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【特典映像解説②】人類初の核実験はどうやって描かれた? 217分におよぶ特典映像でその裏側を知る

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第96回アカデミー賞で作品賞、監督賞など7部門に輝いた映画『オッペンハイマー』の4K Ultra HD & Blu-ray、Blu-ray & DVDが、9月4日(水)に発売になった。本作を手がけたクリストファー・ノーラン監督のファンは多く、彼の新作が公開されるたびに、その内容や撮影手法を紹介する記事が数多く登場するが、本アイテムの特典映像は彼の創作哲学や、その裏側を知るのに最適な内容になっている。

天才科学者の“頭の中”を描く

ノーラン監督は『ダークナイト』や『インセプション』『TENET テネット』など多くのヒット作を手がけており、どんな困難であっても可能な限りアナログで映画をつくることにこだわっている。撮影はフィルム、それも高精細な映像が得られる65ミリのIMAX撮影。CGを嫌っているわけではないが、可能であればどんな効果やエフェクトも実物を撮ろうとする。そして、全世界のノーラン監督ファンは彼のこだわり、強固な意思を支持している。

本作は天才物理学者J・ロバート・オッペンハイマーの半生を描いた作品で、彼が世界初の原子爆弾の開発に参加した「マンハッタン計画」のエピソードが中軸に据えられている。注目なのは、本作は第三者的な視点で描く“伝記映画”ではなく、オッペンハイマーの半生を観客が追体験し、彼が立ち会った“歴史が永遠に変わってしまった瞬間”に共に立ち会っているような描写が続くことだ。

映画の冒頭では若い頃のオッペンハイマーの姿が描かれ、彼の頭の中のイメージや、彼が想像する量子世界の光景がスクリーンに出現する。画面に不規則に広がっていく色、軌跡を残しながら弧を描く光の束、一面を焼き尽くす熱のイメージ……通常の映画であれば、CGを駆使して描くことが多い。

しかし、ノーラン監督はCGを使わずにこれらのシーンを表現したいと考えた。もちろん量子世界はあまりにも小さすぎてカメラで撮ることはできない。そこで視覚効果のプロフェッショナル、アンドリュー・ジャクソンがチームに参加した。『ダンケルク』や『TENET テネット』でもノーラン監督とタッグを組んだ彼は、仲間と共に“量子世界のイメージ”を物理的に描く実験を開始する。

特典映像に収録されているメイキング映像には、ジャクソンと仲間たちが試行錯誤を繰り返す様子や、彼らが本作のために開発したマシンが次々に登場する。円錐のような容器の中に小さな金属のボールを放り込み、電源を入れるとボールが回転しながら不規則に動き回る機器、水槽に塩水と真水を入れて階層をつくり、そこに着色した材料を放り込むことで幻想的な光景を作りだす“クラウド・タンク”を駆使したマシンなど、どれも科学実験をしているようだ。

その光景は特殊なレンズやカメラで撮影され、ノーラン監督のOKが出たものはIMAXカメラで撮影される。すべてがアナログ、すべてが新発明。この場面を観るだけでも本作のブルーレイを購入する価値がある。

ちなみに、劇中でオッペンハイマーがベッドの中で量子世界を幻視する場面が登場するが、ここに出てくるイメージもアナログで表現され、なんとカメラの前でノーラン監督本人が小道具を回した。お宝映像、と言っても良いこの光景も特典映像に収録されている。

歴史を変えた日をどう描くのか?

映画の中盤では人類初の核実験「トリニティ実験」の場面が描かれる。ノーラン監督とスタッフたちは実験が行われたロスアラモス国立研究所のセットを建て、資料を徹底的に調べてその内部も再現した。

特典映像には監督だけでなく、プロダクションデザイナー、リサーチャー、特殊効果、視覚効果のメンバーが登場し、撮影に向けた準備の過程や、取り組んだ課題が紹介される。実際に核爆弾を爆発させて撮影することはできない。さらにアングルを変えながら複数回は撮影する必要がある。

そこで彼らは核爆弾が設置された“トリニティ・サイト”をロケ現場に作り上げた。実際に30メートルあるタワーを建て、電柱が建っている場所や電線の張られ方も資料をもとに再現。リサーチャーは記録写真だけでなく、当時そこにいた人の証言も掘り起こし、機器の設置されていた場所や人が動く動線まで調べたという。

さらに爆発で起こる炎や光もカメラの前で作り出さなければならない。通常の映画は撮影が終わった後に視覚効果のメンバーが撮影された映像に効果を加えていくが、本作は撮影現場に視覚効果のスタッフも参加。爆発ひとつでもガソリン、マグネシウム、黒色火薬など複数の素材が持ち込まれ、それらが別々のタイミングで燃焼する緻密かつ壮大な作業が繰り返された。

劇場公開時には、その手法が具体的に公開されることはなかった“トリニティ実験”の場面。ブルーレイ発売のタイミングでついに“歴史を変えたあの日”がどのように表現されたのかが明らかになる。

なぜ、ノーラン監督はフィルムにこだわるのか?

ノーラン作品について語られる際、よく言及されるのがフィルム撮影、IMAX撮影だ。デジタル撮影が全盛になった現在でもノーラン監督はフィルム撮影にこだわっており、本作でも近作でタッグを組んでいる才人ホイテ・ヴァン・ホイテマが撮影監督を務めている。

4Kや8Kなどデジタル映像は日々、進化を遂げているが、本作の多くのシーンで使用された15パーフォレーション(フィルムの横に空いている細長い穴のこと)65ミリフィルムで撮影された映像の解像度は18Kに相当する。ノーラン監督はこの映像は「肉眼での見え方に近い」と語る。重厚なシーンでは撮影時の音が静かなSystem 65カメラが使用されたが、特典映像のメイキングを見ると、大半の場面で撮影現場に巨大なIMAXカメラが持ち込まれていることが分かる。

特典ディスクに収録されている『フィルムの革新:「オッペンハイマー」における65ミリ モノクロフィルム』は映画ファン垂涎の内容だ。撮影監督のホイテマがフィルム撮影、IMAX撮影の利点、魅力を語るだけでなく、彼が本作のために65ミリの大判のモノクロフィルムの開発をコダック社に依頼する過程や、本作の現像を手がけたフォトケム社のメンバーの証言が収録されている。

フィルムは撮影した後、化学的な処理(現像)を行わなければ観ることができない。現像液をどのバランスにして、フィルムをどのぐらいの時間くぐらせるのか? そのすべては経験がモノをいう職人の世界だ。フォトケムはロスに拠点を置くポストプロダクションの老舗で、1975年から自前の現像ラボを稼働させ、改善を続けている。

特典映像では彼らが本作のために、現像所をさらに改築する場面や、タイミング(色の調整)を追求する場面、最終的なネガのカッティングのためにパリからネガ処理の達人を招く場面など、映画ファンにたまらないお宝シーンが続々と登場する。

なお、フィルムでの全仕上げ作業が終わった後、フォトケム社ではデジタル版が作成されたが、特典映像にはフィルム版とデジタル版を同時にスクリーンに映して、フィルム上映時の見え方、色味に合わせてデジタル版を1カットずつ手で調整していく場面がある。

今回発売になった4Kディスクやブルーレイはもちろんデジタルの映像だが、その基になっているのは、プロフェッショナルがギリギリまでフィルムのルック、味わいに近づけた“こだわりのデジタル映像”だ。自宅で繰り返し『オッペンハイマー』の深みのある映像を楽しんでほしい。

<リリース情報>

『オッペンハイマー』

2024年9月4日(水) デジタル販売開始 4K UHD、ブルーレイ&DVD発売
2024年9月25日(水) デジタルレンタル開始

発売・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

※アウターケース(Oリング)仕様

【特典映像】
■現代の物語:メイキング・オブ・「オッペンハイマー」
1. 我は死なり
2. 先覚者たち
3. マンハッタン計画
4. 神は細部に宿る
5. この世界に生きる
6. 音楽は聴けるか?
7. 奇跡を起こす
■フィルムの革新:「オッペンハイマー」における65ミリモノクロフィルム
■ミート・ザ・プレス:「オッペンハイマー」Q&A
■戦争のない世界へ:オッペンハイマーと原子爆弾
■予告編集

(C) 2023 Universal Studios. All Rights Reserved.