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『オッペンハイマー』でクリストファー・ノーランはどんな“未体験の世界”を描くのか?

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第81回ゴールデングローブ賞で最多5部門を受賞し、第96回アカデミー賞で最多13部門にノミネートされたクリストファー・ノーラン監督の最新作『オッペンハイマー』。ノーラン監督はこれまで数々の作品で、観客を大スクリーンの映像で包み込み、“誰も体験したことのない世界”に誘ったが、最新作で彼は何を描くのだろうか?

衝撃作を描き続ける男クリストファー・ノーラン

クリストファー・ノーラン監督

1970年に英国で生まれたクリストファー・ノーランは学生時代から映画をつくりはじめ、1999年に『フォロウィング』で長編デビューを飾った。主人公の青年は、気になった相手を尾行して観察する趣味を持っているが、あるとき、尾行相手が自分の存在に気づいたことから想像もしなかった展開が描かれる。往年の犯罪映画を思わせる陰影に富んだモノクロ映像で語られる物語は短い断片の積み重ねで構成されており、時系列が意図的に組み替えられている。何げない出来事も、次のシーンの登場によって“過去の出来事”だったと分かる、謎のシーンが物語が進むことで新たな意味を帯びてくる……巧みな構成で我々の日常を“組み替え”てしまったような感覚を味わえる本作は、ノーランの名前を映画ファンの脳内に鮮烈に刻んだ。

彼の存在が全世界的に注目され、ブレイクを果たしたのが続く長編『メメント』だろう。妻を殺されたショックから記憶を10分間しか保っておけない主人公が、忘れてはいけないことを身体にタトゥーとして刻みながら、妻を殺した犯人に迫っていく。ストーリーはエンディングから始まり、物語が進むごとに時間を逆向きに進んでいくことで、“犯人探し”という定番のストーリーが一気に予想のつかないドラマに変貌する。観客は思ったはずだ。「知っているタイプの映画なのに、こんな映画は観たことがない」

『メメント』

2002年の『インソムニア』を挟んで、2005年製作の『バットマン ビギンズ』から始まる“ダークナイト三部作”が、ノーラン監督の評価を決定づけた。誰もが知るヒーロー、バットマン=ブルース・ウェインの物語を、ノーラン監督は“主人公の内面”に焦点を当てて描いていった。ブルースはなぜバットマンになったのか? 彼が悪党と戦っているとき、その内側にはどんな感情が渦巻いているのか? トリロジー全作品が高い評価を集めている。

他にも、ふたりのマジシャンを主人公にしたサスペンス『プレステージ』や、実在の出来事をベースに描かれる戦争劇『ダンケルク』など挑戦的な作品を次々に発表。製作規模の大きさ、話題性、ヒットの規模の大きさも含め、現代の映画を語る上でノーラン監督の存在は欠かすことができない。

スクリーンを通して遭遇する“未体験の時空間”

彼の描く作品は、アクション、サスペンス、家族のドラマ、ラブストーリーとジャンルがミックスされているが、常に大規模な撮影で、スクリーンで観たくなる壮大なスペクタクルが盛り込まれている。それは“鑑賞”でありながら“体験”と呼ぶほど緊迫感とリアリティのある内容で、ノーラン作品のファンはひとつの映画を繰り返し観ることが多いようだ。ノーラン監督は語る。

「映画は、物語を語るメディアだから、観客を主観的な経験の中に引きずり込み、登場人物が判断する出来事に、自分だったらどう判断するか考えさせるのに適している」

ノーラン作品にはいつも無駄な“説明”はない。どんな入り組んだ世界が舞台でも観客は主人公と一緒になって作品世界に入り込み、気がついたら、日常では体験できないような場所に行き、これまでに考えたことのないような問題や感情に直面する。

『インセプション』では不思議なマシンを駆使して主人公たちが寝ている人間の“夢の中”の世界に迷い込む。現実の物理法則やルールがまったく通用しない世界は、迷路のようであり、騙し絵のようであり、同時に鏡の中の世界のよう。カメラはこれまで観たことのない世界へ、さらにその奥へと歩みを進めていく。

『インセプション』

『インターステラー』で主人公たちは、遠い宇宙を目指した。地球を出発し、土星の近くにあるワームホールを通り抜けてさらにその先へ。そこにあったのは、これまでのSF映画であまり描かれることのなかった世界だ。そこでは地球の重力の感覚からは想像もできない空間が広がっており、苛烈な経験をしながら主人公はついに私たちの時間の概念を覆すような経験をすることになる。観客はマシュー・マコノヒー演じる主人公と共に宇宙に出かけ、ついには過去・現在・未来が連結している時空間を体験するのだ。

『インターステラー』

では、過去と未来が自分の目の前で“交差”するように存在したとしたら? 文字で書いていると何のことかイメージが沸かないかもしれない。しかし『TENET テネット』を観れば、その体験ができる。時間を逆行させることのできる装置“アルゴリズム”が存在する世界で、特殊工作員の主人公は次々に驚く場面に遭遇する。時間を司る扉が開いた瞬間、時間は一瞬にして逆転し、観客は目の前に広がる光景に衝撃を受けることになるだろう。

ノーラン監督は、いつも“まだ誰もつくっていない”作品を生み出そうとする。結果、すべてのプロジェクトが挑戦的なものになる。その強い意志、志の高さ、チャレンジ精神に映画ファンは魅了される。観客は監督の導きで、映画館から“未体験の時空間”に旅に出る。それこそがノーラン作品の醍醐味だ。

『オッペンハイマー』はどんな“未体験”を描くのか?

そんなノーラン監督の最新作『オッペンハイマー』はどんな映画になるだろうか?

伝記などに描かれるオッペンハイマーは天才物理学者で、第二次世界大戦下に“あるアイデア”を思いつく。それは、彼の知的好奇心や研究への情熱を掻き立てるものだが、同時にその研究は“世界の在り方を根本的に変えてしまうかもしれない”ものだった。もし、あなたの目の前にそんなアイデアがあったとしたら、どうするだろうか? それは自分の人生をかけてもいいほどのチャンスだ。しかし、同時に世界を破滅させてしまうかもしれないリスクでもある。あなたはそんな状況に立ったことがあるだろうか?

『オッペンハイマー』

フィクションの世界ではよく“世界を破滅させるボタン”や“世界を劇的に変えてしまうスイッチ”が登場する。リチャード・マシスンの小説『死を招くボタン・ゲーム』には“押すと世界のどこかであなたがたの知らない人が死ぬかわりに、あなたに5万ドルが手に入るボタン”が登場する。その瞬間、登場人物は試される。日常では絶対に経験しないであろう感情が湧き起こる。

そんなボタンを目の前にした男が“実際に”いたとしたら? 多くの人は(教科書に載っている著名な科学者でさえ)そんな状況に置かれたことはない。しかし、オッペンハイマーはそんな状況に立ったのではないだろうか?

ノーラン監督は、オッペンハイマーが直面したジレンマを映画の中でどのように描くだろうか? 人間の夢の中より複雑で、ダークヒーローになるより闇が深く、宇宙の果てに行くよりも結果が予想できない問題、迷い、そして決断。

これまでのノーラン作品同様、最新作『オッペンハイマー』も観客の予想を遥かに超える“未体験の世界”が渦巻くものになりそうだ。

『オッペンハイマー』
3月29日(金)公開
公式サイト:https://www.oppenheimermovie.jp/
(C)Universal Pictures. All Rights Reserved.
Photo:AFLO