになるまで、気持ちも体力も使いました。

── 新作を含め、生きづらさを抱えた人物を多く演じている印象です。ご自身も新体操を続けられなかった挫折経験があり、そこから立ち直れていないと、以前正直にお話しされていました。女優業は、そうした経験もプラスにできる職業だと感じますか?

萩原 そうしてもいいんだなと、芸人さんたちのエッセイなどを読んでいると感じます。カッコいい部分じゃないところもすごく出していますよね。どうしても芸能界に入ったばかりの頃は、「カッコつけなきゃいけないのだろう」とか、「カッコよくいなきゃいけない」「自信がなきゃいけない」と思っていました。でもそうじゃない人もいていいと言ってくれる人がいる心強さを感じたというか。芸人さんの本を読んだりラジオを聞いていると、すごくホッとします。

── そうなんですね。今年25歳になりましたが、CMデビューからは10周年になります。今後、どうなっていきたいですか?

萩原 現時点で皆さんが言われる萩原みのりのイメージにも「なぜそう思われるんだろう」と不思議に感じるときがあります。今後も、皆さん私の出演している作品を観て、「萩原みのりって、こうなんだな」といったことを感じていくと思うんです。なので私も、私自身がどうというより、どこか客観的に「萩原みのりって今後どうなっていくんだろう」と考えている部分が強いです。自分自身で方向を考えていても、そうはならないことの多い仕事ですし。これからは学生役からも離れていくでしょうから、ますます広がっていくと思います。今後どうなっていくか、不安でもあるけれど、楽しみです。

取材・文:望月ふみ
撮影:源賀津己

『N号棟』
4月29日(金)より全国公開
https://n-goto.com/

『お嬢ちゃん』
http://ojo-chan.com/

『成れの果て』
https://narenohate2021.com/

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