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【ぴあテン:アート】ぴあ執筆陣が選ぶ2025年のマイベスト

2025年の美術展を総ざらい!「ぴあアプリ/WEB」の執筆陣が、今年開催された展覧会の中から私的ベスト10を決定。特に印象深かった3本についてコメントをいただきました。さらに2026年のアートシーンへの展望や、注目の展覧会についても教えていただいています。あなたのとっての「マイベスト」はどの展覧会でしたか? 1年を振り返るアーカイブとして、そして来年の鑑賞スケジュールを立てるためのガイドとして、ぜひお楽しみください。

今年は大阪万博2025の開催に伴い、関西で華やかな展覧会が続々と開催されました。その反動か、関東地方では、非常に渋いというか派手さはないものの、あとからじわじわ思い返すような展覧会が多かったような気がします。東京ステーションギャラリーで開催された『生誕120年 宮脇綾子の芸術 見た、切った、貼った』は、40歳からアプリケ(アップリケ)の制作を始めた宮脇の作品と人生を振り返る展覧会で、彼女の独創的な着眼点に圧倒されました。スルメや干し柿が古い布を使ったアプリケになったとたんに、こんな生き生きとしてくるなんて! 宇都宮美術館の『ライシテからみるフランス美術――信仰の光と理性の光』は、ライシテという日本ではなじみのない、フランスの政教分離のスタイルから美術を読み解いていくという、フランス本国ではセンシティブすぎて絶対開催できない展覧会。東京から少し遠い宇都宮というところでこんな激渋(かつ、非常に意義深い)な企画が行われているのに感動しました。

そして、広報しないことが著しい広報効果を出した東京国立近代美術館の『コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ』。戦前、戦時中の体制やプロパガンダと美術の関わりについて真摯に向き合った展覧会でした。現在進行中でさまざまなプロパガンダの渦に巻き込まれながら生活している私たちに、立ち止まって考えることの大切さも教えてくれたような気がしています。

『生誕120年 宮脇綾子の芸術 見た、切った、貼った』

*これも良かった!*

●2026年のアートはこれに期待!

2026年は久々に大きめの展覧会、いわゆる「ブロックバスター」展が多く開催されます。ブロックバスター展は批判が多いものの、たくさんの人が美術にふれるきっかけを作れる点はすばらしいと思っているので、どんどん増えてほしいと思っています。なかでも国立新美術館の『テート美術館 - YBA&BEYOND 世界を変えた90s 英国アート』『ルーヴル美術館展 ルネサンス』や東京都美術館の『オルセー美術館所蔵 いまを生きる歓び』のような名品展、そして上野の森美術館の『大ゴッホ展 夜のカフェテラス』や東京都美術館の『アンドリュー・ワイエス展』などの回顧展が楽しみであります。

2025年、いつもの年より少ないながらも、古今東西、バランスよく展覧会を見ていたつもりだったのですが……、ベスト3となると、見事に西洋美術の王道展に偏ってしまいました。まず『西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで』は、タイトルの感じから初心者向けの軽いお勉強系展覧会なのかな? と思っていたのですが、いざ会場に入ってみるとスルバランやムリーリョなどスペイン絵画の巨匠たちの名品が満載。しかも国立西洋美術館のコレクションも負けていない! と、良い意味で期待を裏切られた展覧会でした。

『ルノワール×セザンヌ―モダンを拓いた2人の巨匠』『オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語』はどちらも印象派界隈を紹介する美術展。前者は同じ印象派から出発したルノワールとセザンヌが、全く違う手法でモダンを切り拓き、それぞれの地平にたどりつく様子を、主にオランジュリー美術館の名品で紹介していました。2人の個性が際立つ比較展示は見事でしたが、特に「自然を円筒形と球形と円錐形で扱」おうとしたことがわかるセザンヌの作品は、非常に興味深く鑑賞しました。後者は印象派の青春を写したスナップ・ショット《バジールのアトリエ(ラ・コンダミンヌ通り)》から始まるところがもう胸熱。「室内」というテーマを設けたことで、お馴染みのオルセー美術館の名画が一味も二味も違って見えたことが新鮮でした。

『西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで』(国立西洋美術館)展示風景

*これも良かった!*

●2026年のアートはこれに期待!

2026年、楽しみにしている展覧会は、2025年、千葉県立美術館に見に行かなかったことを悔やんだ『没後50年 髙島野十郎展』(豊田市美術館、大阪中之島美術館、渋谷区立松濤美術館、宇都宮美術館)、オルセー美術館がモネの代表作を出血大サービスしてくれる『モネ没後100年 クロード・モネ ー風景への問いかけ』(アーティゾン美術館)、でっかい髑髏がゴロゴロ見られる『ロン・ミュエク』(森美術館)です。

戦後80年の今年。他館からも作品を借用した企画展規模で、当時のメディアなどの資料とともに戦争記録画を通じて当時を省察した『コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ』はやはり学びが多かった。東京国立近代美術館の所蔵作品展で、たとえ一室でも戦争記録画が日常的に展示されていることも大切に思っているので、一過性の動員に終わらず、誰もが立ち寄るようになればいいなと思う。

『戦後80年―戦争とハンセン病』は、国立ハンセン病資料館としょうけい館との共同企画。特に戦時の沖縄愛楽園に焦点を当てた展示が印象に残る。企画した学芸員の吉國元が、猛暑の中、愛楽園の水タンクから写しとった砲弾痕の巨大な拓本が距離や時間を超えていた。彼はアーティストでもある。

現代美術からの応答も色々あったが、いずれにも通底する「近代」から続く問題に対して、個人と集団の記憶を「歌」「声」として全身で受け止めて空間に解き放った山城知佳子と志賀理江子に圧倒された。併せて、ゲストを招いて行われた土曜講座も、歴史や社会問題を作家や研究者とともに考えることができて有意義だった。

また、母を自宅介護していることから、今年はケアにまつわるアートプロジェクトも取材。宮田明日鹿の「手芸部」プロジェクト(今年は珠洲で取材できた)、デイサービス楽らくや袋田病院など福祉・医療施設におけるアーティスト・イン・レジデンスなど継続的なプログラムに新しい発見があった。

『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山城知佳子×志賀理江子 漂着』

*これも良かった!*

●2026年はこれに期待!

大阪・関西万博が開催されたので、美術展も便乗、しかもこの国の最高峰のもの、国宝を見せようという展覧会が京都、大阪、奈良であり、僕は全部見たけれど、奈良博の一人勝ちとしておく。キャリア長い日本美術ファンはもう国宝という言葉に釣られない。国宝はたいてい見たことがあるものだから。それと映画『国宝』の大ヒットで、国宝という言葉の意味もしばらく漂流するだろう。むしろ『日本美術の鉱脈』みたいな、こんなの見たことない、何、これ、でも愛しい日本美術に惹かれる。ルイジ・ギッリは個人的に30年来のファン。日本の美術館での個展バンザイ。作品選定には言いたいことはあるが実現だけでも大収穫だ。

カラヴァッジョの絵、全点踏破を目標にして、シチリアの田舎町やマルタ共和国の教会など訪ね歩いているので今年のローマの『カラヴァッジョ2025』は当然、見参。2日連続で見た。キリスト教ジュビリーイヤーだからこその実現。次は25年後か50年後か。一度ハマると、スタンプラリーの如く巡礼したくなるのは良い習慣か悪癖か。そうやってフェルメールもレオナルドも征服した。今年は円安と物価高で海外は遠かったが、その分、京都、大阪、直島には複数回、名古屋、奈良、金沢、富山、岡山、広島、益田、弘前などに行った。

『奈良国立博物館開館130年記念特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」』

*これも良かった!*

●2026年のアートはこれに期待!

2026年、今から楽しみにしてるのは日本美術なら狩野山楽・山雪の襖絵が見られる『妙心寺 禅の継承』(大阪市立美術館)、西洋美術は久しぶりのレオナルド来日、『ルーヴル美術館展 ルネサンス』(国立新美術館)、現代美術は杉本博司の写真仕事を見渡す『杉本博司 絶滅写真』(東京国立近代美術館)、そして我らの時代、YBAのインパクトをあらためて『テート美術館 - YBA&BEYOND 世界を変えた90s 英国アート』(国立新美術館、京都市京セラ美術館)

2025年の日本の展覧会シーンを振り返ると、美術の価値や読み方そのものを問い直す企画が各地で際立っていました。なかでも奈良国立博物館の『超 国宝―祈りのかがやき―』は、仏教美術に的を絞った、奈良でしか実現し得ない充実した内容であり、国宝級の仏教彫刻・工芸・絵画が一堂に会することで、日本の宗教文化の厚みを体感させました。これに対し、京都の『宋元仏画』展は、淡墨の階調や線の呼吸を極めて純度の高い形で示し、静謐な展示空間の中で宋元仏画の精神性と祈りの時間を丁寧に可視化した企画でした。

一方、宇都宮美術館によるフランス美術の再解釈企画は、国内に所蔵される西洋絵画を“ライシテ”という新しい視座で読み替え、宗教・国家・市民の関係性を日本の鑑賞空間で考え直す試みとして大きな意義をもちました。三展に共通するのは、名品を並べるだけではなく、美術の背後にある思想や制度に光を当て、鑑賞者に「美術をどう見るか」という根本を問いかけた点であり、2025年の鑑賞を一段深める重要な出来事となりました。

『ライシテからみるフランス美術――信仰の光と理性の光』(宇都宮美術館)

*これも良かった!*

●2026年のアートはこれに期待!

東京で開催される大型企画だけでなく、地方美術館が独自の視点で挑む企画展がいっそう存在感を増していく年になりそうです。各地の館が地域の歴史・文化資源を再解釈しながら、国際的なテーマや現代的課題を取り込む動きが活発化しており、鑑賞体験の幅は確実に広がります。2026年は“東京一極”ではなく、“全国で美術が育つ年”。地方から生まれる新しい企画にこそ注目していきたいと思います。

中山ゆかり(ライター)

2025年は、大阪・関西万博に合わせて、関西を中心に国宝展など日本美術の紹介展が充実し、またNHKの大河ドラマにからみ、浮世絵に関わる展覧会が様々な切り口で開かれていたのが印象的だった。戦後80年、昭和元年から100年の節目を意識して、館蔵品やテーマを掘り下げた展覧会も多かった。また、複数館で連携して調査研究と企画を進める傾向はさらに高まり、海外との協力展も目を引いた。

各地で芸術祭が開かれた賑やかな一年だったが、東京近郊の美術展にしか足を運べていない。したがって、ごく限られた選択だが、特に記憶に残ったのは『記録をひらく 記憶をつむぐ』。通常は常設展で数点の展示があるのみの大作の「作戦記録画」が多数並ぶとともに、戦争に関わる多くの作品と当時のポスターや写真、雑誌、映像といった資料も充実し、さらに詳細な解説が加わることで、美術が戦争をいかに記録したかを丁寧に見せてくれた。外国人も含め、多くの来場者が実に熱心に解説を読みながら作品を見ている様子が印象深く、記録をいかに記憶としてつないでいくかという展覧会のひとつの趣意を大勢の来場者が共有している感が強かった。

『時代のプリズム』は、グローバル化が進んだ20年間に日本で生まれた革新的表現に光をあてたもの。当初の展示を同時代で観た者には「懐かしさ」も強いが、ある運動や作家を掘り下げた各論的な展覧会とはまた異なる、その時代を俯瞰する展観が近年では新鮮だった。香港の美術館「M+」との協働企画で、国内外の多視点を取り入れるという点でも意義があったと思う。

川村記念美術館の『西川勝人 静寂の響き』は、ドイツを拠点とする美術家の日本初となる大規模回顧展。光あふれる広大な展示室の迷路を思わせる静謐な空間で、抽象的なフォルムの白いオブジェを訪ね歩く巡礼のような体験は本当に特別なものだった。数々の美しい展覧会を開催してきた同館の千葉・佐倉での活動が終わったことは残念だが、その最後を飾るにはぴったりな企画展だったと感じられた。

『時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010』展示風景

*これも良かった!*

●2026年のアートはこれに期待

2026年は、西洋の美術館のコレクション展が充実した年になると思う。どれも楽しみだが、なかでもリトアニアから34年ぶりに来日する『チュルリョーニス展 内なる星図』(国立西洋美術館)に心惹かれている。また、『ピカソmeets ポール・スミス 遊び心の冒険へ』(国立新美術館)は、ファッション・デザイナーのポール・スミスがアート・ディレクターを務め、パリ国立ピカソ美術館のコレクションを展示する国際巡回展。こちらは、来日する作品とともに、遊び心が満ちあふれているであろう展示手法にも期待したい。

2025年は戦後80年ということで、戦争にまつわる展覧会に見応えのあるものが多かった。特に東京国立近代美術館の『記録をひらく 記憶をつむぐ』は、同館が所蔵する藤田嗣治、宮本三郎、小磯良平らによる戦争記録画24点(同時期開催のコレクション展を合わせると30点)が公開され、戦争画に向き合う初の大規模な展覧会となった。でもタイトルを見てもだれも戦争画の展覧会だとは思わないよね。

田川市美術館の『陳擎耀(チェン チンヤオ)展』は、藤田の《アッツ島玉砕》の死闘を演じる兵士たちをAKB48のメンバーに置き換えるなど挑発的だが、作者が台湾人だと知るとまた別のニュアンスを帯びてくる。兵庫県立美術館の『藤田嗣治×国吉康雄』は、パリとニューヨークを舞台に活躍した同世代の画家の接点を探る企画だが、この2人の関係にも戦争が深く影を落としていたことがわかる。

写真を丸写ししたような凡庸な写実絵画には興味ないが、諏訪敦と水野暁の作品は「絵を描く」ことの限界に近づこうとしている点で見ていて飽きない。

『藤田嗣治 × 国吉康雄 二人のパラレル・キャリア ― 百年目の再会』メインビジュアル

*これも良かった!*

●2026年のアートはこれに期待!

戦後80年の節目となる今年は、戦争をテーマにした展覧会を数多く見てきました。画家によって、立場によって、世代によって、変わる戦争の時代の記録を学んだ1年になりました。東京国立近代美術館で開催されていた『記録をひらく 記憶をつむぐ』は、まさに戦争の時代に描かれた絵画を中心とした展示です。芸術だけでなく、当時記録された手紙、ラジオ、新聞などのメディアによって伝えられた記録の資料も充実していました。

同じく戦争をテーマにした川崎市岡本太郎美術館の『戦後80年《明日の神話》次世代につなぐ 原爆×芸術』展は、岡本太郎の作品と現代アートが融合した展示空間が魅力的でした。岡本太郎さんのベトナム反戦広告のメッセージで出された「殺すな」の文字がとても印象的でした。最後に、京都国立近代美術館で開催された『若きポーランド』展では、どこか不穏な雰囲気を醸す色彩で描かれる風景画がとても良かったです。あまり見る機会のない国の芸術の紹介がとても嬉しかったです。

『〈若きポーランド〉-色彩と魂の詩 1890-1918』(京都国立近代美術館)

*これも良かった!*

●2025年のアートはこれに期待!

展覧会では、『アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦』(東京国立近代美術館、兵庫県立美術館)、『戦後80年 戦争と子どもたち』(板橋区立美術館)、『プラカードのために』(国立国際美術館)は、絶対に見たいです。今年こそ、関東、関西だけじゃなく、日本全国の美術館を巡り、各地のコレクションを見てきたいです。