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最終目的地は“映画館”。『オッペンハイマー』を大スクリーンで観たい3つの理由

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人々が未曾有のコロナ禍に巻き込まれたとき、世界中の映画館が休止になり、多くの新作映画がネットで配信された。その中で、新作を大スクリーンで公開することにこだわり続けた監督たちがいた。クリストファー・ノーランもそのひとりだ。

幼少期から映画館に魅了され、大きな画面で映画を観ることを愛し続けるノーランは、映画館で鑑賞されることを想定して新作を作り続けている。第96回アカデミー賞で作品賞、監督賞を含む最多7部門受賞に輝いた最新作『オッペンハイマー』は20世紀を生きたひとりの学者の半生を描いた作品で、ド派手なアクションシーンや格闘戦が描かれることはない。しかし、これだけは言える。本作もまた、映画館で観るために制作された!

物語に“入り込める”映像

クリストファー・ノーラン作品は、IMAXなどの大型カメラを用いて制作にあたることで知られている。『ダークナイト』で部分的に導入したIMAXカメラに魅了されたノーランは、新作を手がける度にラージフォーマット撮影の分量を増やしていき、本作も多くのシーンが65ミリフィルムで撮影された。

なぜ、多くの監督がラージフォーマットでの撮影にこだわるのだろうか? アクションやスペクタクルシーン、巨大な宇宙船が登場する場面を迫力ある映像で表現したい、と思っているフィルムメイカーは多いだろう。

その一方で、大きなカメラと撮影フォーマットが“俳優を余すところなく描く”メディアであることについては、あまり言及されない。高精細に撮影できるラージフォーマットは、俳優の表情の細かな変化や、ちょっとした仕草まで写しとる。スクリーンを観ているはずなのに、まるでそこに人がいるような感覚。映画『オッペンハイマー』がこのことを証明するだろう。

『インターステラー』、『ダンケルク』、『TENET テネット』に続いて、本作で初のアカデミー賞撮影賞を受賞したホイテ・ヴァン・ホイテマを撮影監督に迎えたノーラン監督は

「私とホイテが採用した撮影スタイルは非常にシンプルだが、力強いものだ。映画の世界と観客との間にいかなる障害もないこと、モノクロ映像以外、様式化されたところのない映像だった。特にカラー映像の場面は飾り気がなくシンプルな映像を望んだ。できるだけ自然で、世界の肌触りを伝えてくれるようなものだ」

と語る。

上記の作品をはじめ『007 スペクター』や『NOPE/ノープ』なども手がけるホイテマは、現代の映画界に欠かすことのできない撮影監督で、作品ごとに新たな手法、新たなルックに挑み続けている。本作で彼はアクションや巨大なモンスターではなく、人間ドラマを徹底的に微細に描き出すことに挑んだ。

「IMAXは、普通はスペクタクル用のフォーマットで、広い視野、壮大さを伝えるために使われます。撮影の最初から私の関心はクローズアップでも同じように力強いのかどうかにありました。我々は心理を撮影できるのだろうか? これを親密なメディアにできるのだろうか? これはいわば“口元に大金をかける映画”でした。物語がそれを要求したのです」

ノーラン監督は本作の映像は、観客が「物語とリアリティの中に入り込むことができる」ものだと宣言する。

「『オッペンハイマー』は大きな射程、スケール、視野を持つ映画だが、一方で私は観客にすべてが起こった部屋の中にいるように感じてもらいたかった。まるで自分がそこにいて、決定的な瞬間に科学者たちと一緒にいるかのように」

登場人物の感情を描く音楽

長らくノーラン作品の音楽は名手ハンス・ジマーが手がけてきたが、本作では前作『TENET テネット』に続いてルドウィグ・ゴランソンがスコアを手がけている。

本作で2度目となるアカデミー賞音楽賞を受賞したスウェーデン出身のゴランソンは、映画音楽だけでなく、音楽プロデューサーとしてチャイルディッシュ・ガンビーノ(ドナルド・グローヴァーのプロジェクト)や、ハイムなどの楽曲も手がける才人だ。緊迫感のある短い旋律と伝統的な音楽を融合させるのが得意で、『ブラックパンサー』ではアフリカ音楽と、『私ときどきレッサーパンダ』ではアジアンテイストの音色と自身の楽曲を見事に融合させた。

ノーラン監督はまず最初に、本作の音楽のベースにヴァイオリンを使うことを提案したという。

「ヴァイオリンがオッペンハイマーにはふさわしいように思えたんだ。チューニングが不安定で、演奏者の演奏や感情に全面的に支配される。非常に美しい瞬間もあれば、瞬時に恐ろしく不快にもなる。だからサウンドに緊張というか神経衰弱のような感じが出て、ロバート・オッペンハイマーの極度に緊張した知性と感情に合っていると思えた」

第96回アカデミー賞授賞式後にオスカー像を掲げるでゴランソン(中央)。同じく主演男優賞勝者となったキリアン・マーフィー(右)と編集賞を受賞したジェニファー・レイム(左)も誇らしげ

ピンと張りつめていながら、同時に“揺らぎ”も感じさせる音楽。ゴランソンはこのふたつを融合させるために実験を繰り返し、楽曲ごとに異なるアンサンブルで音楽を紡いでいった。彼は語る。

「音楽の核心はすべて有機的オーケストラによって導き出されます。それによって音楽に人間的なタッチが保たれるのです」

本作の音楽はスーパーヒーロー映画のように勇壮なテーマ曲や、アイコンになるような主題歌があるわけではない。しかし、音楽がオッペンハイマーをはじめとする登場人物たちの感情の動きを時に代弁し、アシストする。

ノーラン監督は「ルドウィグの映画音楽は人の心の内面に深く沈み込むと同時に、歴史のスケールを感じさせてくれる」とその手腕に賛辞をおくっている。

有機的に響き渡る音響

では、その音楽とセリフ、効果音をどのように映画館に響かせるのか? 『ダンケルク』や『TENET テネット』も手がけたリチャード・キングをはじめとするチームが本作の音響設計を担当した。

「可能ならばクリスは、当日に録音された音だけを使ったでしょう」とキングは語る。しかし、それは不可能だった。本作には大規模な爆破実験“トリニティ実験”のシーンがあるからだ。

キングは「爆発音は録音が難しいのです」と説明する。「爆発音の質を良くするのは録音する場所です。渓谷や塞がった谷間などで、そういう場所でないと、音がすぐ拡散してしまって、ただ大きなボンという音だけになってしまう。トリニティ実験の爆発音は他の爆発とは違っていなくてはならない。実験を目撃した証人は、実験直後に行われたインタビューで、全員が音について言及しています」

そこで彼は記録音声や証言、書籍にあたり、リサーチを重ねた。当時、実験に立ち会った者たちが語ったのは、榴弾砲が頭の脇で爆発したような音、貨物列車が通過するような音、長時間鳴り続ける奇妙な雷の音……どんな音か想像がつくだろうか? 『オッペンハイマー』のあるシーンでは“この音”が映画館に鳴り響く。

現代の映画の音は最終的にセリフや音楽、効果音などがデジタルの設備でミックスされ、映画館のデジタルサウンドで立体的に再生される。しかし、本作では元になる音はすべて“自然音”が使用された。

「目標は、あなたが実際にそこにいるかのように感じさせることです。私たちは、一切の電子音、シンセサウンドを排しました。私たちのサウンドデザインはすべて自然音を操作したものです。全部、世界のどこかで録音された実際の音に基礎を持っているのです」(キング)

本作のサウンドは、すべて自然音から生まれ、それらが有機的に絡み合い、“誰も聞いたことがない、しかし誰もが信じられる音”になっている。

映画『オッペンハイマー』は、映像、音楽、音響が細部までこだわり抜かれ、そのすべてが“映画館”を最終目的地にしている。通常版、IMAX、Dolby Cinema、35ミリフィルム版で全国公開される本作は、今後ブルーレイが発売され、ネット配信されることになっても、繰り返し映画館で上映されることになるだろう。ノーラン作品は“映画館で観る”ために存在しているからだ。

『オッペンハイマー』
3月29日(金)公開
公式サイトhttps://www.oppenheimermovie.jp/
(C)Universal Pictures. All Rights Reserved.
Photo:AFLO