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ぴあ 総合TOP > ぴあ映画 > Vol.1<前編>『ベイビーわるきゅーれ』 阪元裕吾監督×髙石あかり×伊澤彩織

Vol.1<前編>『ベイビーわるきゅーれ』
阪元裕吾監督×髙石あかり×伊澤彩織

ガールズアクションの新時代を切り開いた『ベイビーわるきゅーれ』が昨年夏から現在も上映中という超ロングランヒットとなり、また2021年の間に『ある用務員』『黄龍の村』『最強殺し屋伝説国岡[完全版』と合計4本が公開ラッシュとなった阪元裕吾監督。昨年末には「TOHOシネマズ ピックアップ・シネマ」での特集上映も満員御礼となった注目の才能にインタビューを敢行。前後編となる第1回は、続編も決定した『ベイビーわるきゅーれ』の主演コンビ、髙石あかりと伊澤彩織との対談形式でお届けします!

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『ある用務員』に登場していたときから
“100万点”のふたりだった

── 『ベイビーわるきゅーれ』は好きすぎて何度も観に行ってるリピーターが続出していますが、どれくらいの反響を予想してましたか?

伊澤 もう10回超えとかの方がいらっしゃいますよね。7月30日に公開されたので、私、パンフレットに「今日、たぶん暑い日なんで、アイスでも買って帰ってください」みたいなことを書いたんですけど、もう寒くなって「おでん買って帰ってください」になっちゃうぐらいの長さで、ずっと上映しているのはすごいって思いました。

髙石 へえええ。

阪元 確かに。ほんまや。

── 『ベイビーわるきゅーれ』は、『ある用務員』で演じた髙石さんと伊澤さんが演じた女子高生の殺し屋コンビが基になってるわけですが、監督はおふたりをどこで発見されたんでしょうか?

阪元 髙石さんは、キャスティングの人が、この人は売れるから使っとけみたいな。

髙石 えええ? そうなんですか。

阪元 もう、絶対売れるから、みたいな(笑)。

髙石 いやあ、嬉しいです。

阪元 でも情報が(舞台版『鬼滅の刃』)の禰豆子しかなかったんで、どういう人なんか分からない。「うー」くらいしか言わんキャラやったからどうしようかなと思ったんですけど。もうその人を信じるしかなくて。

── じゃあオーディションではなくて。

阪元 そうですね。

髙石 ありがとうございます。

髙石あかり

阪元 伊澤さんはだいぶ前に。

伊澤 最初はTwitterでしたよね。

阪元 そうです。racikuというバンドの『高鳴り』っていうMVがあって、伊澤さんが日本刀を振り回す高校生の役をやってて、それを見てすごい人がおるんやなあと思って。

伊澤 突然DMをくれたんですよ。

阪元 がっつり顔も映るMVでオーラがあったんです。走ってるだけのカットもカッコよくて、『クリード』みたいやなとか思って。で、裏話を言うと『黄龍の村』っていう『ベイビーわるきゅーれ』より前に撮って後で公開された映画があるんですけど、あれにも1回オファーさせていただいた。

伊澤 そうなんですよ。でもスケジュールが、別の作品とちょうど被ってたのと、私が肋骨にヒビ入ってるときで、ちょっと満足がいく動くができないかなと思ったんで、断っちゃった。

阪元 まあその後に『ある用務員』で一緒にやれたんで、よかったなと思ってたんですけどね。漠然と3年くらい仕事をしたいと思ってたんで。

── 伊澤さんは普段はスタントパフォーマーで、セリフのある役は『ある用務員』がほとんど初めてだったんですよね?

伊澤 映画以外のところで、何度か出演しませんかみたいなお話をいただいたりはしてて。でもミュージックビデオはセリフもないし、1回NHKのドラマにも出させてもらったことがあるんですけど、そのときもセリフはほとんどないキャラだったので。俳優として映画に出演するのも『ある用務員』が初めてだったし、セリフはまだ少なかったですけど、でもちゃんとうまく喋れるのかな、みたいに不安ばっかりでしたね。

伊澤彩織

── 『ある用務員』の時点で、おふたりの主演で1本の映画としていけるっていう手応えは感じていたんでしょうか?

阪元 そうですね。ビジュアルとかも、あの映画の他の暗殺者たちには申し訳ないですけど一番イケてたんで(笑)。100万点……いや、100点?

伊澤 100万点って言われちゃった(笑)。

阪元 でも想像していたとおりというか、理想的なふたりになれたな、良かったなと思えたのが一番強かったんです。

阪元裕吾監督

── ただ、髙石さんは『ある用務員』のクランクアップで「こんなに銃を撃つことはないと思います」と仰ってましたよね。

髙石 そうですね。だから『ベイビーわるきゅーれ』のことはもちろん考えていなくて。ただ、そんなに経ってないくらいで主演でってお話をいただいて。

阪元 結構すぐでしたよね。

伊澤 撮影終わって、2カ月後くらいには。

髙石 お話を聞いて、「ホントに?」って。

伊澤 「え? ホントにいける?」っていう感じでしたね。

髙石 ただ撮影中に3人でスピンオフみたいなのがあったら面白いね、みたいことはちょっと喋ってた気がします。

阪元・伊澤 そんな話しましたっけ?

髙石 ええ?

阪元 全然覚えてないなあ(笑)。

伊澤 じゃあ、意外と有言実行だったんだ。

『魔女の宅急便』のような
女性に向けた物語を目指していた

── 『ベイビーわるきゅーれ』の企画を立てたのは監督だったんでしょうか。それともプロデューサー発信でしたか?

阪元 僕、『ある用務員』の企画を作ってくれた会社に毎日通ってたんです。プロデューサーのパソコンを借りて、編集室じゃなく会社のオフィスで、他の社員がいる中でひとりだけ『ある用務員』の編集してたんですけど。それで毎日ご飯連れて行ってもらって、いろいろ喋ってるうちに「あのふたりで作ってもおもろいかもな」という感じで出来上がっていったんです。プロデューサーとの関係性もあって生まれた企画でしたね。

── 『ベイビーわるきゅーれ』の女性のナチュラルな日常描写などを観ると、監督の作風が変わったように思うんですが。

阪元 まあ『最強殺し屋伝説国岡』『黄龍の村』『ある用務員』では、正直、殴り合いを撮ってるだけで満足してたんですよ。いいキャラが出てきて、しばき合って終わるだけの映画がなによりも撮りたかった。でも、その3本で結構、解消されてきたんですね。そこで作家として深度を深めようと思って、興味が湧いていたのが、日常、その瞬間、そのひとときを切り取るみたいな。是枝裕和監督とか今泉力哉監督みたいなことをやりたいなみたいなことを思って(笑)。

伊澤 なるほど。登場人物が現実に生きてるのかもって思えるくらい自然だもんね。

阪元 あともうひとつ、プロデューサー視点みたいなことで言うと、主演が女性ふたりやからって、アイドル映画っぽく客層を年齢高めの男性を想定するんじゃなく、なんとなくですけど、もうちょっと女性に向けた映画にしたいというのがあって。『魔女の宅急便』みたいな。魔女が都会に出て頑張って生きていくみたいな話じゃないですか。ああいうのを目指そうみたいな。

伊澤 おお、“魔女宅”って話は初めて聞きました。

阪元 でも、ちゃんと観たことがなくて、『ベイビーわるきゅーれ』を撮り終わってから初めて観たんですけど、やってることはまったく一緒やなあって。俺、こんなに宮崎駿監督とおんなじ感覚やったんや、ジブリやってもうてたって思いましたね(笑)。

── そういった作品としての狙いみたいなことは、事前に監督から話がありましたか?

伊澤 『ある用務員』のシホ、リカのキャラクターよりもっと生活味のある殺し屋にしたいというのは聞いてましたね。学校を卒業して、公共料金の払い方が分からない若者の悩みみたいな(笑)。私も未だに健康保険の督促状とか来て、「あれ? 払ったはずなんだけどな」って思ったりすることとかもあるので。殺し屋でも日常生活で誰もが抱える悩みみたいなものを持っていて、それを作品に落とし込んでいくというのは言われていました。

阪元 はい、最初に企画書にも書いてました。

伊澤 それをやるには、シホとリカのキャラクターじゃないよね、という話はしましたね。

髙石 台本をいただいて、ワーキャーしてるだけじゃない人間の裏と表みたいな部分がすごく面白くて。当たり前ですけど『ある用務員』とは全然違っていました。“ちさととまひろ”は“シホとリカ”ではないということはすごく伝わりましたね。私たちにしても、殺し屋をコメディに落とし込むにはどうしたらいいかという部分が一番の考えどころではありました。

伊澤 私にとっては『ベイビーわるきゅーれ』はだいぶセリフが多い映画だったんで、「まひろのセリフが多すぎない? 減らした方がいいんじゃない?」みたいなひと悶着はあったらしいんですよ。でも監督は「大丈夫じゃないですか」って言ってくれたみたいで。ただ私があまりにも不安すぎたんで、1回、本番に入る前に本読みみたいなことをやらせてもらったんです。「どうでしたか?」って聞かれて、あかりちゃんが「だいぶ私に似てるかも」って。私もまひろはリカとシホをやったときよりだいぶ素の部分でできると思った印象はあります。私、ホントあの日があってよかった。

髙石 あの日はそういうことだったんですね、なるほど。

阪元 『ある用務員』では、撮影の合間に控えてるときの髙石さんが、銃を持ちながら目がカッとなってて、ずっと図書室の端っこの暗いところで座ってて……。

髙石 え? ウソ? あんまり何も考えてなかったです。

阪元 そうそう。あんまり考えずにそうなってるのが面白くて、そういうところがちさとっぽさだと思って書きました。

── じゃあおふたりのキャラクターをベースにして当て書きをした感じですか?

阪元 はい。でも、テンプレっぽくならないように、あえて逆にしていこうみたいなことは考えてました。分かりやすく言えば、元気っ子とかメガネっ娘とか、そういうのにはしたくなかったので。

伊澤 まひろにバンドTシャツとか。

阪元 そうですね。あと意外とネイルしてるのはまひろみたいな。

髙石 あ、そうそう!

阪元 俺、衣装とかネイルのセンスって完全に理解できているわけではないんですけど、そこは衣装のスタイリストさんとかメイク部さんにお願いして。ちさとのCLIOやったっけ?

髙石 はい、アイシャドウのメーカーですね。

阪元 あの年頃の子が使ってるものとして絶妙らしいですね。そんなところを見てくれるお客さんがいるんやなって驚きましたけど。

髙石 でも、ほんとにそうだと思います。

阪元 だから自分のアイデアだけじゃなく、いろんな人の知恵を借りた感じでしたね。

“制服”と“恋愛”は排除する
明確に狙いとしてもっていた

── 『ある用務員』のときは、ある意味ではベタな制服姿の女子高生殺し屋でしたが、『ベイビーわるきゅーれ』ではそういうイメージは極力避けようという意識はありましたか?

阪元 やっぱり今までの日本映画の幻影ってあると思うんです。そこは違うようにしようとは思っていました。あと自分の中ではだいぶ攻めたなと思ってるところを言うと、「卒業しますよね、あなたたち」っていう話が出た次のシーンが、もう寮を追い出されて引っ越しなんですよね。

普通は高校を卒業するとなったら、ワンカットでも桜が舞う中で『仰げば尊し』が流れて、みたいなパターンがめっちゃ多い。そういう中にもいい映画はあるんですけど、個人的には制服を着てる人たちの色恋沙汰にまつわる映画って、僕がもう歳なのか全然分からんなとは思っていて。そういうものが日本映画の中心にあることへの疑問はずっとあったんで、今回は制服と恋愛要素は排除した方が際立つだろうというのはありました。作家としての精神性だけでなく、明確に狙いとしてもありました。

── 女性と男性の体格差を踏まえたアクションの見せ方も、ハリウッドよりも先に行ってるんじゃないかと思いました。

伊澤 男性が女性と闘うアクションシーンって体格差が無視されがちですよね。今までは女子高生がキレキレの蹴りをして男の人たちがポーン!って飛んでいくっていう図が本当に多かったんです。私も今までオファーをいただいて、女子高生の設定ばかり。私自身「20歳過ぎて女子高生?」「25過ぎて?」「26過ぎて?」っていつも言ってて。正直、『ある用務員』もそっちの枠でしたよね(笑)。日本人、女子高生と戦うの好きだもんなっていう気持ちでした。もちろん普通の私服の人が戦うより印象にも残りますし、象徴的なものがあるなとは思うんですけど。やっと『ベイビーわるきゅーれ』で制服を脱いでアクションをやらせてもらえたっていうのはありましたよ。

阪元 やっとだったんだ。

伊澤 たぶん『ベイビーわるきゅーれ』を女子高生の設定でやって、冒頭のコンビニファイトのときに私服の格好で敵の男たちに持ち上げられるのと、制服姿で持ち上げられるのとではだいぶ話が変わると思います。見え方としても、パンチラとかも気にしないといけなくなるし、そこは本当に阪元さんがようやく排除してくれた。やっぱりアクションを立ち回りより「パンチラ、太もも、おっぱい」で見せようとしていた例は多かったとは思いますね。だから立ち回りや攻防の部分をしっかりお客さんに見てもらえるのは、『ベイビーわるきゅーれ』で良かったと思うところですね。

── 『ベイビーわるきゅーれ』のおふたりは、アクションだけでなく芝居も素晴らしかったです。

伊澤 髙石さんは天才だと思いますよ。

阪元 例えばメイド喫茶のシーンの萌え萌えキュンでも、殺しちゃった後の表情でも、ひとつの演技に3つくらいフィルターがあるんですよね。あれはホンマにすごい。脚本に指示があるわけじゃないんです。

伊澤 本当に表情がすごい。

髙石 嬉しいです(笑)。

── そういった演技のニュアンスは、どこまで準備して現場に臨んでいるんでしょうか?

髙石 現場で自然とってこともありますけし、本番で使う使わないにかかわらず、本を2、3回読んで、実際に歩いてみたりするんです。それで歩き方がちょっと違うなとか、もっと右寄りかなとか考えますね。あと物を持つときにはどう取るのかなとか。この人ならコレはやらなそうだな、みたいな(笑)。

阪元 (パンフレットの付録の)ドラマCDでもおふたり完璧でしたよね。

髙石 あれは結構日が空いてたから「大丈夫かな?」って思ってました。

── ドラマCDは続編でもやるんですか?

阪元 ドラマCDはやるんじゃないかな。分からないですけど。でも倍くらいの内容で(笑)。

髙石 曲はどうするんですか? またふたりで歌います?

阪元 曲どうしようか?

髙石 次はバラードですか?

阪元 趣味的には、もうちょっと攻めた系の曲が好きなんですよね。

伊澤 ロック?

阪元 ガチガチに転調するみたいな。

伊澤 前半と後半ですごく違うみたいな?

髙石 それ面白い!『呪術廻戦』の主題歌みたいなの。

伊澤 やりましょう、やりましょう(笑)。

取材・文:村山章 撮影:稲澤朝博

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『ベイビーわるきゅーれ』
上映中